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未来のことを考えよう~オボロアナグマの肉うどんを添えて~6

「お待たせしました~!」


 リズベスさんが捌いたオボロアナグマを皿に載せて、ダッシュで厨房へと戻って来る。

 さっきまでは『いかにも狩猟された獲物』という様相だったオボロアナグマは、リズベスさんの手によって見事な食肉へと変わっていた。

 俺は、皿の上のオボロアナグマをまじまじと観察する。

 赤味が濃く霜がたっぷりと乗った肉は、丁寧に育てられた食肉のような美しい見目だ。こんなに赤味が濃くなければ、和牛と見間違えたかもしれないな。すんと匂いを嗅いでみたが、臭みのようなものは一切感じられない。たしかに、これは美味そうだ。


「すごいですね。野生のものと思えない、いい肉だ」


 俺は肉をためつすがめつ眺めてから、感嘆の息を吐いた。


「そうでしょう。この細かくお肉に走る網目状の脂には旨みがたっぷり詰まっていて、噛みしめるとじゅわっと旨みが口内で散る……らしいです。こんな高級肉、私は食べたことないので聞きかじりですけど」


 リズベスさんはそう言うと、照れたように笑う。そのはにかんだ笑みはとても愛らしく、見ていてほっとした気持ちになる。うん、リズベスさんは癒やし系だな。

 周囲では皆がくじを引き、悲喜こもごもといった感じで声を上げている。

 ……本気で泣いている人もいるな。オボロアナグマ、恐るべしだ。


「捌くのを手伝ってくれたお礼に、肉をたくさん盛りつけますね」

「わぁ! 本当ですか!」

「くっ……。たくさんですって……!?」


 表情を輝かせて喜ぶリズベスさんの後ろで、パルメダさんが悔しそうな声を出す。……パルメダさんはくじ引きに敗れたらしいな。

 アリリオ殿下は「半分こ……」とつぶやきながら、頰を赤くしている。思春期の少年は大変だな。

 ところで。ふだんの我が家では、生地をジッパーバッグに入れてよく踏む……という方法でうどんの生地を仕上げている。

 そうすると、よい感じに麺にコシが出るのだ。しかし……。

 この世界にはジッパーバッグなんてものはなく、紙や板を乗せて踏むのは衛生的に心配だ。

 皆が俺の作ったもので食中毒なんかになったら、たまったものではない。生きづらいことこの上ないことになってしまうだろう。

 足で食べ物を踏むことに対しての、心象もよろしくないだろうしな。

 仕方がないので、今日は手打ちにしよう。そう決めた俺は、額に汗をしつつ休ませた生地をしっかりと手で捏ねていく。そして捏ね上がった生地をまた丸めてから、濡れ布巾をかけた。このまましばらく、生地は寝かせておくことになる。


「今のうちに、トッピングを作るか」


 そう決めた俺は、今度はオボロアナグマの肉と向き合った。見れば見るほど美味そうな肉に、自然に胸と高鳴っていく

 オボロアナグマの肉を手にして、まな板の上に置く。薄切りにして、甘辛く煮てしまおう。

 醤油がないこの世界だから、味つけのベースはコンソメになってしまうが……。

 元の世界でもコンソメの煮物はあったので、まぁ問題はないだろう。

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