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未来のことを考えよう~オボロアナグマの肉うどんを添えて~5

「なんだか楽しそうなことをしているな」


 そんなふうに声をかけられそちらを見ると、アリリオ殿下とパルメダさんが立っていた。

 料理人たちは彼らを見て、慌てて臣下の礼を取る。そんな彼らにアリリオ殿下は「楽にしてよい」と一言告げてひらりと手を振った。


「ショウ殿。なにを作っているのですか?」


 パルメダさんがキラキラと目を輝かせながら、俺の手元を覗き込む。

 ……行動がほとんど椛音と一緒ですよ、パルメダさん。


「麺料理を作って、オボロアナグマの肉を載せる予定です」

「なんと……オボロアナグマの! それは私も食べてよいものですか? よいですよね? ええ、当然よいですよね?」


 期待に満ちた表情で見つめられ、さとどうしたものかと思案する。

 パルメダさんはハイオークから守ってくれた恩人だし食べさせてあげたい気持ちはやまやまなのだが、そうなるとくじで食べられる人数が一人減ってしまう。


「僕も当然食べていいよな」


 アリリオ殿下が腕組みをしながら、さらに口を挟んでくる。

 料理人たちはそんな俺たちのやり取りを、固唾を呑みつつ見守っていた。

 ……自分たちの取り分に関わる話だもんな。


「えっと……今料理人の方々がくじ引きで食べる権利を争っているところでして。殿下たちもあちらでくじ引きにご参加ください。ここは、公平にいきましょう」


 これが一番公平な手段だよな。うん。

 身分制度というものがあるこの国で貴族や王族を優遇しないのはいけないことなのかもしれないが、俺は異世界人なのだからそんなことは知らないということにしておこう。


「そんな……」

「僕は王族だぞ」


 パルメダさんは絶望という表情になり、アリリオ殿下は眉間に皺を寄せて不服そうな顔になる。

 水回しを終えた俺は生地をしばらく揉み込み丸くまとめてから、少し休ませるために濡れ布巾で包んだ。


「ええーアリリオ、身分を盾にずるっこするの?」


 アリリオ殿下の脇腹あたりを肘でつんつんと突きながら、椛音が意地悪な表情で言う。

 肘で小突かれている殿下は、好きな女子とのコミュニケーションにどこか嬉しそうな表情だ。

 ……青春だなぁなんて思いながら頰を緩めつつアリリオ殿下を見ていると、俺の視線に気づいた殿下は慌てて表情を引き締めた。


「そう言うカノンは、くじ引きに参加するんだろうな?」

「私は参加しないよ。オボロアナグマの提供者だもん。当然、食べる権利はあるよね?」

「あれは僕も一緒に倒しただろう!」

「……そう言われれば、たしかにそうだね」


 あれはアリリオ殿下と狩ったものなのか。それなら早く言いなさい。

 椛音は少し考え込んだあとに、いいことを思いついたとばかりに手をぽんと叩いた。


「じゃあ、私と半分こする?」

「はんぶん、こ? カノンのものを分けてくれるということか?」


 提案を聞いて、アリリオ殿下は目を丸くする。


「うん、量は半分になっちゃうけどね。あっ、アリリオって人と分けっこするのダメな人?」

「いや! 平気だ! ぜひ半分こしたい!」

「ふふ。そんなに勢いよく言うほど分けっこが好きなの?」

「ああ、好きだ!」


 アリリオ殿下、必死だな。椛音はそんな彼の様子に気づいていないようだが周囲にはバレバレで、「殿下、頑張ってください」などというつぶやきがあちこちから聞こえた。


「足りなかったら、叔父さんに別のものを作ってもらおうね」

「ああ、そうしよう」


 ……二人とも、勝手に決めるんじゃない。まぁ、作ってやらないこともないが。

 食べ盛りの二人なので、半分のうどんでは足りないだろう。 


「……その別のものは、ぜひ私もいただきたいです」


 パルメダさんが気配もなくこちらに忍び寄り、耳元でそう囁いてくる。

 この人、本当に食い意地が張っているな……!

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