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未来のことを考えよう~オボロアナグマの肉うどんを添えて~4

「えっと……。では五人前ほど融通しますので、くじ引きで当たりを引いた人が食べられることにしましょうか。当たったものを融通したりは、もちろん自由ですよ」


 俺がそう提案すれば、皆から戦場のような鬨の声が上がる。

 ──いや。今ここは、ある意味では戦場になったのかもしれない。

 これが『最高級国産牛』を使った料理だったら……と想像してみる。うん、そうであれば俺も確実に争いの中に身を投じていたな。オボロアナグマにはそれと同等か……もしくはそれ以上の価値があるのだろう。

 調理するのも食べるのも、楽しみになってきたなぁ。


「ところで椛音。オボロアナグマの『オボロ』ってなんだ?」

「たぶん朧月夜とかの『朧』じゃないかな。生きてる時のオボロアナグマ、めちゃくちゃ存在が認識しづらいんだよね。そんで物陰からシャッ! って斬りつけてくるからびっくりしちゃった。まぁ、私の敵じゃなかったけどねっ」


 椛音に訊けば、名前の由来を教えてくれる。

 ……あんな鋭い爪を持つ生き物が急襲してくるなんて、想像しただけで恐ろしいな。それを倒してしまう椛音も恐ろしい。

 ところで。この世界に召喚された瞬間に、俺たちには『言語変換』というスキルが付与されているらしい。

 この世界の言葉は俺や椛音にわかる形で翻訳されるのであの生き物は本当は『オボロアナグマ』という名ではないのかもしれないが、そのあたりは気にしていても仕方ない。


「椛音。お前、無理とかしてないか?」

「へ? 無理? なんの?」

「いや、ああいう生き物と戦うのって怖くないのか?」


 近頃忙しくしている椛音とは、ちゃんと話ができていない。

 なのでいい機会だと思い、気になっていたことを訊ねてみる。

 椛音は少し前まで、『ふつうの女の子』だったのだ。いくら勇者だからって、戦うのが怖かったりしないのだろうか。


「最初は少し怖かったけど、今は平気だよ。それどころか、日々強くなっていくのはちょっと楽しい。私、勇者が合ってるのかも」

「……逞しいな、椛音は」

「ふふん。でしょでしょ」


 ……俺なんて自分が戦うわけでもないのに、ハイオークの群れを見てびびってたのにな。

 姪の逞しさに驚きつつその頭を撫でようとして、手が粉だらけなことを思い出して引っ込める。

 ちなみに。あのハイオークは美味なのだとパルメダさんが教えてくれた。二足歩行の生物を食べるのは、なんとなく勇気がいるよな……。そのうち慣れるのだろうか。


「つらいことがあったら、言うんだぞ」

「ふふ、叔父さんは優しいねぇ」

「俺が優しくなかったことなんてないだろ」

「まぁ、そうだね。叔父さんはいつでも優しい。だから私、叔父さんのことが大好きなんだよね」


 ……本当に、この姪は。こっちが照れることをてらいなく言う。

 姉もそういうところがあったから、そんなところは似ているのかもしれないな。


「……お前のことを大事に思ってるからな。だから、無茶はするなよ」

「はぁい」


 俺と椛音が会話をしているその横で、料理人たちのくじ引きの準備は進んでいた。

 くじはこよりを作り、『あたり』の先だけ赤で染めるというオーソドックスな形式のもののようだ。

 この形式のくじ、異世界にもあるんだなぁ……。

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