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未来の店を見に行こう~鹿肉のサンドイッチを添えて~8

「おお、綺麗だな」


 中に入った俺が発した第一声はそれだった。物件の内部は前の持ち主が綺麗に使っていたようで、隅から隅まで綺麗に掃除が行き届いていた。椅子を四脚並べられるカウンターキッチン、二人掛けのテーブルが三つ置ける程度の広さのフロア。こじんまりとしていて、俺だけでも店を回せそうなちょうどよい規模だ。

 この物件の元の持ち主は引退した傭兵だと、アリリオ殿下が言っていた。

 彼は冒険者相手の酒場を開いていたのだが、腰を痛めてしまい店の経営が困難になったので手放す先を探していたらしい。そこに現れたのが俺である。放置されて物件が荒れてしまう前にここに来れたのは僥倖だな。

 キッチンの設備を確認しようとそちらに行くと、そこはさすがに王宮のものと同じ……とはいかなかった。

 コンロは薪を使う形式のオーブンレンジで、俺に使いこなせるかやや不安だ。水道なんてないものもないようで、外に井戸があるので水はそれを使うらしい。冷蔵庫は昭和の時代にあった、上段に氷を入れる式のものだ。氷はどこから入手するのだろう。魔法で氷を出せる人のところに、買いに行くことになるのかな。

 ……王宮の設備が恋しいな。

 しみじみとそんなことを思い、俺はふうと息を吐いた。


「ショウ殿が希望するなら、キッチンを王宮と同じ仕様にしていいとアリリオ殿下が言っていましたよ。工事に少しばかり時間がかかりますが、そちらさえご了承いただければ」


 眉間に皺を寄せてうんうんと唸りながらキッチンを見ている俺に、パルメダさんがそんなことを言う。


「ぜひ、お願いします!」


 その飛び上がるほどに嬉しい提案に、俺は一も二もなく食いついた。

 キッチンの工事にはそれなりの工賃がかかるのだろうが、ここはアリリオ殿下に甘えてしまおう。王子様様である。

 キッチン問題も片づいたし、今度は二階へと上がる。二階には八畳ほどの部屋が二部屋……一人暮らしにはじゅうぶんすぎる広さだな。

 窓の方へ行き、一気に開け放つ。すると爽やかな風が、室内へ舞い込んできた。


「うん。……気に入った!」


 窓から景色を眺めながら、俺はつぶやく。


「よかったですね、ショウ殿」


 少し離れたところに立つパルメダさんに微笑ましげな表情で言われ、少々照れくさい気持ちになる。

 いいおっさんが、はしゃいだところを見せてしまったな。

 その後も室内やら家の外周やらをあれこれチェックしていると、気がついた時には時刻は夕方近くになっていた。


「ショウ殿、夜は魔物が活性化します。そろそろ帰りましょう」

「ま、魔物が活性化!?」


 とんでもないことをパルメダさんに告げられ、俺は驚きの声を上げる。


「ええ。魔物との遭遇率が二倍になります」

「二倍……! それはすぐに帰りましょう!」


 魔物に遭遇したら、またパルメダさんに手を煩わせてしまうことになる。俺はわたわたしながら、屋敷の鍵を閉めて外に出る。

 考えてみれば御者も待たせっぱなしだし、悪いことをしてしまったな。

 御者台で眠っていた御者を起こし、待たせた詫びを言ってから馬車に乗り込む。

 そして、しばらく馬車に揺られていると──。


「……そういえば。お腹が空きましたね、ショウ殿」


 パルメダさんが、そんなことをぽつりと言った。


「そうですね、お昼を食べてから結構時間が経ちましたしね」


 ──その上、俺はハイオークの惨状を見たショックで食べた昼を戻してしまった。胃の中はすっかり空っぽだ。

 一度意識してしまうと空腹感がずしんと重く乗しかかり、お腹がぐうと大きな音を立てた。


「王宮に帰ったらショウ殿の料理が食べたいです。無理に、とは言いませんが」


 パルメダさんはそう言いながら、こちらに流し目を向ける。


「いいですよ、パルメダさんには大変お世話になりましたし」

「ありがとうございます! 楽しみです。ええ、本当に楽しみです」


 パルメダさんは何度も『楽しみです』を繰り返す。

 そんなに楽しみにされると、期待に応えられるか不安になるな……。

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