未来の店を見に行こう~鹿肉のサンドイッチを添えて~7
魔物の襲撃などという恐ろしいイベントが発生したが、その後は特になにもなく……。
「ショウ殿、ショウ殿。起きてください」
「んがっ」
パルメダさんに肩を掴んで揺さぶられつつ声をかけられ、すっかり寝入っていた俺は目を覚ました。
「どうやら着いたようですよ」
「えっ……! いたっ!」
そう言われて勢いよく立ち上がると、太ももがびりりと攣って俺は悲鳴を上げる。
これは、加齢によるこむら返り……!
「なにをしてるんですか」
呻きながら攣った太ももを擦る俺に、パルメダさんが呆れたように言う。情けなくてなにも言えずに、俺は苦笑を浮かべるばかりになってしまった。
──パルメダさん、貴方も十数年後にはこうなるかもしれませんよ。
いや、立派な騎士で運動不足とは無縁なパルメダさんはこんなことになったりしないのか……。
「もういい年なんで、体のあちこちに不具合がですね」
「まだまだ、お若いでしょうに」
パルメダさんはそう言ってから、俺より先に馬車を降りる。
俺は「どっこいしょ」と『若い』とはほど遠いつぶやきを漏らしながら椅子から立ち上がり、馬車の外に出た。
外に出ると、爽やかな風が吹いて俺の頰を撫でた。周囲を見回すとそこは道路の脇にある広場で、森を背にして一軒の建物が建っている。
──あれが、愛しの俺の店か。
温かな風合いの木造の建物は、避暑地にある別荘を思わせるログハウスで二階建てだ。一階が飲食スペース、二階が住居になっている。
「ここは悪くない場所だと思いますよ。大きな街と街を繫ぐ街道沿いなので、旅人や冒険者がよく通りますからね。近くにダンジョンもあるので、ダンジョンに潜る前の腹ごしらえで立ち寄る冒険者もきっといるでしょう」
建物を見上げて目を輝かせていると、パルメダさんがそんなふうに言い添える。それを聞いて、俺はほっとした。この世界の立地のことなんて、ちっとも知らないからな。
しかし、近くにダンジョンがあるって……。それって危険じゃないのか?
「ダンジョンの側って、危なくないんですか? ほら、魔物が出てきたりとか」
先ほどのハイオークのことを思い出し、ぶるりと身を震わせる。あんなものに襲われたら、俺なんてひとたまりもないだろう。
「不思議なもので、ダンジョンにいる魔物たちは外には出てこないのですよね。ダンジョンは神が作った古代の遺物という説もあり、この世の──」
「パ、パルメダさん! 行きましょう!」
話が長くなりそうだったので、大きな声で言ってから扉に向かう。パルメダさんが残念そうな顔をしていたけれど、気にしないようにしよう。少しばかり心が痛むが、今は俺の店が見たいのだ。
わくわくしながら扉の前に立ち、アリリオ殿下からもらった店の鍵を鍵穴に差し込む。すると、カチャリと小さな音を立てて鍵は開いた。