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未来の店を見に行こう~鹿肉のサンドイッチを添えて~6

「俺の料理の効果、ですか?」


 パルメダさんはなにを言っているのだろう。彼の言葉の意味が理解できずに、俺は首を傾げる。


「はい。先ほどの私は……悔しいですがふだんの実力以上の力で戦っていました。魔法で能力にバフをかけることももちろん可能なのですが、あそこまでの効果はありません」

「へ……」

「ショウ殿の料理のスキルには『+』という文字があると、アリリオ殿下に窺っています。恐らくその『+』は料理を食したものに対してのバフだと思います。それも、とても強力な」


 ──なんということだ。俺はただの料理人ではなかったのか。

 衝撃の事実に口をあんぐりと空けていると、パルメダさんにくすりと笑われる。いかんな、締まりのない顔をしてしまった。

 俺は表情を引き締め、咳払いをしてから口を開いた。


「じゃあ……知らないうちにパルメダさんの力になれていた、ってことでいいのかな?」

「はい、助かりました。あの力がなければ私は……無事ではいられなかったでしょう」


『無事ではいられなかった』──その重たい言葉に、みぞおちのあたりをずんと殴られたような心地になる。

 この世界は日本と違う、魔物が跋扈する世界だ。護衛だって、当然ながら命懸けのものなんだよな。そんな事実を改めて噛み締めてしまい、パルメダさんが無事であることに腰が抜けそうなくらいに安心した。

 ……椛音もこんな危険な旅をするのか。俺の力で少しだけでも姪の旅を楽にすることはできないのかな。


「パルメダさん。この力で、俺が椛音の力になれると思いますか?」

「カノン殿のお力に、ですか?」


 パルメダさんに訊ねてみれば、彼の目は丸くなる。


「もちろん、旅についていくつもりはないですよ! 弁当を渡したりとかで支援をと……。いや、でもどうやって?」


 旅について行くのはダメだ。俺には戦闘のスキルはないそうだから、絶対に足手まといになる。俺がいれば、椛音たちを却って危険に晒してしまうだろう。だから離れたところから、物資を届けて支援できるのが一番なんだが……。この世界の物流システムのことを、俺はなにも知らないんだよな。


「アリリオ殿下は転移の魔法をお使いになられます」

「転移?」


 パルメダさんにそう言われて、俺は目をぱちくりとさせる。


「はい。殿下は一度行った場所に移動できる魔法を使えるのです。だからショウ殿のお弁当は問題なく受け取れます。お弁当の補給をカノン殿にするのは、とてもいい案だと思いますよ。彼女の助けになります、必ず」


 パルメダさんは力強く言い切ると、女神みたいに美しくて優しい笑みを浮かべた。──と言っても、彼は男なんだが。


「……そっか」


 俺にもできることがあってよかった。それを知れたのもパルメダさんのおかげだ。

 パルメダさんは笑みを消すと、真剣な表情になる。なにか大事なことを言われるのだという予兆を感じて、俺も緩んでいた表情を引き締めた。


「ショウ殿の力は希少なものです。そして、貴方自身には戦う力がない」

「誰かが、力に物を言わせてでも俺に言うことを聞かせようとする可能性がある……と言いたいのですね」


 彼の言わんとすることを理解しそう言えば、パルメダさんはこくりと頷いた。

 たしかに……そうだ。パルメダさんが驚くほどの『バフ』を使える、身を守る手段のない男。

 悪い人間からすれば、俺は『鴨が葱を背負って来る』ような存在なのだろう。


「そうです。このことはアリリオ殿下に報告し、対策を講じましょう」


 もともと護衛はつけていただく予定だったが、それ以上のなにかを……ということだろう。

 そんな手間をかけさせてしまうことを申し訳なく思いつつも、俺はこくりと頷いた。

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