未来の店を見に行こう~鹿肉のサンドイッチを添えて~5
「うわ、パルメダさんすご……」
馬車の扉から顔を出し、俺は恐る恐るパルメダさんの様子を見ていた。
はじめて見る『戦闘』の空気に体は震え、ハイオークの臓物がこちらに飛んできた時には吐きそうになった。……というか何度か吐いた。
パルメダさんはあんなにも勇敢に戦っているのに、なんとも情けない話である。
「いやはや、パルメダ様はお強いですね」
御者のおじさんが、そんなふうにぽつりとつぶやく。俺はそれに同意を示すため、こくこくと何度も頷いた。
細身の体と美少女のような顔からは想像もつかないくらいに、彼は強かった。
剣に炎を纏わせ、優美な動作で魔物の命を刈り取っていく。その姿は、まるで優美な舞いのようだった。
「はっ!」
短い気合いの声とともに、パルメダさんは炎の剣を振るう。その切っ先は最後のハイオークの胸を刺し貫き、業火が巨体を一瞬で焦がした。
「……ふう」
パルメダさんは小さく息を吐きながら、額に浮かんだ汗を拭う。そして、ぱちりと指を鳴らした。するとハイオークたちの死体が、浮かび上がって道の端へと積み上げられる。……たしかに、このままだと通行の邪魔だもんな。
「ショウ殿、お待たせしました」
パルメダさんはこちらに来ると、じっと俺を見つめる。な、なんだ。食い入るように見られると、心底落ち着かないんだが!
「お、お疲れ様です。守ってくださって、ありがとうございます。あんなにいた魔物を倒してしまうなんて、パルメダさんってお強いんですね」
気まずさを振り払おうと、俺は口早に言葉を発する。しかし、パルメダさんからの反応は返ってこなかった。
「これは恐らく……。うん、そうだな」
……パルメダさんは思索に耽っており、俺の声は聞こえていないようだ。彼は真剣な表情でぶつぶつとなにかをつぶやいている。
「……パルメダさん?」
もう一度声をかけると、パルメダさんはハッとしたように我に返った。
「いや、失礼。……ショウ殿は鑑定スキルをお持ちなのですよね?」
「はい、持っています」
「それを私にかけてください」
「え。いいです、けど」
突然の申し出に驚きつつも、パルメダさんに『鑑定』をかける。すると、食材を見た時のようにパルメダさんの前方に文字が浮かび上がった。これってたぶん、ものすごくプライベートなものだよな。見てもいいものかと思いつつパルメダさんを見れば、彼はこくりと頷いた。
──パルメダ、二十歳、人族、男、魔法騎士、カイネ伯爵家の四男、婚約者はなし。
そんなパルメダさんの個人情報の羅列のあとに、彼の能力を数値化したのだろう数字の羅列が書かれている。
そして、その数字の横には──。
「ん……? なんだ、これ」
「どうしました? ショウ殿」
「パルメダさんの能力値って言うんですかね。体力とか魔法とか……。それらにすべて『+』のマークがついてて、横に制限時間のようなものが表示されてるんです」
「ああ、やっぱり」
見えたものを説明すると、パルメダさんは納得という表情になる。
いや。一人で納得されても、俺はなにもわかっていないんだが。
「やっぱり、とは?」
「それは恐らく、貴方の料理の効果です」
「へ……?」
パルメダさんが告げた、意外な言葉。それを聞いて俺は目を丸くした。




