パルメダという男1
私──パルメダ・カイネは代々騎士の家系であるカイネ伯爵家の四男として生を受けた。
頑強な兄たちとはほど遠い病弱な身に生まれついてしまった私は、家族から『騎士』としての未来を嘱望されることがなかった。
家族は私のことを決して責めはしなかったが、手厚くなにかをしてくれるわけではなく。言ってしまえば、家では『腫れ物扱い』という状況だったのだ。
それは仕方がないことだ。病弱で才能のない自分が悪いのだと自身に言い聞かせながら、私は日々を生きてきた。
そんな中でも、剣の稽古はできる限り続けていた。そうしていれば……いつか家族が自分を見てくれるような気がしたから。自分でも往生際が悪いと思う。
稽古のおかげか十を越える頃には病気に罹りづらくなり、貴族の男子の平均程度の体力も身についた。しかし家人と比べればまだまだ虚弱で、その上騎士になるために有用なスキルを私は持ち合わせていなかった。
私のスキルは風・火・土の『魔法』だ。今ならわかるが、三属性の魔法を操れるのは稀有な存在である。しかし家族がそれに価値を感じていなかったため、私自身もその価値に気づくまで時間がかかってしまった。
カイネ伯爵家では魔法は重視されていない。私以外のカイネ伯爵家の者たちのスキルは己の肉体ひとつで戦い抜くための物理的なものに特化しており、それをさらに磨くことに熱意を注いでいるからだ。
ちなみに。我が家は分家筋や武家から嫁を取っているため、母や祖母たちも男たちに負けずに強い。非常に武張った家なのである。
私の未来は長兄の領地経営の補佐か、もしくは文官を目指すか。そんなふうに将来を考えはじめた時。
──アリリオ殿下が、私の才を見出してくださった。
その日。十二歳の私は屋敷の庭で、『手慰み』程度に学んでいる魔法の訓練をしていた。
三属性の攻撃魔法を連続で放ち、十ある頑強な的を次々に破壊する。
こんなことをしていても、家族に認められない。そんな焦燥で胸を焦がしながら、再生の魔法で元の形を取り戻した的に八つ当たり気味にまた魔法を撃った。
「お前、すごいな」
そうしていると、拍手とともにそんなふうに声をかけられた。
声の方へ視線を向ければ、そこには金色の髪をした美しい少年が立っていた。年齢は私よりも四、五歳下に見える。
少年の後ろには従者らしき老人が控えており、『邪魔をしてすまない』と言うようにぺこりと小さく頭を下げた。
少年が身に着けている衣服は豪奢なもので、洗練された立ち居振る舞いと併せてその身分の高さが察せられた。
──恐らく、『この方』は。
社交の世界にまだ足を踏み入れていない子どもなりに思考を巡らせ、その場に膝をつき臣下の礼を取る。
「アリリオ殿下……でございますね。お初お目にかかります。カイネ伯爵家四男、パルメダと申します」
「うむ。そうか、お前がこの家の四男か」
推測した人物で間違っていなかったらしい。彼の返しを聞いて、私はほっと胸を撫で下ろす。
「そんなに畏まらなくていいぞ。今日の僕は私的な時間を楽しんでいるところだからな。ほら、立ち上がるといい。そして、気楽に接するのだ」
アリリオ殿下はそう言うと、ふふんと鼻を鳴らしながら胸を張る。
十にもならない子どもなのになかなか小生意気なことを言うものだと、私は立ち上がりながら内心不敬なことを考えた。
「殿下は私的な楽しみのために……我が家にいらしたのですか?」
「ああ、代々優れた騎士を輩出しているカイネ伯爵家の皆のスキルに興味を持ってな。じいやに頼んで連れてきてもらったのだ」
「……なるほど、そうだったのですね」
「しかし、こんなところにこんな拾い物があるとはな」
アリリオ殿下はあどけなく笑いながら、こちらに意味深な流し目を送る。その言葉の意味を測りかねて、私は少し首を傾げた。
「拾い物、でございますか」
「なにをきょとんとしている。お前のことだ、お前の」
アリリオ殿下はそう言いながら、私をびしっと人差し指で差す。
そんな殿下の言葉に、私は目を丸くした。