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未来の店を見に行こう~鹿肉のサンドイッチを添えて~1

 アリリオ殿下に物件の見取り図やらを見せてもらった翌日。

 俺は物件の現物を見に行くことにした。椛音も当然ついてこようとしたのだが、勇者様とやらは日々忙しいらしい。今日はなんとかの儀式があるとかで、彼女は渋々留守番ということになった。アリリオ殿下もその儀式に参加をするので、俺には案内人兼護衛がつけられることになったのだが──。


「はじめまして、ショウ殿。パルメダと申します」


 昼頃部屋に現れたのは、騎士の隊服を身に纏った美しい人物だった。背中までの黒髪、美しい褐色の肌。キラキラと輝く紫色の瞳。目元は涼やかで、眦はつり上がり気味だ。目鼻立ちははっきりしていて整っており、その造形は中性的だ。体つきはとても華奢で、背は俺と同じくらい。年齢は二十歳前後だろうか。

 ……女性? いや、男性なのか?

 性別の判断ができず、俺はパルメダさんをじっと見つめてしまう。


「男ですよ」


 俺の疑問を感じ取ったのか、パルメダさんが涼しい顔で答えてくれる。彼にとってこんなことは、日常茶飯事なのかもしれないな。それにしても、デリカシーがないことをしてしまって申し訳なかったな。


「そ、そっか。今日はよろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いいたします」


 パルメダさんは真顔で、俺に一礼をする。この表情が、彼のデフォルトらしい。


「これでも王宮騎士団に属しておりますので、安心して警護されてください」

「心強いです、パルメダさん」


 アリリオ殿下が派遣してくれたのだ。きっと腕利きなのだろう。安心して我が身の安全を任せられる。


「すぐに出発してもいいですか?」

「私は問題ありません」


 問いかけると、彼はこくりと頷く。


「じゃあ、行きましょう」


 そう言いつつ迎えが来る前に用意していた弁当が入ったバスケットを手にすると、彼はそれを不思議そうに見つめた。


「それは……?」

「昼時なので、厨房を借りてお弁当を作ったんです。よければ、パルメダさんも一緒に食べませんか?」

「……いいのですか?」


 パルメダさんの喉がこくんと小さく動く。ちょうど昼時だし、お腹が空いているのかもしれないな。


「ぜひ! 護衛の人と一緒に食べようと思って、作ったものだから」

「では、ご相伴に預かりたいです」

「嫌いなものはないですか?」

「ありません。なんでも食べます」


 パルメダさんの目は、すっかりバスケットに釘付けだ。

 ……この人、もしかすると食いしん坊なのかな。


 パルメダさんに案内されつつ王宮の正門へ行くと、馬車の準備がされていた。


「そういえば、馬車に乗るのははじめてだな」

「ショウ殿の世界には、馬車はないのですか?」

「あるにはあるんですけど、車とか電車が交通の主流かな」

「クルマ、デンシャ……。ふむ、興味深いですね。どんなものか、ぜひお聞かせください」


 そんな会話をしながら、パルメダさんと馬車に乗り込む。俺たちが座ったのを確認してから、御者は馬車を発車させた。馬車の座席は柔らかくて座りやすく、想像していたよりも揺れない。さすが王家が用意してくれた馬車というところだろうか。車酔いが心配だったから、よかったな。

 パルメダさんが俺の注意を引くように、こほんと咳払いをする。そして……。


「ショウ殿。……店のある場所までは、四十分ほどかかります」


 と、ぽつりと言った。


「はい、お昼にしましょうか」


 彼の言わんとすることがわかった俺はにこりと笑って言いつつ、バスケットを開ける。

 バスケットの中にはずらりとサンドイッチが並んでおり、それを目にしたパルメダさんの目がぱっと輝いた。

 ──間違いない。この人は食いしん坊だ。

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