異世界に召喚されました~オートミールのオムライスを添えて~9
テーブルに、オムオートミールを並べた瞬間。椛音が飢えた獣のような形相で、オムオートミールにスプーンを入れようとする。俺はその動きを、そっと手で制した。
「椛音。いただきますは?」
「う……。い、いただきます!」
よほどお腹が空いていたのだろう。『いただきます』の『す』を言い終わるのと同時に、椛音はオムオートミールを口に入れる。口に合えばいいんだがと思いながら、俺も手を合わせて「いただきます」と言った。
椛音はスプーンにこんもりと、卵とケチャップオートミールを盛る。それを、大きな口を開けて口内に放り込んだ。
「ん~!」
椛音が言葉にならない声を上げつつ、瞳を輝かせる。
頬を押さえて満足そうな椛音の顔を目にして、俺はほっと胸を撫で下ろす。
「美味しい! たまにはオートミールもいいね! はぁ、このベーコン美味しい。卵もとろっとろ……!」
満足そうな椛音の顔を目にして、俺はほっと胸を撫で下ろす。そして、自分もオムオートミールを口にした。
もっちりとした質感と、酸っぱさが絶妙なハーモニーを奏でる。ベーコンの塩気も絶妙だな。うん、これは美味い。
毎日これだと米が恋しくなるかもしれないが、米の代替品としてはじゅうぶんレベルに美味しい。
米化オートミールのもちもちとした食感と、卵が実によく合う。卵の焼き加減も大成功だな。
「えん麦が美味い……?」
アリリオ殿下が、疑わしいという目つきでオムオートミールをじっと見つめる。
「まぁまぁ、食べてみてくださいよ」
猜疑心に溢れる表情の殿下にオムオートミールを勧めると、彼は「むぅ」と小さくつぶやいた。
「まぁ……。せっかく作ってもらったのだしな。いただこう」
アリリオ殿下はそう言うと胸の前で手を組み、神に対する祈りのようなものを捧げてから、オムオートミールにスプーンをつける。そして上品な仕草で口にすると……カッと目を見開いた。
「なんだこれは。えん麦なのに匂いがほとんどない! 食感も弾力があり……う、美味いな」
「私が一生懸命潰したからねぇ。食べやすくなったでしょ?」
夢中でオムオートミールを食べるアリリオ殿下に、椛音がそう言ってにししと笑ってみせる。
食料庫で見つかったのは、いわゆるロールドオーツというやつだ。
脱穀したえん麦に熱を通して、平たくしただけのものである。
この状態で食べると歯ごたえが強く感じられ、食べ慣れないと特に癖を感じるだろう。
それを椛音がクイックオーツ……いや、ここまで細かいとインスタントオーツかな……と呼ばれる食べやすい状態まで砕いたのだ。
「トマトがえん麦の匂いを消しているのも、食べやすく感じる要因かと思います」
「なるほど……。工夫というのは、大事なのだな。こんな食べ方ができるものだとはまったく思っていなかった」
アリリオ殿下はしみじみと言い、その隣で椛音はなぜだかどや顔をしていた。
「こちらでは、えん麦はどんな食べ方をされているのですか?」
「粥だ。牛乳などで甘く煮込んで、フルーツを載せることが多いな」
「……なるほど」
いわゆる、ポリッジというやつだな。海外での、オートミールのメジャーな食べ方だ。
この食べ方は、結構好みが分かれる。
「あとはクッキーにしたり……」
オートミールクッキーも、海外でのメジャーな食べ物なんだっけ。
あちらの世界の『海外』に近い食べ方を、この国ではしているんだな。
オートミールおにぎりとか、オートミールお好み焼きを食べさせたら、この王子様はどんな顔をするんだろうな。
また機会があれば、作って差し上げよう。
「はぁ、お腹いっぱい」
椛音は満足そうに、お腹を擦っている。
そんな椛音に、アリリオ殿下が真剣な顔を向けた。
「……カノン。これで満足したか? 世界を救う旅に、一緒に出てくれるだろうか」
「いいよぉ」
アリリオ殿下の言葉に……椛音はこちらが拍子抜けする調子でそう返した。




