表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/57

異世界に召喚されました~オートミールのオムライスを添えて~9

 テーブルに、オムオートミールを並べた瞬間。椛音が飢えた獣のような形相で、オムオートミールにスプーンを入れようとする。俺はその動きを、そっと手で制した。


「椛音。いただきますは?」

「う……。い、いただきます!」


 よほどお腹が空いていたのだろう。『いただきます』の『す』を言い終わるのと同時に、椛音はオムオートミールを口に入れる。口に合えばいいんだがと思いながら、俺も手を合わせて「いただきます」と言った。

 椛音はスプーンにこんもりと、卵とケチャップオートミールを盛る。それを、大きな口を開けて口内に放り込んだ。


「ん~!」


 椛音が言葉にならない声を上げつつ、瞳を輝かせる。

 頬を押さえて満足そうな椛音の顔を目にして、俺はほっと胸を撫で下ろす。


「美味しい! たまにはオートミールもいいね! はぁ、このベーコン美味しい。卵もとろっとろ……!」


 満足そうな椛音の顔を目にして、俺はほっと胸を撫で下ろす。そして、自分もオムオートミールを口にした。

 もっちりとした質感と、酸っぱさが絶妙なハーモニーを奏でる。ベーコンの塩気も絶妙だな。うん、これは美味い。

 毎日これだと米が恋しくなるかもしれないが、米の代替品としてはじゅうぶんレベルに美味しい。

 米化オートミールのもちもちとした食感と、卵が実によく合う。卵の焼き加減も大成功だな。


「えん麦が美味い……?」


 アリリオ殿下が、疑わしいという目つきでオムオートミールをじっと見つめる。


「まぁまぁ、食べてみてくださいよ」


 猜疑心に溢れる表情の殿下にオムオートミールを勧めると、彼は「むぅ」と小さくつぶやいた。


「まぁ……。せっかく作ってもらったのだしな。いただこう」


 アリリオ殿下はそう言うと胸の前で手を組み、神に対する祈りのようなものを捧げてから、オムオートミールにスプーンをつける。そして上品な仕草で口にすると……カッと目を見開いた。


「なんだこれは。えん麦なのに匂いがほとんどない! 食感も弾力があり……う、美味いな」

「私が一生懸命潰したからねぇ。食べやすくなったでしょ?」


 夢中でオムオートミールを食べるアリリオ殿下に、椛音がそう言ってにししと笑ってみせる。

 食料庫で見つかったのは、いわゆるロールドオーツというやつだ。

 脱穀したえん麦に熱を通して、平たくしただけのものである。

 この状態で食べると歯ごたえが強く感じられ、食べ慣れないと特に癖を感じるだろう。

 それを椛音がクイックオーツ……いや、ここまで細かいとインスタントオーツかな……と呼ばれる食べやすい状態まで砕いたのだ。


「トマトがえん麦の匂いを消しているのも、食べやすく感じる要因かと思います」

「なるほど……。工夫というのは、大事なのだな。こんな食べ方ができるものだとはまったく思っていなかった」


 アリリオ殿下はしみじみと言い、その隣で椛音はなぜだかどや顔をしていた。


「こちらでは、えん麦はどんな食べ方をされているのですか?」

「粥だ。牛乳などで甘く煮込んで、フルーツを載せることが多いな」

「……なるほど」


 いわゆる、ポリッジというやつだな。海外での、オートミールのメジャーな食べ方だ。

 この食べ方は、結構好みが分かれる。


「あとはクッキーにしたり……」


 オートミールクッキーも、海外でのメジャーな食べ物なんだっけ。

 あちらの世界の『海外』に近い食べ方を、この国ではしているんだな。

 オートミールおにぎりとか、オートミールお好み焼きを食べさせたら、この王子様はどんな顔をするんだろうな。

 また機会があれば、作って差し上げよう。


「はぁ、お腹いっぱい」


 椛音は満足そうに、お腹を擦っている。

 そんな椛音に、アリリオ殿下が真剣な顔を向けた。


「……カノン。これで満足したか? 世界を救う旅に、一緒に出てくれるだろうか」

「いいよぉ」


 アリリオ殿下の言葉に……椛音はこちらが拍子抜けする調子でそう返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ