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異世界に召喚されました~オートミールのオムライスを添えて~8

 姪に恋した男の子と姪が、旅をすることになるのかもしれないんだな。旅の途中で、恋のハプニング的なことがあったりするんだろうか。

 そんなことを考えると少しばかり複雑な気持ちになるが、こういうことに口出しをする親? が非常に鬱陶しいということくらいはわかる。

 アリリオ殿下は悪い子ではなさそうだし、あとは椛音の気持ち次第か。

 などと考えているうちに、オートミールがフライパンの中でくつくつと音を立てながら膨らんでいた。軽くかき混ぜてから、米化オートミールを別皿に移す。あとはケチャップライス──もとい、ケチャップオートミールを作って卵で包むだけだ。

 具材を炒めてから米化オートミールを投入し、さらにしばらく炒めてからケチャップを加え……と、ケチャップライスと同じ要領で調理を進めていく。調理場にはふわりと香ばしい匂いが漂い、食欲を激しくそそった。

 ……俺も腹が減ってきたな。


「よっと」


 ケチャップオートミールを何皿かに分けて移しフライパンを見ると、焦げたオートミールやケチャップがこびりついている。フライパンは当然ながらテフロン加工などをされていないし、使い慣れていないこともあって、ふだん使っているものよりも焦げつきやつくこびりつきやすい。うーん、洗うのが少し面倒だ。


「殿下。このフライパンにも浄化をかけていただいても?」


 椛音に見惚れたままだったアリリオ殿下に声をかけると、彼はハッと我に返ってからじっとりとした目でこちらを見る。


「……僕のことを便利屋かなにかと思っていないか?」


 そして実に不満げな口調でそう言ったが、ため息をひとつつくとフライパンに手をかざして浄化魔法をかけてくれた。

 フライパンは先ほどと同じく、一瞬で綺麗になる。


「おお……!」


 ……ピカピカだ。いいなぁ、本当に便利だなぁ。洗い物は面倒なので、本当にありがたい。


「ありがとうございます、殿下」


 アリリオ殿下にお礼を言っていると、椛音がにゅっと間に入ってくる。そして、殿下の手をぎゅっと握った。


「本当にすごいね! その魔法、私にも使えるのかな?」


 椛音はきらきらと目を輝かせながら、アリリオ殿下に顔を近づける。すると殿下の白い頬にぱっと朱が散った。


「カ、カノンは魔法適性がないようだから、難しいかもしれないな」

「そっか、そうなんだ。でもアリリオがいるから、いっか!」


 椛音はそう言うと、屈託のない笑みを浮かべた。

 ダメだぞ。手を握りながらそんなことを言われると、男ってやつはな……。


「──ッ!」


 ほら、さらに深みに嵌った。

 真っ赤な顔の殿下を横目に見つつ、俺は小さく息を吐く。


「僕が、いるから?」

「うん。私が魔法を使えなくても、アリリオが使えるなら大丈夫だよね?」

「あ、ああ。魔法の天才であるこの僕を頼りにしてくれていい」

「やったぁ! 頼りにするね!」

「そ、そうしてくれ」


 ──この殿下、ちょろすぎる。

 いや。彼が王子なこともあり、この距離感で接してくる女子なんてそもそもいないのかもしれないな。

 そんなことを考えながら、ボウルに卵を割り入れる。卵はもちろん、一人前に対して三個使う。ボウルの中で揺れる卵の黄身は、赤に近いオレンジ色をしている。もしかして、これは鶏卵じゃないのかな。


「さて」


 たっぷりのバターを使って、とろとろの半熟になるよう卵を焼いていく。今回は割るととろとろの中身が……というタイプではなく、半熟状に焼いた卵をケチャップオートミールに載せる方法を採用する。

 ケチャップ米化オートミールにとろとろの卵を載せて、ケチャップをかけたら、オム……オートミールの完成である。


「わぁ、美味しそう!」


 完成したオムオートミールを目にして、椛音が笑顔を弾けさせる。


「……美味そうだな」


 アリリオ殿下の目も、オムオートミールに釘づけだ。


「殿下もよかったら食べませんか? あと何皿分かは作れるので」

「い、いいのか?」


 声をかけると、殿下が勢いよくこちらを見る。


「いいもなにも、いただいた食材で作ったものですしね」

「では……食べさせてくれ」

「はい、わかりました」


 照れ臭そうな様子で言う殿下に笑顔で返して、殿下と自分の分の卵を焼き上げる。

 少し遅い昼食は、いつもより賑やかになりそうだな。

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