第13話 ライバルと遭遇
俺は森の奥へと目を凝らした。静寂に包まれた森の中、ひときわ大きな木々の隙間を探しながら、じっとホーンピッグの群れを観察する。あたりは深い緑に包まれ、葉の揺れる音さえも遠くに感じる。獣たちの荒々しい鼻息が、静かな空気を破るかのように耳に届く。
ホーンピッグの群れはまだ警戒していないようだ。その動きはどこかゆったりとしていて、まるで敵の気配を感じ取っていないように見える。ただ、こちらも油断はできない。気を抜けば一瞬でこちらが囲まれ、逃げる暇さえ与えられないだろう。
「あと三匹くらい仕留めれば、かなりの成果になるな…」
俺は心の中でそう計算をしながら、魔法のリフトで再び空中に浮かび上がる。木々の隙間から、慎重にホーンピッグたちの動きを観察し続ける。風が吹き、葉の音がわずかに響く中、俺の視界に目当てのホーンピッグが現れる。
——いた。
群れの端に、一際大きなホーンピッグが悠然と佇んでいる。その姿は他のホーンピッグたちと一線を画していた。筋肉が発達し、漆黒の毛並みは陽光を受けて鈍く輝いている。角は鋭く、まるで獲物を突き刺すために鍛えられたかのように見える。その威圧感は尋常ではない。間違いなく群れのリーダー格だ。周囲のホーンピッグたちも、彼の周りに集まるようにしている。まるでリーダーの存在が絶対的なものであるかのように。
「もしかして、あれを狙っているのか?」
隣のテルラが驚いたように目を見開いた。
「うん。あれを倒せば、群れ全体が崩れると思うんだ。」
隣で見守っていたテルラが、驚いたように目を見開いた。その瞳は一瞬、何かを感じ取ったかのように輝いた。
「うん。あれを倒せば、群れ全体が崩れると思うんだ。」
俺は冷静に答える。冷や汗をかきそうになる自分を、必死に抑えながら、言葉を続ける。リーダーを倒すことで群れの統制が崩れ、他のホーンピッグが分散するはずだ。それが成功すれば、後の討伐はずっと楽になるだろう。しかし、リーダーは並のホーンピッグとは訳が違う。間違いなく強力だ。
「マジか…! あれは並のホーンピッグとは違うぞ。突進力も、耐久力も桁違いだ。」
テルラの声に、少し焦りが含まれる。それも当然だろう、俺と同じように、このリーダーが普通ではないことを直感的に感じ取っているのだろう。
「大丈夫!!」
俺は自分に言い聞かせるように、強く答える。恐れずに前に進むことが、成功への道だ。信じろ、仲間を、そして自分の力を。深く息を吸い込み、魔力を体内でゆっくりと練り上げる。その感覚に浸りながら、次の行動を決める。
「んん...。分かった、行こう。」
テルラも覚悟を決めたように、力強く頷く。その顔には、少しの不安があったが、それを隠すように目をぎゅっと細めていた。
「——テレポート!」
俺たちの身体が淡い光に包まれ、ほんの一瞬でホーンピッグのリーダーの背後に移動した。空間が歪み、すべてが一瞬の出来事だった。周囲の景色が消え、次に気づいたときにはもう、ホーンピッグのリーダーの背後に立っていた。
「うおっ、本当に一瞬で…!」
テルラが驚いたように声を上げる。だが、俺たちの動きに気づいたホーンピッグのリーダーが、すでにその巨体を振り返り、俺たちに向かって鋭い目を向けてきた。
「グオォォォォッ!!!」
途端に、森が震えんばかりの咆哮が響き渡る。リーダーの巨大な体が唸りを上げて突進してきた。その力強さは圧倒的で、周囲の木々が揺れ、大地が抉れる音がする。
「まずい、避けるぞ!」
俺はすぐさまリフトで空へと上昇し、テルラも横へと跳ぶ。だが、リーダーの突進が勢いを増し、避けきれないかもしれない。俺はすぐに次の策を考える。
(真正面からじゃ無理だ…なら!)
冷静に頭を働かせ、俺は魔力を一気に集中させ、再度空間を跳び越える準備を整えた。
「テレポート!」
瞬間移動でホーンピッグの真横へと移動し、マナショットを発射しようとする。
「マナショッ…!!」
——だが、その瞬間。
「待ったぁぁぁぁ!!!」
突如、上空から元気いっぱいの声が響き渡った。
「えっ?」
驚いて魔法を止めたその瞬間、少女が宙から舞い降りる。
「リリア!? なんでここに…?」
「ふふん、ヨウマ! これは私が狙ってた獲物よ!」
彼女は得意げに腰に手を当て、堂々とした態度で言い放つ。その瞳はホーンピッグのリーダーをしっかりと捉えていた。
「ちょっと待て! これは俺たちが先に見つけたんだぞ!」
俺が抗議すると、リリアは口元を釣り上げ、にやりと笑った。
「ふふっ、だったら…どっちがこのホーンピッグを仕留めるか、勝負しましょ?」
「はぁ!? こんな状況で勝負なんて言ってる場合じゃ…!」
「逃げるの? それとも、自信がないのかしら?」
「ぐっ…!」
リリアの挑発に、俺の負けず嫌いな性格が刺激される。
「……いいだろう。」
俺は低く呟いた。
「決まりね!」
リリアは軽やかに木の棒を構える。魔力が纏わりつく細身の枝が、鋭い輝きを放つ。俺もマナショットの魔力を溜め込み、構えを取る。
ホーンピッグのリーダーが唸り声を上げる。
「——いくわよ!」
「——負けない!」
二人は同時に駆け出した。
今日はもう一話投稿しようと思います。恐らく21時くらいかな...。