『文化祭当日好きな人に気付かれずに、身体のどこかにハート型のシールを貼れたら両想いになれる』というジンクスを成功させたい!
「ごめんね下井君、待った?」
「い、いや、俺も今来たとこだよ」
文化祭当日。
ドキドキしながら自分の教室の前で竜田さんを待っていると、メイド服に身を包んだ竜田さんが現れたので、心拍数が更に53万くらい上がった。
竜田さんのクラスの出し物がメイド喫茶だというのは聞いていたが、頭の中でどれだけ思い描いていたメイド姿よりも、実物は可愛かった。
自分の想像力の乏しさを、改めて実感する。
「じゃあ時間もあまりないし、早速回ろっか」
「うん」
竜田さんと並んで歩きながら、俺はそっとポケットの中のシールの感触を確かめる。
同じ文芸部の竜田さんに片想いして早や半年。
何度もチャンスはありながらも、今まで告白できずにいたヘタレな俺だが、今日こそは決めてみせる!
そのためには、このハート型のシールが必要不可欠。
うちの高校には、代々『文化祭当日好きな人に気付かれずに、身体のどこかにハート型のシールを貼れたら両想いになれる』というジンクスがあるのだ。
毎年何組かは、このジンクスのお陰でカップルが誕生しているらしい。
だからこそ俺は何としても、今日中に竜田さんの身体にシールを貼らなければいけないのだ――!
「どうしたの下井君、そんな険しい顔しちゃって?」
「いや!? 別に何でもないよ、あははは」
「ふふ、変なの」
はにかむ竜田さんは、今日も天使みたいだ――。
竜田さん、好きだ――。
「ハー、メッチャ楽しかったねー!」
「そ、そうだね」
が、結局俺は最後まで、竜田さんにシールを貼ることはできなかった……。
だって冷静に考えたら、好きな人の身体に触れるって、それだけでバンジージャンプ並みの勇気が要るだろ!?
そんな勇気持ち合わせてたら、とっくに告白してるっつーの!
クソ、致し方ない、これはまた一から作戦を練り直して……。
「今日は一日私に付き合ってくれてありがとね、下井君」
竜田さんが太陽みたいな笑顔を向けながら、右手を差し出して握手を求めてくる。
た、竜田さん……!
「いや、俺のほうこそ誘ってくれてありがとう。本当に楽しかったよ」
俺は竜田さんの右手と、そっと握手する。
嗚呼、竜田さんの手、柔らかい……。
「ふふ、じゃあまた明日部活でね、バイバーイ」
「うん、またね」
ブンブン手を振りながら、スキップで自分の教室に戻って行く竜田さん。
「あれ?」
その時だった。
ふと右の手のひらに、違和感を覚えた。
「……あ」
手のひらを見ると、そこにはハート型のシールが貼られていた。
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