第七話 俊敏!草原の奥地で出会ったモンスター!
帝都東草原、来るのは2回目だけど今回は一味違う。頼りになる、どころか自分より強いウィンドホークがいるからな。まずは、そこら辺のネズミ相手にウィンドホークのスキルを確認していこうかな。適当に走り回ってみるだけで、ネズミが数匹釣れる。
ちょっとヤバいな、1匹ずつ戦って確認作業しようと思ってたのに、初っ端から複数匹を相手にするのか。ネズミ以外に出会ったことがないから、調子に乗っちゃったなぁ。しっかりと数を確認すれば、ネズミは4匹だった。こっちもウィンドホークがいるので、総合戦闘力でいえば十分上回っていると考えられる。整備士のジョブによるステータス上昇に加えて、スキルにDEXを上げるスキルもあったおかげで、ネズミみたいな遅い相手に対して銃を外すことはないはず。
「とりあえず、召喚!『ウィンドホーク』」
視界の端にあった青いバーが、ググッと減少していく。やっぱこれがMPバーだったのね。じゃあもう一つの黄色いバーがSPのやつか。それはいいとして、初召喚しっかり見届けないとな。空中に青い光を放つ魔法陣が浮かぶ、嘴から順番に出てくる。前回の傷は一切残っておらず、精悍な目つきをしている。召喚にかかった時間は僅かだが、切迫した状況だと呼ぶのは難しいかもしれない。
「ウィンドホーク、風纏いを使用したら前衛として戦ってくれ!」
ウィンドホークに指示を出すと、軽く鳴いて答えてくれる。ウィンドホークの頭上のMPバーがジリジリ減少する、どうやら使用している間MPを少しずつ消費するタイプらしい。風を纏ったウィンドホークは、しっかり地に足を付けて翼による華麗な連撃を披露している。
SPの消費はなさそう、翼式格闘術を使用してないのか、もしくはパッシブスキルでSP消費がないのかな、SPの低さからして後者な気がするけどまだ確定は出来ないな。翼がネズミに当たると、ネズミを切り裂きながら吹き飛ばす。吹き飛んだネズミには、風で石を持ち上げて投擲することで追撃し、他のネズミに近づかれれば少し飛ぶことで回避する。
追撃の石まで当たったネズミは、既に瀕死になっている。ウィンドホークが空中に上がってしまったので、ネズミの攻撃は掠りすらしていない。ネズミたちは、数の有利を一切活かすことが出来ず、既に1匹が倒れた。やっぱりネズミは初心者向けのモンスターなだけあって、草原の覇者と呼べるウィンドホークには手も足も出ないらしい。ウィンドホークに任せているだけで、最後の1匹になってしまった。ただ見てるだけってのも微妙だし、ちょっとくらい働くかぁ。
「ウィンドホーク、相手の態勢が崩れたら急降下突撃を使ってくれ!」
ウィンドホークに指示を出して、注意が逸れているネズミに向かって銃を撃つ。空を裂いた弾丸が、ウィンドホークに翻弄されているスモールラットの頭を貫く。不意を突かれ、弱点に大きなダメージを喰らったネズミは大きくのけ反り、短い前足で頭を守ろうともがく。だが、それは悪手でしかなかった。空中で一瞬の隙も見逃さないように構えていたウィンドホークが、身に纏った風をより荒々しく変化させ、轟音と共に無慈悲な突撃を哀れな弱者に見舞う。土手っ腹に渾身の突撃を受けたネズミは、いっそ面白いほどに吹っ飛び、光となって散っていった。
楽勝だったな、ウィンドホークの強さがよく分かる一戦だった。スキルの性能も大体確認できたな、急降下突撃はSPをほとんど消費したけど、かなりの威力だった。SPはMPと違って、戦闘中にガンガン回復するから、元からSPの最大値が低いウィンドホークなら連発は出来なくても、複数回撃つことは可能だろう。
SPの回復具合から、4・5発攻撃を加えれば回収できるはず。飛行能力があるおかげで、遠距離攻撃手段か飛行能力がない敵相手なら、被弾を抑えつつ十分な火力を出せるだろう。その上、風纏い状態での近接攻撃は、ダメージ上昇だけじゃなくノックバックさせる効果もありそうだったし、ダメージ一辺倒じゃないのも強いな。
この分なら、2体目にテイムするのは壁役じゃなくても大丈夫そうだな。移動手段に出来るモンスターなら、フィールド探索も捗るだろうし、そっちを優先しよう。しかし、移動手段はどいつをテイムすればいいんだろうか。草原を見て回った感じ、騎乗出来そうなやつってあんま見当たらなかったんだよな。強いて言うならノンビリ草を食んでた牛っぽいやつとか、ヤギっぽいやつなんだけど、スピードでなさそうなのばっかなんだよなぁ。
草原の中ほどまでは、前回のウィンドホークテイム時に来たけど、奥まで行ったことはないし、そこで探してみるしかないかな。テイムにアイテムが必要な可能性も考えて、またちょっとアイテム採取してくかな。どうやら初期好感度を上げるためにも、アイテムがいるってことが前回分かったしね。採取しながら草原を奥に向かって進む、採取出来るアイテムはほとんど変わらないけど、タダで回復手段が手に入るのは助かる。
そういえば、草原リンゴって回復アイテムじゃないっぽいけど、何に使うんだろうか?いや、回復しないってわけじゃないんだけど、微薬草と比べてすら回復量低いんだよな。料理か何かに使うのか、それこそテイム条件で求められるとかなのかな。
ん?いつも草原リンゴは木の下に落ちてるのに、木の窪みに入ってるやつがあるな。ふむ、熟成草原リンゴか、ちょっとしたレアアイテムって感じなのかな。お告げか、お告げなのか。僕に草食のモンスターをテイムしろという、神からのお告げか。
まあ冗談はおいといて、せっかく果物のレアアイテムっぽいやつが手に入ったし、これを活かしたいな。乗れる草食、やっぱ馬か?ちょっとベタな感じもするけど、選ばれたのには理由があるだろうしね。そもそも、馬のモンスターがこの草原にいるのかどうかすら分からないし、良さげなやつを見つけてから考えるか。
探索を続けること十数分、いつの間にか周りに見えるモンスターが変わっていた。草原の奥地に入ったのかもしれない、レアモンスターを探すんなら元のモンスターと比較する必要があるな。そういえば、奥地と思わしきエリアに入ってから、少し木を多く見るようになったな。木に登って隠れられれば、落ち着いて観察できるんじゃないかな。
ってなんだあれ!?めっちゃ速いやついるんだけど!速すぎてどんなモンスターかもよく分からん、左右にジャンプするような移動の仕方だし、周りの同種族っぽいやつを見る限り、恐らくシカのモンスターだな。速さに目を取られて気づいてなかったけど、なんかバチバチ音してるし雷属性なのか。
初心者向けのフィールドだし、通常モンスターで属性持ちはいないっぽいけど、その分レアモンスターには差別化の意味も含めて、属性持ちのモンスターが多いのかもしれないな。
思ったより早く見つかったのはいいんだけど、せっかく木に登ろうかとか色々考えてたのに無駄になっちゃったな。それともう一つ考えなきゃいけないのは、爆速のシカの群れにどうやって接近して、さらに攻撃を受けずにテイムスキルを発動するかだ。
見たところシカが他のモンスターを攻撃してる様子はない、ウィンドホークはネズミを襲っていたことを鑑みれば、それよりかは温厚そうかな。こっちから見えてるわけだし、あっちも気づいてておかしくないけど、近づいてきたり攻撃してきたりする様子はない。
とはいえ、こっちから近づいたら警戒したり攻撃したりってのも十分考えられる、油断はするべきじゃないな、ウィンドホークより奥地にいるモンスターだし。方向転換もかなりスムーズだけど、90度以上の急旋回のときは流石にスピードがかなり落ちてる。そのタイミングでしっかり見た感じ、自慢の角が帯電してるっぽい。
テイム条件が戦闘とは限らないけど、戦闘面で強力なレアモンスターをテイムするんだ、難易度が低いとは思えない。草食である程度は温厚そうだから、フルの戦闘じゃなくて相手の渾身の一撃を受けて生き残る、とレアアイテムを渡すのをどっちもやるとか、そういうのになりそうな気がする。
どうやって近づくかって話だったのに、大分脱線しちゃったな。あの速度に追いつくのは現実的じゃない、というか追いつけるレベルの速度なら騎乗役には選ばないしな。先回りもまた難易度が高い、速度だけが問題じゃなくどういうルートで移動してるのかも分からないし、自分がいることに気づいたら避けて通り過ぎるかもしれない。
つまり、相手の視界や意識の外から接近して、相手が範囲外に出る前に急いでテイムスキルを発動するしかないな。この条件を達成するには、ウィンドホークで上から急接近するしかない。ウィンドホークはパワーがあるから、自分1人運ぶのは問題ないだろう。しかし、移動速度に関してはかなり低いから、移動ルートも予測出来ていないけど先回りをするしかないな。
1つ成功出来る可能性を挙げるとするなら、初心者向けのフィールドであるこの草原はあまり広くないことだ、奥地に絞れば尚更。なら、木の上に登って観察する案はこっちに使おう。木の上で息を潜めて隠れつつ、近づいてきそうになったらウィンドホークに捕まり上から急接近する、これしか思いつかないな。
いやー、かなり成功率の低そうな作戦だけど、これしか思いつかないんならやるしかないな。よし、腹は括った!待ってろよ第二の相棒!
今話を読んでくださりありがとうございます。次話も楽しんで頂ければ幸いです。