第十四話 熱戦!闘技場での対人戦!
ようやくリアルが落ち着いたので更新です。ロボ視点。
くぁー、よく寝た〜。昨日は、楽園の惑星初プレイで興奮したせいか、ログアウトした後、思ったより疲れてたからな。
昼前になってようやくベッドから起き出すと、冷凍のハンバーグを解凍する。チン!という小気味いい音が、温めの終了を知らせてくれる頃には、顔も洗ってスッキリ目が覚めていた。
朝に見るニュースのような感覚で、スマホでニュースアプリを開く。読む記事はもちろん、楽園の惑星に関するものだ。
ネットに挙げられている感想は、そのほとんどが大絶賛だ。一部、『戦闘が怖くゲームとしての域を越えている』などの意見があるが、視覚設定でリアルさはいじれたはずなので、ろくに調べもせずに言っているのだろう。
パンとレトルトのスープ、千切りキャベツにサラダチキンをちぎって乗せたもの、冷凍ハンバーグに牛乳を用意する。時間的には昼食だが、起きたばかりなので、これは朝食だ。
さーて、腹も膨れたし、そろそろログインするかぁ!補充されたエネルギーを使って、テンションのギアを上げる。スキップでもしそうな勢いで、ヘルメット型のゲーム機を拾い上げる。
素早くベッドに寝転がり、起動する。上がったテンションに反比例するように、急速に意識が遠のいていく。数秒も経てば、完全に暗転する。次の瞬間、瞼の向こうから白い光が透過してくる。目を開ければ、キャラクリの時に一度来た白い空間だった。
昨日ぶりの白い部屋は、初ログインのワクワクが蘇って気分も上がるが、今日はまだ二日目だ。新鮮なワクワクは失われていないどころか、右肩上がりで最高点を更新し続けている。
懐かしさを覚えるような段階はまだまだ先だ!手が地面に着きそうなほど前のめりになって走り出す、ミカニス帝国帝都に繋がるドアを蹴破るようにして通り抜ける。中央広場に飛び出してきた俺を、同じく今ログインしただろう人たちが、驚いた顔で見ている。
しかし、そんなことなど一切気にも留めずに、今日やるべきことを考える。メニューウィンドウを開いて、フレンドのログイン状況を確認すれば、まだ誰もログインしていないようだった。昨日のクラップスタッグ戦、テイムを手伝ったことでクラップスタッグのドロップアイテムをいくつか手に入れている。
さすがに1回倒しただけでは新しく装備は作れないが、今ある装備の強化を行うことは出来る。ゲーム序盤である今は、レアモンスターを狙って周回するより、先に進む方がより良い装備を作れるだろう。というわけで、帝都の中央広場へ向かう。
中央広場から繋がる道には、生産職プレイヤーたちが出している出店が並んでいる。今回の目当ては、前回ハルシュレイに連れて行ってもらった、モヒカンの革職人の出店だ。前回の取引履歴から連絡してみたが、今日も出店を開いているらしい。逸る心を抑えきれずに小走りで向かえば、すぐに出店が見えてくる。
「よう、また来たぜ!コイツを強化してもらいにな!」
出会い頭にそう言い放ちながら、拳帯を取り出して手渡す。モヒカンからは、看板で強化に使用する素材を要求される。クラップスタッグの蹄と毛を使って、強化をしてもらうことにする。
昨日ログアウトしてからネットで調べてみたが、強化素材として使用する場合、当たり前だがその装備を強化できる見込みのある物しか使えない。つまり、布製の帽子を強化したいのに、硬い金属やモンスターの鱗を使うことは出来ない、という事だ。そういうのを使うなら兜になるだろうな。まあ、さらに加工して粉末状や糸状になってれば問題ないらしいが。
それを踏まえて、今回使用するクラップスタッグの蹄と毛でああるが、毛の方は布製である拳帯に使うのに関して一切問題ないだろう、防御力や雷耐性をしっかり上げてくれるだろう。しかし、蹄の方はどうだろうか、布製の帯に使えるのか?と思うだろう。だが、拳帯は防具ではなく武器だ!防御力だけ上がっても攻撃力が上がってなければ意味がない!
そこで、この蹄を使って拳帯の表側となる部分に、細かいスパイクを着けてもらう。これによって、拳帯の攻撃力を底上げすることが出来るはずだ。という旨をしっかりとモヒカンに伝える。すると、モヒカンは少しの間考え込むように目を伏せていたが、勢いよくサムズアップをすることで了承してくれた。
今回は、前回のように既製品を買うわけではないので、作業を待つ必要がある。拳帯をモヒカンに預けて、出来たら連絡するように伝える。そのままの足で向かうのは、闘技場だ。闘技場には、拳闘士の養成場があり、教官たちから対人戦を教わることが出来る。
またもや小走りで闘技場へ向かう。大通りは車やバイク、ロボットに乗っている人たちが高速で行きかっている。俺も、なにか乗り物でもあれば移動も速いんだろうけど、あいにくと戦闘に直で活かすことの出来ない乗り物を買う余裕はない。それこそフォートみたいに、モンスターを召喚して騎乗とかできれば速いんだろうな。
いつか、彼に荷車でも買って乗せてもらえないかな、などと益体も無いことを考えていれば闘技場が見えてきた。相変わらず活気の絶えないデッカい建物だが、自分が用があるのはメインホールじゃなく養成場だ。正面入り口をスルーして、脇にある養成場の重い扉を開けば、拳闘士たちの雄々しい声が響き渡っている。
「来たな!ヒヨッコ!ここに来たなら学んでいくんだよな!?」
といきなり声をかけられる。実際に目的はそれで間違いないので大きく頷く。
「さあ来い!ミッチリ基本から叩き込んでやる!」
そう言われたかと思えば、すぐに腕をつかんで引っ張られる。訓練室に強引に連れてこられると、教官は既に戦闘の構えを取っている。まずは実践形式で腕前を見るといったところか。
「よっしゃ、教官だろうが関係ねぇ!ぶっ飛ばすつもりで行くぞ!」
そう言いながら飛び出す。これ見よがしに右腕を引きながら、左手で照準を合わせるように構える。が、いきなり左足でフットスイープを発動して、教官の足を狙う。
「ふん!確かに人間相手に真正面から突っ込むのはバカのすることだ!頭を使ったのは誉めてやろう!だが、まっすぐ立った状態でのフットスイープではリーチが短すぎる!」
言葉通り、足払いを目的として放たれたローキックを、一歩下がるだけで避けると、すぐに重心を落とし屈む。そこから放たれたフットスイープは、足の長さ全てを活かしており、非常にリーチが長く下がっても避けられない。仕方なく、跳びあがってフットスイープを回避する。
「そうするしか無くなった時点で、貴様は死んだも同然だ!!」
屈んだ状態から足払いの勢いを利用し、更に一回転して後ろ回し蹴りを放ってくる。足の着いていないこの状態では、ステップを使うことも出来ない。そうか、フットスイープを放たれた時点で、ステップで避ける以外の選択肢を潰されていたのか。
「その顔、気づいたようだな!だが、もう遅いぞ!」
その言葉が聞こえた時には、教官の右足が着弾していた。咄嗟のガードで右腕をかざすも、その上から押しこむような一撃でHPを大きく削られる。更なる追撃を警戒し、着地と同時にステップで大きく距離を離す。しかし、肝心の攻撃はいくら待てども飛んでこなかった。
「そこまで!今回の訓練は以上だ!!フットスイープの使い方くらいは分かっただろう!お前が最初にとった行動は、避けられやすく、反撃を回避することも難しい距離で隙を晒した!フットスイープは足全体のリーチを活かし、相手の行動を制限するように使うんだな!!」
「ああ、それはよく分かったよ教官。」
実際、教官のフットスイープの使い方は見事だった。思考入力でスキルが発動できるこのゲームなら、足を払うという結果を産む行動には、フットスイープを乗せることが出来る。これまでのVR格ゲーじゃ、決まったモーションで体が勝手に行動するって感じだったから、自由度が段違いだ。
「さて、ヒヨッコよ!学びを得たことだ、忘れぬうちに馴染ませたほうが良いと思うが、やっていくか?闘技場での対人戦!!」
「確かに、と言いたいところだが、あいにく武器を強化するために預けちまっててな。また後でくるよ。」
「なんだ、そんなことか。お前は拳闘士だろう、であれば拳一つで戦えば良い!心配するな、相手にも事情は話しておく!」
一度断ったにもかかわらず、さらに押しを強めてくる教官だが、言い分は理解できる。武器の心配がないなら、慣らすためにはここで少し戦っておきたい。それに、このゲームで初めての対人戦も経験したいしな。
「分かった!そこまでしてくれるんなら、やろうじゃねえか!対人戦!」
「ほう、いい返事だ!そうと決まれば、受付に行って申請を済ませてこい!こっちも素手のみのルールを飲むやつを探してくる!ではまた後でな!!」
バカデカい声を響かせながら、教官は他の拳闘士たちに絡みにいく。どうやら、他の教官に同じような訓練を受けたプレイヤーに声をかけているらしい。ここで見守っていても仕方ないので、言われた通りに受付へ向かう。
受付嬢といくつか言葉を交わしながら、闘技場の使用申請を行う。この大きな闘技場の中には、無数の小さな決闘場があり、1対1などの小規模な戦いはそこで行われるらしい。一応観客も入るらしく、勝つことが出来れば少額ながら賞金も貰えるらしい。
使用申請が終われば、ウィンドウが開かれる。ウィンドウの上部には『闘技場参加待機中・・・』と表示されており、左に俺の顔が、右には黒い人型のシルエットがボンヤリと映っている。ゆらゆらと揺れ動くシルエットは、すぐに形を変える。スキンヘッドの屈強な男が、参加待機状態になる。
カツカツ、と革靴が石で出来た床を叩く音が背後から近づいてくる。気になって振り返ってみれば、光を反射する頭をした男がこちらに向かってきていた。大きな口をニヤリと歪ませると、白い歯を輝かせて肩に手を置いてくる。
「拳で語り合う漢同士に、言葉は不要。いい戦いをしよう。」
「ああ、よろしく頼む。」
いきなりのインパクトに押されて、とりあえずで返事をしたが、彼の言葉は非常に硬派でなじみ深いものだった。彼は、言うだけ言ってそのまま闘技場に向かってしまった。突っ立っていてもどうしようもないので、彼の後を追って闘技場に向かう。
1対1の決闘に使用される部屋は、観客席に囲まれたリングのような場所で、石造りの建物なこともあって圧迫感を覚える。控室に通されると、リングの方から出場者の名前を声高らかに読み上げているのが聞こえる。
用意されていたドリンクを呷ると、濡れたタオルで顔を拭いて気合を入れる。今回は、さっきの教官との訓練とは違って、HPが0になるまで戦うデスマッチ形式となる。聞けば、このルールが一般的だというので、随分ハードな世界だな、と思ったものだが、NPCも死んでも生き返る世界ならではなのだろう。寿命や病気なんかの、生物の終わりとして神に定められたこと以外であれば、正しくない死として生き返ることができるとか。
考え事に向かっていた思考を、目の前の決闘に引き戻す。このゲームはまだサービス開始2日目だ、相手がひたすらLv上げをしていればステータス差は生まれるだろうが、そう大きな差が生まれるほどの時間は経ってないはずだ。闘技場で訓練を受けられる拳武器のジョブってことは、俺と同じく拳闘士である可能性が非常に高い。
つまり、完全にPS依存の勝負になる。だが、お互いに不確定要素もある。それは、サブジョブの違いだ。俺の気功士は、継続戦闘に向いた長期戦型、リソースの枯渇どころか、上手くいけばHPの回復も出来るこのジョブは、アイテム持ち込みなしの対人戦においてかなり強力だ。
それと同時に、相手にもサブジョブによる強味があるはずだ。実際は拳闘士の方がサブジョブかもしれないが、そこは今どうでもいい。サブジョブの方向性によっては、短期決戦で押し切られる可能性がある。こちらが長期戦型である以上、試合展開が早くなるとかなり不利だ。まず、相手の出方を見る必要があるな。
警戒心と緊張感を高めながら、闘技場スタッフに促されるままに決闘場に歩みを進める。クッション性の低い、硬い靴の靴底が地面を擦る音が2つ響く。屋内ではあるものの、戦闘を行う前提だからか床は敷かれておらず、足音が鳴るたび少量の砂が無風の決闘場に舞う。
決闘場に辿り着けば、反対側からスキンヘッドの男が歩いてくる。ストレッチをするように肩を回しながら、口の端をニヤリと吊り上げる。少し古めかしい照明器具を反射する頭頂部に気を取られ、先ほどは気づいていなかったが、耳元に赤く輝くピアスをしている。
「さあ!両者入場いたしました!これから行われるのは、拳闘士たちの素手での熱い決闘!この星に降り立って間もない異星人は、一体どんな戦いを見せてくれるのでしょうか!?両者ともに準備はよろしいですね?それでは、レディー、ファイッ!!」
マイクを持った司会者が、集まった客に向けて今回の決闘のルールを説明する。場を盛り上げる言葉で、出場者の準備が整うまで時間を稼ぐ。俺たちがアイコンタクトで準備完了を伝えれば、大きく腕を振り上げてゴングを叩く。
ゴングの快音とともに、俺と相手がお互いにジリジリと距離を詰め始める。顔を守るように構えながら、いつでも大きく動けるようにリズミカルなステップを踏む。対して、相手も顔を守るように構えているが、ユラユラと不規則に揺れている。それに合わせて赤く輝くピアスが、不安感を煽ってくる。
「その動き、お前もVR格ゲー出身か?ふむ、相手にとって不足なし。」
男が話しかけてくるが、嫌な予感がしている俺にとっては気にしていられない。この序盤から宝石を使用したアクセサリーは、全財産はたいてなきゃ厳しいはずだ。拳闘士にもかかわらず、アクセサリーを優先する理由はなんだ?いや、待てよ。コイツの今の発言からして、相手もVR格ゲー出身だろう。格ゲーマーにとって、武器より優先すべきもの......。
「冷静な瞳、こちらの手札を推測しようとしているな。そう焦らずとも見せてやろう......。『ファイア・アロー』!」
そうか!あのピアスは魔法のためか!基本的に格ゲーは限られたフィールドの中で戦う以上、相手に攻撃するということは攻撃されるというリスクを背負った行為だ。相手に近づいて殴りに行く場合は、の話だが。相手の反撃が届かない距離からの攻撃は、単なる攻撃以上の価値を持つ。相手に対応を迫り、接近することも準備をすることも、リーチの差を覆すことも出来る。
ボォッと炎が酸素を喰らう音がしたと思えば、数m先にいた男の右手から矢の形をした火が飛んでくる。速度は対して速くはない、しかし位置が絶妙だ。丁度腹の高さを飛んでくるため、ジャンプは出来ず、屈むにしても動きが大きく制限される。重心を右足にかけたタイミングでの右わき腹への攻撃は、このまま倒れこむように右へローリングするか、無理やり左へ切り返すかの二択を迫ってくる。
迷う間にも、火で出来た矢は確実に近づいてくる。男も、それに追撃を加えるつもりなのか、ユラユラとした動きをやめ、こちらに走ってくる。しかし、こちらにも相手の知らない手札ならある。気功士の基本である、気を纏う行為は魔法に対する防御力を底上げすることが出来る。意表を突かれたからには、こちらも相手の予想を越えなければ負ける!
「無防備に喰らってやるわけにはいかねぇなぁ!『練気』!『纏気』!邪魔だぁ!!」
即座にスキルを2つ発動し、気を体に纏う。HPとSPが削れてしまうが、そんなことは微塵も気にせず、右腕に纏った気で火の矢を弾き飛ばす。ジュゥと、物が焦げる音がしてさらにHPが削れる。しかし、相手の意表を突くことは成功した。不敵な笑みから余裕を奪い取ると、不遜に笑う。
「持久戦に持ち込もうと思ってたが、予定変更だ!速攻で決めてやる!『コンボアタック』」
更にスキルを発動して、対応に迷っている男に接近する。相手は一気に迷いを振り払い、すぐに反応して牽制のジャブを打ってくる。その切り替えの早さは素晴らしいが、今回においては悪手だ。相手の使ったスキルの詳細も分からない状況で、思考よりも反応をとった。
「消耗戦と持久戦は似ているが、全く違うってことを教えてやるよぉ!!」
俺の選択は、牽制のジャブも無視して相手に殴りかかることだった。纏っている気は、まだ最低限で防御力は低く、ステータスの上昇だってほとんどない。しかし、そんなことは関係ない。相手に攻撃を当てれば増加していくのだから、殴り合うほど強化されるのはこっちだ。
「自棄になったわけではない、か......。面白い。グゥッ!」
未だ悠長に話している男の頬を、フルスイングの左フックで殴り飛ばす。相手のジャブはこちらの頬にもかすったが、相手の動揺もあってかクリーンヒットはしなかった。現在、こちらのHPは65%ほど、相手のHPは95%ほど。一発で5%も削れたなら、この勝負、勝機は確かにある!!
「消耗戦に乗ってやろう、MP消費を気にしない魔法使いの怖さを知らせるためになぁ......。『コンボアタック』『エンチャント:ファイア』」
相手の大ぶりな裏拳を避けると、少し距離が離れてしまった。その一瞬で、相手も削り切るためのスキルを使用してきた。まさか、あっちにも火力の底上げが出来るスキルがあるとはな。炎を拳に纏い、再び殴りかかってくる。ハハッ、むしろ楽しくなってきたなぁ!
確かにほとんど使い切りのリソースであるMPを消費する攻撃は、回収可能なリソースであるSPを消費する攻撃よりも効果が高いらしい。やっぱり消耗戦に持ち込んで正解だったな、同じく回復する手段が限られている、HPというリソースを回復できる手段のある俺が有利だ。
炎を纏った拳で、左ジャブからのワンツーを放ってくるが、スウェーとパリングでダメージを抑える。そのまま、相手の懐に入り込むように前へ出ながら、抉りこむようなボディブローを放つ。咄嗟に引いた右腕でガードされるが、押し切るように頭突きで追撃を加える。
そのまま、足を止めての殴り合いを続ける。こちらは、炎を纏った拳を警戒しながら戦うことを強いられているため、蹴りに対応しきれず、HPも30%ほどまで削られてしまっている。しかし、お互い殴り合う状況のおかげで、『纏気』の効果量は増加し続けており、攻防ともに最初の状態から50%近く上昇している。
相手も、俺が殴り合うたびに強化されていることに気づいたらしい。しきりに、こちらの頭上を見ては、HPの減少量を確認している様子だ。相手のHPも40%ほどまで削れており、試合はクライマックスに近づいている。
突如、男が大きく距離をとる。声は聞こえなかったが、恐らく『ステップ』を使用しての移動だ。一度仕切り直し、再び遠距離攻撃をするつもりだろうか?激しい戦闘から、一転して離れたことで、周囲の観客の声が耳に入る。
「良いぞー!もっとやりあえー!ぶっとばせー!」
「あの赤髪の男、気功士か?帝国では珍しいな、面白いスキルだ。」
「まさか、ヒヨッコがこんな熱い試合を見せてくれるとはなぁ!!」
狭い決闘場の観客席ですら、客入りはまばらだが、その誰もが目を輝かせてこちらを見ている。これまで、大会なんかにはあまり出てこなかったが、勿体ないことをしてたかもな。俺の試合を見て喜んでくれるヤツがいるってのは、中々に楽しい経験だなぁ。
「なあ、観客を見てみろよ。あんなに熱中してるぜ、俺たちの戦いでだ。なら、しょうもない終わり方なんて出来ねえよなぁ!」
「なんだ?遠距離攻撃をやめろとでも言うのか?あいにく、そんな安い挑発に乗ってやる気はない。」
「ちげぇよ!アンタの遠距離攻撃を避けて、カッコよく決めてやるって話だ!!!」
言い放つと同時に、地面を強く蹴り上げて走り出す。相手は、そんな俺にも動揺せず、落ち着いてクールタイムの開けた『ファイア・アロー』を発動する。今の俺の強化度合いなら、真正面からこれを喰らっても、負けることは無いだろう。しかし、まだ『エンチャント:ファイア』の効果が続いているため、その後の殴り合いで負ける可能性がある。
またしても、脇腹の位置に飛んでくる火の矢を、走った勢いを利用してスライディングで下をくぐって避ける。しかし、そんなことをすれば相手の目の前で隙を晒すことになる。
「驕ったか。そのような雑な回避では、恰好の的になるだけだ。『フットスイープ』」
予想通り、相手は姿勢が低く動きの止まった俺に対して『フットスイープ』を放ってきた。確かに、それが決まれば俺は完全に行動不能になり、アンタの勝利は確定するだろう。だが、アンタはしっかりその2本の足で立ったまま、ローキックの形で『フットスイープ』を発動した。
「それを待ってたんだよぉ!!『ステップ』!!」
「な、んだと......!」
慣性に逆らうように、俺の体は一気に進行方向とは真逆に1mほど移動する。そうすると、俺の目の前には、不安定な片足立ちの状態の男がいることになるって寸法だ!
「『フットスイープ』!!」
屈んだ状態の俺の足払いは、脚の長さを最大限に活かし、スキンヘッドの男の足を刈り取った。背中から落下し、仰向けで大きな隙を晒しているヤツに跨り、マウントポジションをとる。
「これで、もう避けるなんてことは出来ねぇなぁ!!」
「確かにそうだ......。だが、まだ腕は動く......!この状態からでも削り切って見せよう!」
こちらがマウントをとった状態で、ノーガードの殴り合いが始まる。上から下に叩きつける形の、こちらの攻撃は全てクリーンヒットするが、相手の攻撃は所々力が乗り切らずに、俺の頬を少し焦がす程度に終わる。
「まだだ、まだだぁ......!初期取得の魔法のリキャストは非常に早いのだ、燃え尽きるがいい......!『ファイア・アロー』!」
「良いガッツしてんなアンタ!!でも、それは届かねえ!『廻気』!!」
未だに諦めていない男は、零距離で魔法を放ち、10%を切った俺のHPを削り切ろうとした。しかし、その瞬間、『廻気』によって、これまで散々高めてきた気を全てHPとSPに変換して回復する。一気に50%ほどまで回復し、火の矢を完全に受け止める。気による防御を捨てたことにより、15%ほどのダメージを喰らう。しかし、その程度では俺は止まらない。
「これで、終わりだぁぁぁ!!!」
大きく右腕を振り上げ、顔面に叩きつける。魔法を撃つために伸ばされた腕では、ガードは間に合わない。一発の攻撃力では、気を纏っていた時よりも低いはずだが、この一撃がこの試合最高の一撃であることは、観客を含め全員が理解していた。
「勝負アリ!!勝者、ロォボォーーーーーー!!!!!」
ガンガンと音をならし木槌での乱打を受けたゴングが、試合の終了を知らせる。観客からは歓声が沸き上がり、司会者もまた感極まったような声を上げる。その声に応えなくちゃ、見てもらった人たちに失礼だよな。
「勝ったぞおおおおお!!!!」
雄たけびと共に、観客たちへ視線を向けて右腕を挙げる。熱気に寄せられたのか、最初に入ってきた時よりも観客の数は増えていた、その全てが勝者である俺に祝福を送り、健闘したあいての男へ労いを送る。
「良かったぞー!いい勝負だった、受け取れー!」
「気功士の力、侮れんな。良いものを見せてもらった。受け取れ。」
「よくやったぞ!!ヒヨッコぉー!!飛び道具持ち相手に、速攻を仕掛けるとはなぁ!!それでこそ拳闘士である!!!受け取れい!!!」
観客たちからチップが、嵐のように飛んでくる。木製の硬貨が勝者を称えるシャンパンのように降り注ぎ、インベントリに吸い込まれていく。闘技場での対人戦は経験値はもらえないが、いい試合をすればチップがもらえるってわけか。
じっくりと勝利の余韻を噛みしめ、闘技場スタッフの案内を受けて決闘場を後にする。受付の方まで戻れば、どうやらもう蘇ったらしい対戦相手の男が立っていた。
「漢同士の熱き決闘、楽しませてもらった。私の名はキング・ライオ、君の名を聞かせてくれ。」
「俺の名前はロボ、こっちこそいい経験になった!ぜひまた対戦しようぜ!」
「ほう、ロボか。それに腕の紋様、狼王ロボ、というわけか。その魅力的な申し出、ぜひとも受けよう!」
お互いに固く握手を交わすと、フレンド申請を送る。すぐにそれは承認され、フレンド欄にキング・ライオの名前が載る。すると、装備が完成した旨のメッセージとフォートからのメッセージが来ていた。キング・ライオに別れをつげ、またモヒカンの革職人のところへ向かう。
なんか、最近会うやつ髪型が特徴的なヤツが多いな、などと益体も無いことを考えながら歩いていれば、熱い決闘の熱が少しずつ引いていく。
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