第56話:新薬の効果
しばらく号泣した後、俺はイオに前世でも完全回復薬を飲まされた話をした。
その時のアズと同じことをイオが答えたから、涙腺にきたと説明もした。
『エカ、完治したなら、そろそろアレを片付けてくれない?』
疲れた様子が感じられる念話でフラムが言う。
その翼越しに空を見上げると、魔族たちがまだ攻撃を続けていた。
イオが触れているので、俺もフラムも完全回避の効果に護られ、魔法は全部はずれているけれど。
俺たちは傘のように広げられたフラムの翼に隠されていて、イオが加わったことはまだ知られていない。
魔族たちはフラムの行動を妨害する目的で魔法を撃っているので、当たらなくなったことに気付かなかった。
俺を刺した魔族も気付かず、一緒になって魔法を撃っているようだ。
「そうだ、あいつらのせいでアズに唇を奪われたんだ……」
「人命救助だし! 俺はアズじゃない!」
男に唇を奪われた八つ当たりを、俺は魔族たちに向けた。
完全回避効果が切れないように、イオが背後から抱きつきながら名前が違うと主張する。
俺の中でイオとアズが同じ心の棚に入っていて、名前を言い間違えたが気にする余裕は無い。
「魔族は全て消え失せろ! 爆破消滅!」
俺はまた全力の爆裂魔法を放った。
生命力を使い切っても、イオが護ってくれるから大丈夫だろう。
俺は心肺停止状態となり、イオの腕に身を委ねて気を失った。
今度は、蘇生直後に魔族に刺されることは無かった。
しかし、俺を蘇生したのはフラムじゃない。
俺が意識を取り戻したら、イオに口付けされている真っ最中だった。
口を塞ぐように唇を重ねられ、喉に薬を流し込まれた直後のようだ。
完全回復薬とは違う、蜜のように甘い味がする。
とろけるような快感を伴う、この薬はなんだ?
意識はあるのに、抵抗できない。
というよりも、気持ち良くて抵抗する気にならない。
無抵抗で唇を重ねられたまま、甘い薬が喉から胃へと流れていくのを感じるだけだった。
「……なん……で……?」
唇が離れた後、ほろ酔いみたいな心地よさを感じながら、俺は聞いた。
生命力が尽きた俺に使ったのなら、イオが飲ませたのは蘇生薬だろう。
フラムがいるから蘇生は任せていいのに、何故飲ませた?
「エアに新薬を試してほしいって頼まれたから」
答えるイオも、少し顔が赤い。
俺はエアに渡されかけたあの薬を思い出した。
気持ち良く口移しできる蘇生薬とか言ってたな、これがそうか。
さっき完全回復薬を飲まされた時は、男に唇を奪われてショックだったのに。
今はメンタルダメージなどは無く、とろんとした心地よい感覚に身を委ねてしまっている。
「奪われてばっかりで悔しいから、俺も奪わせてもらうぞ」
「え?」
後から思い出したらトンデモナイことを、この時の俺は言って実行した。
キョトンとするイオの後ろ頭に手を添えて、こちらへ引き寄せて唇を重ねる。
イオは抵抗するどころか、受け入れるように俺を抱き締めた。
この新薬は、相手を恋人と錯覚させるような快感を与えるらしい。
多分、身体に無害だから完全回避は仕事しなかったんだろう。
フラムはといえば、見なかったことにするかのように目を逸らしていた。
御腐人方が喜びそうな世界に片足を突っ込んだ後、正気に返ってもメンタルにダメージは無かった。
むしろ口付けの心地よさだけが残っている。
まるで「いい思い出」みたいに感じるほど。
が、俺たちはそれを「事故」ということにして、記憶の隅に片付けた。
エアよ、この薬は調整を要するぞ!




