第53話:離れた双子
見習い冒険者のイオは、学園敷地内で狩れる獲物を討伐クエストに選んでいるらしい。
狩りをしていると思われる時間、ソナに居場所を調べてもらうといつも学園敷地内にいる。
「イオってばダンジョン内で昼寝してるわ」
「へ?!」
「夏夜の夢洞窟だから、仮眠をとるにはいいのかもしれないけど」
「ちょっと見てくる」
完全回避があれば、どんなダンジョンで寝ていても怪我をすることはないが。
硬い岩の上で寝ていても、背中が痛くなったり風邪をひいたりすることはないけど。
俺はイオが気になって様子を見に行った。
夏夜の夢洞窟。
転移魔法を使って行ってみると、イオは最奥のユニコーン生息エリアにいた。
ここでチッチに協力して、怪我をしたユニコーンの子供を保護した現世の記憶は残っている。
ユニコーンの子とその母親はチッチと生活しているので、今はここにはいない。
「ほんっと寝つきの良い奴だなぁ」
草地に寝転がって爆睡しているイオの隣に座り、俺は呟いた。
転移者の誰かが「寝る子は育つ」をわざと言い間違えて「寝る子は粗雑」とか言っていたっけ。
イオは「俺、育たないで粗雑になるのかよ」ってツッコミ入れていたな。
こんなにもよく眠る奴が、あの日「眠れない」と言っていたんだ。
「……生存確認、よし」
小さな身体を抱き上げて胸に耳を当ててみると、規則正しい鼓動が聞こえる。
俺はイオを膝の上に乗せるように横抱きにして、その頬を撫でてみた。
熟睡しているイオは無防備で、完全に身体の力が抜けて全く抵抗する気配が無い。
ナーゴ居残り転生者の中で、1人だけ6歳児の姿から変わらないイオ。
成人した姿の俺との体格差は、離れた心の距離を連想させた。
今なら楽に抱えて運べるぞ。
このまま実家に連れ帰ろうか?
でも、意識の無い奴を連れ去るのは卑怯だよな……。
俺はしばらくイオを抱いて寝顔を眺めた後、目を覚ましかけたところで転移魔法を使って離れた。
アサケ学園図書館。
最近、イオの俺対応がしょっぱい。
「イオ、ゆ……」
「断る」
返事早すぎだろ。
せめて用件を言わせてくれ。
ウルッとしながら置き去りにされた俺を、たまたま居合わせた転移者学生たちが、気の毒そうに眺める。
「イオ、最近雰囲気変わったな」
「あまり笑わなくなったよな」
学生たちの話では、授業には集中していて成績は良いらしい。
武道科では身体能力が高く、途中から移籍したのに技術面では飛び級できるレベルまで上がっている。
でも、他の学生との交流はほとんど無く、授業が終わるとすぐ姿を消してしまう。
多分、放課後は禁書閲覧室に篭ったり、ダンジョンで狩りをしたり忙しいんだろう。
ダンジョンで仮眠をとったりするイオに、社畜リーマンのネカフェ宿泊を連想してしまうのは、多分現世の記憶のせいだな。
◇◆◇◆◇
見習いパーティのクエストも、明日がいよいよ最終日。
狩り場の情報を得るためギルドハウスへ行ったら、中から出て来たイオとすれ違った。
「イ……」
「断る」
……って、名前くらい呼ばせろよコンチクショウ。
イオはスタスタと歩き去ってしまった。
俺は、嫌われているんだろうか?
親友の身体を乗っ取った、前世の亡霊みたいに思われているのか?
でも、それなら、エアは?
イオにとってたった1人の家族だった妹の身体を乗っ取ってるぞ?
エアの店には度々来ていて、親しくしているようだけど。
ローズとも友好的みたいだし、今のところ避けられている前世覚醒者は俺だけだった。




