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皆様、婚約破棄のお時間でございます

 フォルマ教はアノア・アイノールという平民の少女に聖女の称号を与えた。


 ヘレナの婚約者であるニカウォル・ディンナトはひと目で彼女の虜となり、もう何度となく逢瀬を重ねている。


 

 エフティヒア侯爵は今日までの16年近く、フェレスがあの夜に告げた事が次々とその通りになっていく事に恐怖を覚えたが、これも全て四季の女神様方の成せるわざだと思えば安心もできた。


 フォルマ教への寄進額が減った分、ちょっとだけ4神殿への寄進が増えたが、それは誰にも言わなければわからない、彼と執事長だけの秘密である。




 国王とも幾度も話し合い、この状況が続くようなら婚約解消も視野に入れて進める、と決まった。


 国王には年の離れた弟がおり、ヘレナとはちょうど10才差の26才だ。

 ヘレナが生まれた当時は婚約者がいたが、結婚して数年で亡くなってしまった。


 もともと学者肌で社交があまり得意ではなかった彼は、兄の邪魔になってはいけないと領地に引っ込んでいる。


 後妻という形にはなるが、穏やかな気性の人物で豊かな領地も持っていて、しかもエフティヒア領からも近い。

 もしも何かあれば、一度彼と会わせてみてはどうか、という話になっていた。


 後妻という事で最初は渋っていた侯爵も、実際に会ってみた王弟の誠実で穏やかな人柄を気に入り、前向きに考えている。

 この話自体は決定ではないが、王妃に強く推されて押しつけてしまった婚約者の不品行に頭を悩ませていた国王はひとまずほっとしたのであった。








 そしていよいよ、春の女神の祝賀当日。

 フェレスはヘレナについて城までやってきていた。


 前回訪ねていた乳母は、故郷ではなくエフティヒア領の村に小さな家を与え、そこで住んでもらっている。

 何かあれば領地の管理人が責任を持って面倒を見てもらう事になっているため、この冬、乳母は無理をする事なくのんびり過ごせたようだ。

 少し前に書いた手紙の返事が来ていたが、近所の住人達と楽しく暮らしていると書いてあった。


 おかげで、フェレスは今夜の夜会に集中できる。


 大切なお嬢様の美しく装った姿を見て、フェレスは誇らしく、そして嬉しかった。

 メガネの奥で瞳をうるませ、声が震えないよう気をつける。

 

「お嬢様、お嬢様はわたくしの誇りでございます。いいえ、わたくしだけでなく侯爵家で働くすべての者の誇りでございます。誰がなんと言おうと、何が起ころうとも、わたくしども全員がお嬢様の味方で、必ずお助けする事をお忘れにならないでくださいませ」


 ヘレナはフェレスの言葉に頬を染め、華やかな笑顔で返す。


「ふふ、ありがとうフェレス。でも大げさよ。なんだか恥ずかしくなっちゃう」


「大げさなことなど何もございません。さあ、お引き止めしてしまいました。皆様がお待ちでいらっしゃいます。どうぞお早く」


「はぁい。行ってきます、フェレス。大好きよ! あなたに春の女神様の祝福がありますように!」


 毎年、毎年のその言葉。


 前回は確か、春の祝祭の日に開けるようにと渡されたカードに書かれていた。

 ヘレナが乳母のところへ行ってくれと頼まなければ、あの日、フェレスはこの夜会にいただろう。

 そして侯爵邸でみんな一緒に死んでいた。


 何度、あの日一緒に死んでいればと思った事だろう。


 けれど今思えば、全てが祝福だったのかもしれない。


 苦しかったこと、辛かったこと、もしかしたら全て。

 何かひとつ違っていても、今のフェレスにはなっていなかったはずだから。






 ヘレナが出て行ってしばらくして、城の一室を借りて腕の立つ従者とメイドを大勢引き連れ、その時を待っていたフェレスはぴしりと背筋を伸ばし、いつもの無表情で言った。


「皆様、準備はよろしいでしょうか?」


 フェレスはメガネをきらりと光らせて周囲の人々を見渡す。


 全員が無言でうなずいた。

 それにフェレスも満足そうにうなずき返す。


「結構です。それでは」


 そしてメイド服の長いスカートの裾をひるがえして扉を開いた。


「皆様、婚約破棄のお時間でございます」










あと何話かで終わります。

この続きは多分夜に投稿できるかと……。



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