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未来を変える

 夜、侯爵は友人達と静かに酒を飲み、祝いの時を過ごした。


 夜も更けると友人達は帰り、幸せで眠れず1人書斎で酒に酔う。


 神殿と教会全てに感謝の言葉と共に寄進を済ませている。

 侯爵は信心深い人ではなかったが、彼の母と妻は女神の神殿への祈りを欠かさなかったし、それに人ではどうしようもない出来事に神々が力を貸してくれているという事も理解していた。


 跡取りにも恵まれ、娘達もいる。

 領地にも問題はなく、王家との関係もそれなりに良い。


 今後も何も問題はないように思われて、ブランデーの入ったグラスを傾けながら幸福に浸っていた。


 そこへノックの音が響く。


「入りなさい」


 機嫌良く答えると、ドアが開いて入ってきたのは小さな子供。

 確か生まれた娘のナーサリーメイドとなるはずだ、と思い出す。

 名前は、確か……フェレス。


「どうしたね、フェレス。何かあったのか?」


 本来なら彼女は直接ここまで来ていい職分ではない。

 酔いも手伝って、そのことに少しだけ不機嫌になった。


「旦那様」


 フェレスは突然、入り口にうずくまるようにして頭を下げた。

 突然の事に侯爵は驚いて立ち上がりかける。


「どうした!」


「旦那様、どうかお聞きください。信じられないことでしょうが、わたくしはどうしても旦那様にお話しなければならない事があるのです」


「一体どうしたというのだ」


「ご不快は重々承知でございます。どうか、どうかわたくしの話をお聞きいただけますでしょうか」


 フェレスが顔を上げる。その頬は涙に濡れ、まぶたは腫れ上がっていた。

 そして思う。

 この子供はこんな話し方をする子供だったのか?

 これではまるで大人のような……。


 侯爵は少しの不機嫌などすっかりどこかへ行ってしまい、フェレスを部屋に招いた。


「入りなさい。まずはどういうことか話してみなさい」


「ありがとうございます、旦那様」


「ああ、ドアは開けておくように」


 そう言った侯爵に、しかしフェレスは従わなかった。


「いえ、旦那様。これからお話することは、けして誰にも聞かれたくない話なのです。ご安心ください。ここへ来るまで気配を消して参りました。誰にもわたくしがここにいる事は気づかれておりません。もしもどうしても気になるようでしたら、執事長をお呼びください」


 言われて侯爵は執事長を呼んだ。


 彼は近くの部屋に待機していたようですぐにやって来たが、室内にフェレスがいるのを見て眉の辺りにわずかに怒気をあらわした。


「失礼いたします、旦那様。フェレス、なぜおまえがここにいるのだ」


「どうしても旦那様にお話しなければならない事があったからでございます。どうぞ執事長、ドアをお閉めになってわたくしの話をお聞きください」


 執事長は侯爵を見て、うなずいたのを確認すると無言でドアを閉じた。


「ありがとうございます。わたくしがこれからお話しします事は、どうぞ他言無用にお願いいたします」


 そしてフェレスは16年後のことを話し出した……。









「そんなまさか……」


「とても信じられません」


 顔色の悪い侯爵と執事長に、フェレスは肩を落とした。


「にわかには信じがたい事と承知いたしております。ですがどうか、お嬢様のためにもどうぞご検討ください」


「いや……信じられない話だが、作り話とも思えない。ゼノン、フェレスはこんな喋り方をする子供だったか?」


「いえ。多少しっかりしてはおりましたが、ごく普通の、庶民の子供と変わらない話し方でした」


「だろうな……。以前からこうだったなら目立ったはずだ」


「では、旦那様」


「ああ、ある程度信じてもいいと思っている。だがまずは王からの婚約の話が来てからだ。もし来たなら断ることは難しい。婿入りでもないから、こちらで教育することも難しい。だがおかしな方向に進まないよう、気をつけていて注意することは可能だろう」


「しかし旦那様、それでは」


 執事長のゼノンが困ったように眉をひそめる。


「ああ。それでは婚約破棄は避けられない可能性が高い。そうなれば、先ほどフェレスの話していた通り、他の婚約者候補を探しておき、王との関係をさらに良好なものにし、助けが来るまでこの屋敷で耐え凌ぐ方法を取らざるを得ない」


「この屋敷で、でございますか……」


 ここは王都の貴族街の中である。

 そのため道路は大型の馬車がすれ違う余裕がたっぷりとあるほど広いが、それでもここで戦闘が、それもこの屋敷が焼け落ちてガレキのみになるような戦闘が起こるとは考えにくい。


 そしてただの街屋敷である以上、ここで騎士団からの攻撃を耐えるのは不可能に近いと思われた。


 しかし執事長のその懸念をフェレスが吹き飛ばす。


「ご安心ください。わたくしには武術と魔法の心得がございます。屋敷内の使用人を、全員とはいかずとも、決して奴らには負けないよう鍛え上げる事が可能でございます」


 キラリ、と光った紫の瞳の苛烈さに、侯爵と執事長は言葉を失ったのだった。









 

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