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ザフィリカルス

 ザフィリカルスは竜である。


 500年ほど前、この山の頂上に住まいを定めて、そのほとんどを寝て暮らしている。


 竜族はその数が少ない。

 ザフィリカルスと同じ世界を守る役目を担う神竜ともなれば、その数は5体のみだ。


 彼以外は(つがい)で暮らしているため日常を起きて過ごしているが、あいにくザフィリカルスには番がいない。

 そのため、仕事があるとき以外は山の内部で寝ている事が多かった。







 今日もそうしてのんびりと昼寝をしていたのだが、仕事がある時期でもないのにしばらく前から精霊達が騒がしい。


 あんまりうるさいので誰も近づけないよう結界を張っておいたところ、女神に雷を落とされて破壊されてしまった。


 その女神は普段こういう事をするタイプの神ではないため何かあったのかと起き出してみると、大層立腹した様子で、山の頂上近くで倒れている人間を連れて来いと言う。


 行ってみると、確かに人間の女が1人倒れていた。

 降り始めた雨に体を濡らし、まだ若いようだが死にかけている。


「娘、おまえは運がいい。女神がおまえを連れて来いと仰せだ」


 薄い紫の瞳が、今にも魂が体を離れそうなくせに強く光っている。


 肩に担ぎ上げると、埃っぽくて汚れていた。


「おまえ、名前は──」


 だがすでに意識を失っていた。

 まあいいか、とザフィリカルスは神界への扉を開く。

 名前などあとで聞けばよいと考えて、はて、と首をひねる。


 人間の名前など、聞こうと思ったのはいつぶりだろう、と。









 神界では複数の女神が待ち受けていた。


 人間の娘を精霊達に預けてまずは女神達から話を聞くと、またぞろ人間達が勝手をし始めているらしい。


 人間という種族はどうにも獣の(しょう)に引きずられがちで、放っておくと欲が肥大して己のみならず周囲を破壊する。

 知恵を持ち、自我が発達すると生き物はどうしてもそうなりがちだが、進化のためには欠かせないものではある。

 仕方ないこと、とその多くは見逃されていた。



 だがどうやら、人間は今回、女神方の逆鱗に触れてしまったらしい。


 

 日頃は穏やかでのんびりとした春の女神が不機嫌な様子で椅子に座っていた。


「わたくしを讃えるという集まりで、女の子に恥をかかせて嘘の罪を押しつけ、あげく身内ごと命を奪ってしまうなんて。あり得ないことです」


「あの国とそこの教会は、最近勝手が過ぎるようですね」


「全ての教会ではありませんよ。なんと言ったかしら、確かフォルマ教教会だったわよね?」


「ええ。あの国には神殿が4つ、教会が3つあります。フォルマ教はあの国でできた宗教の教会でしたわね」


「必要かしら、それ」


「わたくしは滅ぼしていいと思うのだけど」


「賛成ですわ」


「わたくしも」


「いっそ国ごと新しくしましょうか」


 

 季節を司る女神4神が集まって物騒な話をしている。

 ザフィリカルスはそれを興味もなく聞いていた。

 決定した内容を実行するのは彼なのだ。

 そこに彼の意志が含まれることはないが、聞くだけ聞いておけば突然押しつけられる状況だけは避けられる。



 そのうちに精霊達が綺麗に洗って飾りつけた人間の娘を連れてきた。


 娘、というには少し年齢がいっている気もするが、人間の年齢などはっきりとは分からないしどうでもよかった。

 どうせすぐに死ぬ種族なのだ。



「女神様」


 先ほどまでは動くことすらできないほど弱り、死にかけていたその若い女は、今は自分の足で立っている。

 女神の前に出て、一歩近づくとひざまずいた。


御身(おんみ)の前に(まか)()しまして、いと尊き(おん)女神様方にご挨拶申し上げます」



 








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