表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

簡単に婚約破棄などと

このお話はひだまりのねこ様主催『つれないメイド企画』参加作品です。




 今夜は王城で春を祝う祝賀の夜会がある。


 フォルミラカ王国では建国の際、春の女神のお力添えをいただいたという歴史があり、毎年、王都が花盛りとなる4月の暖かい夜に城で夜会が開かれるのだ。


 この日だけはマナーをうるさく言われる事もなく、家族や婚約者よりも、友人同士や仕事仲間での参加が推奨されている。

 春の女神は朗らかなのんびりした性格をしていると言われ、楽しい事や友人同士でのおしゃべりを好むとされているためだ。


 もちろん、まだ婚約していないものの恋人同士であると周囲から認識されている2人のパートナーとしての参加も認められている。


 これは春の女神が恋人達の守護者であるためだが、恋愛感情のない政略結婚などの場合は参加を見送るよう周囲からやんわりと注意された。




 フォルミラカ王国の侯爵令嬢、ヘレナ・エフティヒアは幼馴染の貴族令嬢2人とともに夜会に参加した。


 名前が呼び上げられ、大きな扉から会場へと入る。


 天井高く輝くたくさんのシャンデリア。

 人々の笑い声や話し声。

 奏でられる品の良い、楽しげな音楽。

 それに合わせて踊る男女。

 色とりどりのドレスがくるくると回り、ほんの少しだけお酒に酔ったように笑い合う。


 心が浮き立つような毎年の風景を期待して、一歩を踏み出す。



 だが、笑い声も楽しげなおしゃべりもぴたりとやみ、音楽だけが所在なさげに辺りに響く。


 踊り続ける人たちはそんな空気の中、どこか滑稽でまるで同じ室内に2つの世界が存在しているかのようだった。


 ヘレナはいぶかしげに辺りをそっと見回し、腕を組んだ友人2人と顔を見合わせた。


「どうしたのかしら」


「何か変ね」


「ええ。でも気にしても仕方ないわ。ワインをいただきましょうよ」


 屈託なく笑った友人につられ、ヘレナも笑顔になると3人で歩き出す。

 

 途中、先に会場入りしていた他の友人達を見つけて声をかけると、彼女達は心配そうにヘレナを見つめている。


「何かあったの?」


「それが……」


 友人の気まずげな視線の先には、ヘレナの婚約者のディンナト公爵家子息、ニカウォル・ディンナトと、そしてもう1人。

 最近度を越して親しくしていると噂の、アノア・アイノール。

 教会で聖女の称号を与えられるほどの治癒の才能がある、平民の少女である。

 

 昨年、15才の成人の儀で能力の目覚め、貴族の通う学園へ入学した。

 ヘレナやニカウォルと同い年だが、小柄で一見すると年齢よりも年下に見えるにも関わらず、どこか妖艶な魅力のある少女だ。

 ニカウォルは初対面のときから彼女の虜となっている。


 ヘレナは2人の姿を見て眉をひそめそうになり、持っていた扇で表情を覆い隠した。









「皆様、準備はよろしいでしょうか?」


 フェレスはメガネをきらりと光らせて周囲の人々を見渡す。


 全員が無言でうなずいた。

 それにフェレスも満足そうにうなずき返す。


「結構です。それでは」


 そしてメイド服の長いスカートの裾をひるがえして扉を開いた。


「皆様、婚約破棄のお時間でございます」









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ