現在 マサ
俺は昔、駆け落ちをしたみたいだ。
何故疑問詞かと言うとまだ小学校に入ったばかりでその時の事を殆ど覚えていないからで、唯一覚えているのは両親特に母親にしこたま怒られた事は覚えている。
その後直ぐにその子は転校して、俺自身もお小遣いも中学まで殆ど貰えず暫くの間一人で遊びに行く事も許されなかった。
それからの俺は問題らしい問題行動をせず普通の子供として生活していたが、俺が高校入学前の春休み。
その駆け落ち未遂の相手と再会する事になった。
と言うのも当時の親達の取り決めで『十五歳までお互いの交流させない』と決めたそう。双方の高校受験も終えた今の時期に再会する事になったみたいだ。
当事者抜きで勝手に決めるのもどうかと思うが、小学校入学したばかりの子供が未遂とは言え駆け落ちするなんて許される行為ではないのでしょうがない。此れは大人が決めた方が良いだろう。
そう言う訳で俺は親が決めた関西にある大型遊園地に待ち合わせする事になった。
因みに両親と三つ上の兄貴は着いて来てはくれたが、その後は別行動で市内の観光するそうだ。何とも薄情な身内だが、幼いとは言え自分が蒔いた種なので仕方がないと諦める事にした。
今日俺が身に着けているのは兄貴から借りて貰った大きめの柚葉色のジャンパーに、濃い藍色のシャツにパステルイエローのズボンと言う無難な色でコーディネートしている。靴はこれも兄貴から借りたゴツイ黒のロングブーツだ。
長い髪は黒の髪ゴムでポニーテールしている。……まぁ今どき髪の長い男は珍しくはないから大丈夫だろう。
母さんからの情報によると駆け落ち相手は『白の帽子』が目印なので、分かりやすい事。因みにこっちは分かりやすい様に入り口で待っている『長い髪』て伝えているのできっと分かるだろう。
スマホを弄りながらも遊園地に入る客達をチラチラ見てお目当ての相手を探しながら、昔の記憶を思い出していた。
件の相手は写真も取る前に転校して行ったので話は全て家族経由で知ったのだが、可愛らしい子だったそう。そして当時の俺とあまり仲良く出来なさそうな大人しい子供だったそうだ。当時の俺は男達と混じってサッカーやら野球やら外で活発に動いていたから絶対に合わないだろう。
そんな正反対な俺達が良く駆け落ち何てするもんだと他人事の様に感心していたが、少しだけ思い出した事があった。
クラスメイトで席は俺より斜め一つ上の席に座っていた子。俺よりも小柄で枯れ木の様に痩せていた何時も綺麗な服を着ていた女の子。
他の子と遊ばずにずっと俯いていたから、ちょっと可哀想だなと思った俺から声を掛けたのだった。
確か名前は……
「……あの………」
小さな鈴が鳴る様な小さな声がした。聞き逃さなかった俺は声をした方へ顔を向けると、其処には白いつばが広い帽子を被った俺の首から下位の身長の女の子がいた。
「もしかして……『百合瑠』さん?」
「はい……辺見マサ君?」
「うん、いや、はい。お久しぶりです」
数年ぶりに再会した百合瑠さんはとてつもない美少女だった。
腰近くまで伸ばしている。其処等のアイドルよりも可愛い顔立ちで、烏の濡れ羽色の髪に黒真珠の様に綺麗な瞳。白いワンピースに桃色のスカーフを首元に巻いてる。まるで物語に出てくる様なお姫様の様な可憐な女の子。
……良いなー。
「あの……」
少しナイーブになりかけた時に百合瑠さんが心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。いけないいけない。
「それじゃあ早速パークに入りましょうか。……その、最初に行きたいアトラクションとかありますか?」
「あの、あそこに行っても良いですか?」
「『あそこ』?」
百合瑠さんが行きたいアトラクションは世界的に有名な蜘蛛男のアトラクションだ。百合瑠さんの手前言わなかったが、本音と言えば俺も一番行きたかった所だ。一度親と兄と一緒に乗ってから一番のお気に入りになっている。
―――ダメなの? この間お父さん達と来た時は乗れたのに?
―――ゴメンね~保護者の人達と一緒じゃなければ乗せられないのよ。
―――この子初めて此処に来るのに?
―――このアトラクションは決められた身長以下の子供は保護者と一緒に乗ってはいけない決まりなの。
あっ。
「そう言えばあの時は身長制限で入れませんでしたね」
「あの時は辺見君が粘ったけど結局乗れませんでしたからね。今日は再チャレンジしましょう」
「そうですね……あの」
「?」
俺の服の裾を引っ張って呼び止める。少し言いにくそうに言いよどむが意を決して話始めた。
「もし良ければ。敬語は止めて昔みたいに砕けた言い方にしませんか? 何だか余所余所しくて」
「……良いよ。なら俺の事は『マサ』って呼んで。周りからそう呼ばれているから」
「それじゃあ私の事は『リル』と呼んでくださいね」
「分かった。リル早く行かないと直ぐに行列が出来て並ぶ羽目になるからね」
結論から言うとリルとの遊園地巡りはとっても楽しかった。
小さい頃乗る事が出来なかったアトラクションもリベンジ出来たし、気になっていた魔法使いのアトラクションにも、当時は乗る事すら出来なかったであろう看板アトラクションの一つでもあるジェットコースターに乗る事が出来た。
美味しいご飯やお菓子も一緒に食べても、先程乗ったアトラクションの話やお互い好きな漫画やアニメ、ドラマの話で盛り上がった。
本当に十年も付き合いのあった様な錯覚を覚えてしまう程、俺は楽しんでいた。
楽しさの余り夜のパレードまで遊園地に居てしまい、気付いた頃には閉園時間の音楽が鳴り響いていた。
「もう終わりか……リルはこの後どうする? 親御さんが迎えに来るの? 俺は泊っているホテルが近くにあるからこのまま歩いて帰るけど?」
「私は迎えの車がありますので……」
『迎えの車』と聞いて俺は納得した。俺は兎も角、確かにこんな可愛い子を一人にさせたら害虫の餌食になっちまう。
そう思っていた所に緑色の軽自動車が俺達の目の前に止まった。恐らくリルの保護者の方の車だろう。
「ホテルまで送りましょうか?」
「良いよ良いよ。此処から歩いて直ぐのホテルだから。……それじゃあバイバイ、さようなら」
スタスタ歩き始めた俺にリルは慌てた様に大きな声を発した。
「ま、また会いましょう! マサ君!!」
俺は手を軽く振ってその声に答えた。リルのその願いに答える事は出来ないから。
久しぶりの大阪旅行は楽しかった。
忙しい旦那も久しぶりの旅行で大分スッキリした表情をしているし、美味し物好きな息子も昨日は美味しい物を沢山食べて……アレだけ食べて夕食も食べる息子の大食漢ぶりには親ですら呆れる物だ。
そしてこの旅行の一番の理由である娘は少し落ち込んでいる。
どうやらあまり良い別れ方をしなかった事を気にしているみたいだ。良くない別れ方をして相手の気分を害して二度と会えないと思っている様だ。
そんな事はないかと思うが、昔から頑固な所があるからきっと二度と会わない方が良いと思っての行動だろう。
落ち込み気味の娘だが、それでも朝食ビュッフェをたらふく食べ(息子も昨日もあれ程食べたのに今日も食べる)自分達の部屋に戻る最中だった。
バッタリと彼等と再会したのは。
娘はあんぐりと大きく口を開き、零れるそうな程目を見開いた。その姿は相手側も同じだ。
何せ昨日会ったばかりの少年がスカートを履いていて、少女の方は長い髪を丸坊主にしてズボンを履いていたら誰だって驚くだろう。




