宝石問題
「ーーだ・か・ら! それでは採算が合わない、と言っているんです!」
「うるせえ! それをこれ以上安く買い取るなんてしてみろ!
それこそ問題になるわ!」
「だってこれ明らかに安物でしょ!」
「だからなんでそうなんのか教えろって言ってだろうが!」
「見りゃわかるでしょ!」
「わかんねえから言ってんだろうが!」
早速の口論ですみません、アストです。
町を出てかなりの時間がかかりながらもつい数時間前にようやくエルストリアに到着しました。
〜〜〜〜〜〜
「長い旅路、ありがとうございました」
「おうよ。入学試験、頑張れよ!」
「はい!」
御者さんと別れた俺は真っ直ぐに魔法学園の入り口へ向かった。
「あの……入学試験の手続きをしたいんですけど……」
「かしこまりました。必要な書類をお持ちですか?」
「はい、持ってます」
書類を渡すと目を通し、正当なものと判断し許可を出した。
「申請書、確かに受け取りました。
入学試験は明後日になりますので、朝9時に来てください。
こちら、宿泊書になります」
「しゅくはくしょ?」
「こちらの宿泊書を宿に提出することで合格発表の日までの宿泊費用を免除することができます」
「え? いいんですか?」
「はい。これは国からの特別費用となりますので。
ですが、食費等の費用は発生しない場合がありますので、お気をつけください」
受付の人の話を聞いてロビーを出ようとして、
「……あの、」
「はい」
「ペットと宿泊可能な宿ってありますか?」
そう聞いた時、頭をテシテシと叩かれた。
〜〜〜〜〜〜
宿泊宿は受付の人のおかげであっさりと見つかった。
大通りから少し離れた小さな宿。宿の一階は料理屋をしており、金さえあれば食事に困ることはないだろう。
合格発表がされる日までこの部屋は俺の部屋だ。
「ところでアルマ〜。お前、よくも頭を叩いてくれたな〜」
そう言って帽子を取ると、そこにはなにもなく、帽子の方を確認してみると、帽子の中にすっぽりと収まっていた。
このこのと、帽子から出してくすぐると楽しそうにくねくねと体を捩らせた。
アルマは意外とこれが好きだったりする。
「それにしても、食費か……」
正直、これが1番の痛手だったりする。
これでも平民の生まれ、だからたいしたお金は持っていない。だが数日分の食費ぐらいならどうにでもなる。
「問題は……」
「くう?」
アルマの食費である。
アルマは、あまり人間やペットなどが食べる食べ物を好んでは食べない。
食べても一口二口食べてごちそうさま。吐き出さないだけまだマシである。
そんなアルマが食べる食材。それはなんと宝石である。
アルマは元々カーバンクルと呼ばれる宝石の精霊。魔力の篭った宝石を選び食べる習性がある。
それ故にアルマのご飯は宝石と言わざるを得ない。
そんなアルマのご飯である宝石ーー
「……アルマ」
「くう?」
「お前……また勝手に宝石を食べたな」
「くうっ!?」
その数が減っていた。
「正直に言ってごら〜ん。袋中に宝石のかけらもあるし〜、ま〜た、勝手に食べたんだよね〜?」
「く、くう〜!」
「食べてないなんて誤魔化しできると思ってるの!
残ってるかけらに歯形が残っているのをどう説明するつもりなの!!」
「くう〜〜!!」
アルマは抵抗して逃げようとするが、がっちりと捕まっているため逃げ出すことはできなかった。
「食べたいって言えばちゃんと食べさせるのに……」
「くぅう!」
いや『つまみ食いだからおいしい』と言われても……。
「まったく……。これじゃあ合格発表の日まで宝石の数が持たんぞ」
「くう!?」
「そもそも魔力の篭った宝石なんてそうそう売ってないんだから仕方ないだろう。
それがわかっててつまみ食いしたのは誰ですか?」
「くう!!」
アルマは怒りながら俺の腰の方は前足を伸ばす。
「あ、こら!
俺が使っている宝石を食べようとするんじゃない!」
「くぅう!!!」
「ああもうわかった! 今から買うから、我慢しなさい!」
「くう!!!」
空腹のアルマの為に仕方なく宝石の買い出しに出かけることになった。
もちろん、宝石代は俺の食費から。
トホホ……。
(……そういえば、以前採掘した安物の宝石を持ってきたっけ。
ここでどれくらいの値打ちになるかわからないということで持ってきたが……それも売って夕飯の足しにでもするか)
〜〜〜〜〜〜
「おお!」
王道に出てみるとうちの町では見られないほど大勢の人がごった返していた。
「すっっご。こんなに人がいるところなんて見たことがない」
「くう」
「それに……人以外にも、先生みたいにツノがある人や動物の耳のある人がある」
先生はわかりづらいが小さなツノが生えていて、それを髪でうまく隠しているが、ここにいる人達はそれらの特徴を隠さず堂々としている。
(有名な街ではこれが当たり前なのか。うちの町は先生以外は人間しかいないし……。あんな感じの服を着た人間もそうそう居ない)
今から戦いに行くのだろう重い鎧やら革の鎧なんかをしている……冒険者? なるものを見てそう思った。
「……っと、今は宝石宝石」
冒険者がいるならきっと宝石を売っている露店がどこかにあるはずだ。
そう思い探してみると予想通りというか、随分とあっさり見つかった。
「あったあった」
「おう坊主。ここは宝石市だ。お前さんが払える金を持ってるのか?」
「それは値段にもよりますかね……」
俺は並べられるある宝石を一つ一つ確認していく。
よ〜く見て、よ〜く見て……その宝石の中から淡く光る宝石を一つだけ見つけた。
「おじちゃん! これ、いくら?」
「なんだ? そんな普通のやつでいいのか?
買ってくれんのなら、もっと上物の」
「これがいいの。で、いくら?」
「……銀貨4枚だ」
「たっか!?」
そんな買えるかちくしょう!
「もう少し安くなりませんかね……」
「残念だが、それが最安値だ。
納得いかねーんなら、諦めるんだな」
「そんな……」
銀貨4枚なんて払えない。
払ったとしても、合格発表の日まで俺の食費が確実に持たない……。
(……この宝石を売って少しでも食費の足しにしよう思ってたけど……こんなもん、銀貨で売れるわけないしな……)
俺はため息を出しながらカバンから宝石を取り出す。
「お、なんだ? 買ってくれんのか?」
「そんなのむ〜り〜。悪いんだけど、ここって宝石売れる?」
「ああ? そんなもん質屋にでも行きな」
「そっか。わかった。
その質屋ってどこにある?」
「ああ。それなら、そこの路地を曲がった……ところに……」
ようやく宝石を包んだ包みを取り出せたので、宝石屋のおっちゃんと顔を合わせながら質屋について尋ねると、おっちゃんはどんどんと声が途切れ始めた。
「お、おい坊主。そりゃ……いったいなんだ?」
「なにって……今言ったでしょ?」
俺は包んでいる布を取り、中身を見せる。
それは人間の頭ほどのーー
「ただ宝石の、アダマンタイトです」