入学試験 教員会議
「ーーでは、この生徒は合格、ということでよろしいですか?」
その問いに異議を答えるものはいなかったので、その受験生を合格とみなした。
「今年は例年よりやはり庶民からの合格者が多いですね」
「魔法試験での不正行為がなくなった影響も、あると思いますがね」
1人の教員がそう口にするとそばにいた教員たちもそれに便乗して頷いて反対側で集まっている教員達を見つめる。
見つめられた教員達は罰の悪い様子でリストに目を通す。
今回の入学試験。教員側では無自覚でアストがものすごい結果をもたらした影響で本来肩身の狭い教員達が喜ばしい結果となり、逆に今まで偉そうにしていたほとんどの教員達が肩身の狭いを思いをしていた。
平民や庶民にあたる受験生達のほとんどは実技試験や筆記試験で一定以上の成績を収めていたが、そのどれもが魔法試験において点数不十分として落第を言い渡されていた。
そもそも、あの魔法試験は普通の平民……アストのような凸しつた異常者のような者が受けなければそもそも合格できないシステムとなっていた。
ある一定量の魔力を感知すればそれを対して強烈な突風を引き起こす魔法陣が隠されており、さらに的として使用された魔力測定器には術式をいじられて99以上の数値を評価されないように設定されていた。
それをアストが力技によって魔力測定器を破壊したことにより、不正を行った教員達、貴族出身の教員である彼らの悪事が明らかになり、その結果、それに加担していた教員達が大勢、解雇を余儀なくされた。
その為、現在残っているのは貴族派でありながらもそれに加担していなかった僅かな教員と、平民や庶民に味方をし続けていた善良な教員だけ。
故に貴族派の教員は次は自分達が切られるのではないかと怯えながら静まり返っている。
そんな様子に庶民の味方な教員達は非常に気分が良かった。
「では最後に……受験番号:58432番の審議に移る」
学園長の合図で全員の顔が引き締まる。
庶民の合格を喜んでいる教員達にとって、その受験番号、アストの合格はほぼ確実だという確信があった。
全ての試験においてトップクラス成績を叩き出しているアスト。故に不合格は無い。
だが、貴族派の教師陣は違う。
「我々は彼の入学は反対です」
貴族派の教師陣は一目散に反対を言い張った。
「………理由を尋ねても?」
「一般教養です」
「いっぱんきょうよう?
彼の点数は合格に充分に満たしていると思いますが」
「彼の一般教養の点数は97点。確かに合格には満たしております。
しかし! 彼は実技試験開始直前に、与えられた模擬剣をおり、さらに魔力測定器を破壊しました。
それに実技試験での態度! 誰も喋っていない中での無言の退出!!
あの態度はあまりに不適切!
彼の行動は一般常識があまりに欠けています! そんなものをこの由緒正しきエルストリア魔法学園に入学させるのはいかがなものかと存じます!」
貴族派の者のその発言に他の貴族派の教員達も便乗して抗議を申し出る。
だがそれに黙っている善良な教師ではない。
「彼の点数は97点。他全ての教科は満点や99点に迫る点数です。
勉学もしっかりとこなし、なおかつ魔法や実技においても努力を続けたのであろう受験生であることに間違いはありません。
たった3点の減点で、あなた方の不正の責任を彼に押し付けるのは間違いです!」
「あれは勝手しでかした者達の責であって我々とは関係はない!!
他者が試験を行うのにその試験器具を破壊したことを問題としているのです」
互いに全く噛み合わない論点でアストの合否を審議する教員達。
そんな教師達の言葉を塞いだのは上座に座る御老人が受験生達の試験結果が書かれた書類をテーブルの上に投げ捨てたことだった。
「……」
「が、学園長……」
「学園長もこのような暴挙、許されません。
彼は結果は不合格にするべきです!」
「……そうじゃの。もし、君らを意見を採用し、彼を不合格、と扱ったとしよう……。その場合、彼の行動はもう既に受験生や生徒達の間で広がっておる。
仮に、彼を不合格として扱って落第させたとするならば……まず教師が生徒を正しく育て上げることが出来ないと不信感を抱かせ、来年の受験生は激減することだろう。貴族学園に流れていくこと間違いなしじゃ」
「し、しかしそれでは……」
「逆に、彼を採用した場合の利点大きい。まず彼を貴族学園との交流戦に起用すればいい。
そうすれば魔法学園の実力を知らしめることが出来、来年の受験者数を増やすことができる。
受験者数を増やせばわしらの給料が上がる。
悪い話ではないとは思わんか?」
もっとも……。
(この状況で不合格にしなければ現在の庶民の生徒が自主退学する可能性もあるし、そうなれば教師陣がさらに激減する可能性もある。
わしらの給料が減り、さらに仕事山のように増える。
そうなればワシ、過労で死ぬじゃろうな……)
貴族派の教員はそのことを理解していないふうに話していることを考えるとうまく反対意見である貴族派をまとめ上げる必要がある。
(というか……もし彼を不合格にした場合、それ以下の受験生全員を落とさなければならんのをわかっておるのじゃろうか……)
学園長と呼ばれた御老人はそんなため息をつきながらやっと渋々といった風に賛成の色を見せた貴族派の教員達の反応を見て、合格という判断を下した。




