入学試験 実技試験
実技試験の会場までやってくるともうすでに結構な人数の人が集まっていた。
この試験会場には受付がおり、その人に受験番号を伝えるとどうやら話は聞いていたようで、控えるように言い渡された。
しばらくの間呼ばれるのを待っているとここにいた受験生は次々と呼ばれていき、数が減っていく。
そろそろ待ち時間に飽きたな〜、と思い、アルマを取り出して撫でようかなと言うタイミングで新しい人物が受付に現れた。
「? 貴様は!」
「???」
その人物は受付を終わらせるとこちらを見るなり怒りを露わにして近づいてきた。
「貴様ッ!」
「はい?」
……この人どっかで……ああ、あの道を教えてくれた魔人族の隣にいた。
「こんにちは。あなたも合格したんですね」
「うるさい!」
純粋に褒めの言葉を言うと、目の前の人物はさらに力強く怒鳴りつけてきた。
「貴様のせいで、この私が恥を書いたのだ!
私に対する無礼……決して許さないぞ!」
無礼って……ひょっとして礼を言わなかったこと?
「……道を聞いて何も答えなかった人にどうして礼を言わなければならないのですか?」
「黙れ! 平民風情が貴族に逆らうな!
貴族である私の言葉絶対だ!」
そういうもの、なのかな?
「……じゃあ、あなたは王様に死ねと言われれば今すぐに死ぬんですか?」
「……え?」
「だって貴族は絶対、なのてしょ?
なら、その中にでも1番高いくらいにのある人って王様。その王様が今すぐに死ねとと言われてあなたは死ぬんですか?」
「そ、それは……」
「貴族の言葉が絶対なのなら、その絶対の頂点にある王様の言葉絶対に守られるべきことであり、それに歯向かうということは絶対にありえない、ということなので、あなたも当然そう言われればそれに従って死ぬのは当然の義務であり、必ず守られなければないことです。
それを踏まえて、あなたは必ずそれに従うのですよね?
当然、死ぬんですよね?」
「……」
「反論も拒否も拒絶もなく、従順に、無思考で、言われた言葉にただ従って、命落とす。
当然、それに従うのですよね?」
思ったことを尋ねると貴族の人間は顔を青ざめながらその場に立ち尽くす。
………。俺は純粋に気になるから聞いたんだけど……どうして答えてくれないんだろう。
「受験番号:58432番。受験番号:58432番。
実技試験を開始します。奥へどうぞ」
「あ、俺だ」
俺の受験番号が呼ばれた。
彼の返答が気になるが……仕方ない。
「それでは、呼ばれたのでいきますね。
実技試験、頑張ってください」
実技試験の会場が闘技場ということで、その闘技場で軽い準備体操をして体を慣らしておく。
(……それにしても、結構な観客だな……)
実技試験だから数名はいるとは思っていたが……まさか観客席が埋まるほどの人達が見に来ているとは思わなかった。
「くう?」
「あ、こらこら。出てくるんじゃありません」
眠ていたアルマが目を覚まし、帽子から顔を出そうとしたので、注意して顔を引っ込めさせる。
「そこでおとなしくしなさい」
「くぅ!」
「本当にわかってるの?」
アルマが入った帽子をローブで包んで闘技場の隅の方に置いたが、『わかった!』って手を挙げられても説得力ない。
そんなやりとりをしていると実技試験の対戦相手となる人が現れた。
「あ、さっきの」
「っ!」
そこには顔を浸らせて後退る先程の貴族さん。
「受験生アストくん。彼が君の対戦相手、同じく受験生のモンク・イータレスくんだ」
「……受験生が相手なんですか?」
「そうだ。この実技試験は受験生同士で行い、勝利したものを合格。負けたものを不合格として扱う」
「不合格……なかなか厳しいですね」
「この試験では模擬剣を使用する。それ以外の道具の使用は禁止。己の力のみを試験の結果として扱う。別その模造剣が壊れても構わないが、その壊れても変えはここまでたどり着いた受験生の分しかないからそれをよく理解するように」
そこまでの説明を終えると俺と貴族さん……イータレスさん? にそれぞれ剣を配る。
確かに模造剣。刃の部分も丸いし、剣として役割殴り潰すぐらいしか……!!?
「あの、本当に変えは無いんですか?」
「無い。たとえ壊れようと中止もないから勝敗がつくまでその剣を使うように」
まじか……こんな、壊れた剣を使わないといけないのか……。
俺が刀身を弾くとギィィィィィインッッッ!!! という音を上げて、パキンッ! とあっさりと刀身が根本から真っ二つに折れた。
「……」
「……まじでこれで戦えと?」
「……すまない。本当に武器が無いんだ」
「……まあ、別にいいですけど……結構荒いやり方になりますよ」
本来の武器が使えないのは残念だが、それでもそれなりに戦い方はある。
限定模擬戦だ。戦いないこともないだろう。
剣が折れるというハプニングもあったが、受験生のモンク・イータレスとアストの試験模擬戦が始まろうとしていた。
イータレス家は有名な戦いの一族で、その雄姿見届けようと大勢の受験生が観客席に集まっていた。
だがそんな中でも魔法理論の試験において最速で問題を解き上げて途中退席したという噂はすでに広まっており、それがどんな人物なのかを見るため集まった者や魔法試験で彼に助けられ合格と言い渡された平民の受験生達がアストの姿をもう一度見るために観客席にやっていた。
「それは実技試験、開始!」
試験官により実技試験が開始されるとモンク・イータレスは剣を強く握り地面を蹴って駆け出そうとした。
だがそれよりも早く、開始の合図と同時に折られた刀身を地面へ突き刺し、残された剣の柄を勢いよく投げつけた。
モンクはギョッとしてそれを回避。
通り過ぎたことを安堵してアストの方へ視線を戻す。
目の前からアストが消えていた。
すぐにあたりを確認しアストの姿を探す。
だが見当たらない。
ドスッ!
突然背後から首筋目掛けてそんな衝撃が走ったかと思うと、そのまま勢いよく吹き飛ばされた。
吹き飛ばされてモンクはそのまま真っ直ぐに飛んでいき、そして吸い込まれるように地面に突き刺さった刀身目掛けて……
「……あれ?」
どういうわけか蹴り飛ばすことに成功してしまった……。
一瞬の体勢崩しのために柄を投げて、視線を逸らした隙に一気に接近し、背後に回り込むことが出来てしまい、あまりに無防備だったので作戦だろうとわかった上で攻撃したのに、何故が攻撃がヒットして地面に突き刺さった刀身に激突して伸びてしまっている……。
こんなの精々挨拶程度の殴打なのに、こんなことで勝ってしまっていいのだろうか……。
「うぅ……」
お、どうやら意識はあるようだ。
でも……まともに動けていない。もしかしてあたりどころが悪かったのかな?
貴族さんは起きあがろうとして……ドサっと再び倒れ込んだ。
……もうあれ、どう見ても戦えそうにないな。
まさかこの程度ことであっさり決着がつく……そういえばまだ俺の勝利宣言はされてないな。
う〜ん……ここは追い討ちにもなるが、軽く小突いて終わらせるとしよう。
俺は貴族さんに近づいて地面に突き刺した刀身を抜くと「……チェイ」と平たい部分で頭を軽く殴りつけるとそのまま泡吹いて気絶してしまった。
……おい、やめろよ! めちゃくちゃ手加減したのにこんなことで気絶されると筋力ゴリラみたいだろ!!
筋力ゴリラは母さんだけで充分なんだよッ!!
それ見た試験官さんは俺が勝者だと宣言した。
だからヤメロォ!! そんなことされるとまじでゴリラになる!
やめろ! やめてくれぇ!!
だがそんな思いも周囲から聞こえてくるゴリラ!! という声にどっと項垂れて、諦めたように闘技場を去るのであった……。




