入試試験 魔法試験
昼休み
筆記試験も終わり、全員が午後の試験のために昼食を取る。
そんな中、学園の隅の方でーー
「ーーううぅぅ……」
「く、くう?」
「だってぇ……アルマ、全然言うこと聞いてくれないんだもん……。
これで試験が落ちたりなんてしたら………ううぅぅ……」
「く、くう! くう!」
「……じゃあ、ちゃんと言ったことを聞いてくれる?」
「くう!」
「……。わかった。約束ね」
「くうくう!!」
ははは。嘘泣きに決まってるじゃないか。
怒っているようだけど、こうでもしないと言うこと聞いてくれないでしょ?
「くう……」
「『たしかに』って思うなら最初からそうしてください。
さ、ごはん食べよう」
「くっくう!」
「おお……。ちゃかり自分のご飯の弁当を持ってくるとは……さすがだな」
宝石が入った袋を持ってきていたアルマを見て口元を引き攣らせながら昼食を食べる。
アルマはハフハフと宝石を齧っている。それ見て頬を緩ませながら撫でると気持ちよさそうな声を漏らした。
「……さて。残りは魔法試験と実技試験か……」
「くう?」
「わかってるよ。どうせ、実技は苦手ですよ〜」
10年前、病弱でベットの上でずって眠っていた反動なのか、それとも生まれつきの才能の無さなのか、俺はこと実技ではたいした成績を残せていない。
母さんが隣町を5、6周した上で夕飯の準備をするのに対して、俺は3周した程度で根を上げてしまう。
モンスターの討伐だってそうだ。
俺がドラゴンを倒せるようになったが、先生はさらに巨大なドラゴンを3匹まとめて倒せるのだ。
俺って……ほんと、
「弱いんだよなぁ〜……」
「くうくう」
「ありがとう。慰めてくれて。
でも、ちゃんと自分の実力は理解しているから……」
「くぅ……」
『ダメだこりゃ』、と呆れながら再び宝石を齧り始めるアルマ。
……そう言えば、最後のテストどうなったんだろう。
魔法理論なんて、途中から勉強しなくなったんだよな〜……。
〜〜〜〜〜〜
ーーそれじゃあ、精霊魔法、教える!
「は〜い! よろしくお願いします……シルフィ、先生?
ーーお姉ちゃんと呼びなさい!
「いやシルフィはどちらかといえばおかあさ」
ーー……なに?
「いえ、なんでもありませんであります! お姉ちゃん!」
魔法理論を学び、しっかりと自主勉強を続けている俺。
そんなある日、母さんのパートナーである風精霊のシルフィが先生をやってみたいとのことで、精霊魔法について教えてくれることになった。
ーーそれじゃあさっそく始めるけど……その前に言っておくことがあるわ。
「なんでしょうか!」
ーー……精霊魔法は万物や自然の力を使って戦うから、人間の魔法や知識の理論を超越して使う魔法だから、精霊使いが魔法理論を学んだところで意味がないわよ。
「そういうことは早く言ってくれませんかね!!?」
今まで長いこと理論について勉強していたのにそれが意味ないとわかってがっくりと項垂れるのであった。
〜〜〜〜〜〜
「……あの日以降、母さん達の内容以外で勉強してなかったからちゃんと点数取れてるか不安だな……」
「くう」
「そうだな。たしかに『出たとこ勝負』だ」
アルマの言葉に頷いて弁当を食べ進める。
2人の知らないことだが、この時、アストのテストの結果で職員室がかなり荒れ、議題になっていたのは教員達試験官達のお話……。
〜〜〜〜〜〜
昼食を終え、魔法試験の時間となった。
「ーーおい、見ろよ。あいつだぜ」
「ーーあれが途中退席した奴……」
「ーー必死に勉強をしてる俺達の評価を下げないでほしいよな……」
「アルマ。そこから絶対に出るなよ」
ごそごそごそ
「おっ! だ、だから暴れるなって……」
俺は迷惑かからないように被っている帽子の中にアルマを仕舞い、テストを魔法試験を望むことにした。
……まあさすがに魔法を打つ時は帽子を外すけど。
「あつまれ! 庶民ども!」
現れた試験官に気分を害しながらも集合する。
試験官は不機嫌そうに説明を行い。
「ふん。貴様ら如きに時間取られるだけ無駄だが、これも試験だ。説明は一度だけだ。
そこの先頭から魔法を放て。なんでもいい。そして、あそこにある的に魔法を当てろ。当てた魔法の魔力数値が100を超えない限り、合格とはみなさん。
数値を超えたものはすぐに次の試験会場へ向かえ。
説明は以上だ。さっさと始めろ」
そうして試験がスタートしたがなかなか誰も始めない。
やれ「遠すぎる」だの「不可能だ」だの抜かして誰も始めようとしない。
そんなところでチンタラしているなら変わって欲しいのだけれど……。
そんなふうに思っていると仕方ないから始めるかという雰囲気で次々と魔法を放ち始めた。
だがあまりに杜撰で全く的に届かない。
途中自ら魔法の天才と豪語する者も現れた。
「この私に掛かればこの程度! ファイアボール!!」
そう高々と宣言されて魔法は確かに威力はある。
これならおそらくあの窓に届くだろう。
だが、横から突風が吹き荒れ、魔法の軌道が変わり、窓にあることはなかった。
「ふっふっふっ。残念だったな。
まあ所詮は、庶民が語る天才。本物の天才には及ばないのだよ」
「……なるほど」
今の1発でよ〜く理解した。
要するに、あの試験官も俺の前に立ちはだかる有象無象の1人、というわけだな。
よ〜〜くわかった。
……さて、それじゃあどの程度の魔法を使おうか……。
下級魔法はさっきの細工に止められそうだし、それにまだまだ小手先のズルとかされそうだしな……。
どの程度の魔法を使うのか思案しているとどんどんと不合格にされていく受験生が続出する。
そして今度はすごく真面目そうな女の子の魔法使い見習いが魔法を放とうとしていた。
「……ファイアボール!!」
ほう。
あの威力と軌道。あれなら妨害にあっても確実に的に当たるし、魔力数値? も、きっと100は越えれるだろう。
点数を取らせない工作をしていなければ。
確信を持ちながら見守っていると予想通り突然突風が巻き起こり、魔法の軌道がずれそうになる。
だが女の子が放った魔法はそれをものともせず直進する。
そして魔法が目標の的に到達し、ヒットする。
魔法が当たり、彼女の点数が的となった標的の頭上に浮かび上がった。
『99』
「そ、そんな……」
「……ふははは! やはり所詮は庶民ということだ!
だが今のはなかなかだった。
後で私のところへ来れば手取り足取り教えてやろう。私の一存さえあれば再試験を認めさせてやるぞ」
ぐふふふ。と卑猥な表情を浮かべる試験官。
女の子は顔を青ざめる震え上がる。
だけど女の子さん。ありがとう。
「……あの」
「っ! は、はい……」
「今度は俺の番だからさ、悪いんだけどこれ、持ってもらってていい?」
「え?」
俺は帽子を彼女に預けて前へ出る。
この試験、確実な合格が見えた。
そのお礼に、チャンスをあげる。
「次は……ふん、貴様か」
「?」
何故か試験官さんは俺のことを知っているようだ。
それと妙に威圧的な雰囲気だ。
「貴様如きが……(私のテストで満点を取るだと? そんなふざけたこと許されるわけにいかんのだ!!)」
「???」
「(ふん! だがこの試験では決して合格はあり得ない。
なんせ、点数そのものを操作しているのだからな!)所詮は庶民! 才能のかけらもない分際の奴らがいくら努力しても無駄。
にも関わらず、無能の分際でこの由緒正しきエルストリア魔法学園を受験するなど愚の骨頂……。
まったく。貴様らなんぞに無駄な時間を割いている私の身にもなってもらいたいものだ!!」
俺は試験官さんの言葉を聞き流し、どの魔法を使うのかの選別を終えて魔法を唱えた。
「ーーフレイム・ジャベリン!」
魔法を唱えた瞬間、激しい炎が起こり、それが一つに集約されると形を変えて炎の槍へと姿を変え、槍の先端から螺旋状に炎が渦巻いている。
炎の槍へとなった魔法を目標の槍目掛けて思いっきり腕を振り下ろし、発射しさせる。
放たれた槍は吹き荒れる突風をものともせず、標的目掛けて真っ直ぐに着弾し、その地点でとても大きな爆発を引き起こした。
爆発が行ったことだ悲鳴やら驚きの声が上がる。
激しい熱気に当てられて試験官ですら腰を抜かしている。
そんな中、舞い上がる煙の中から上空に表示された数字を見つけた。
『99』
爆煙が晴れ、その中に魔力数値の点差が浮かび上がる。
その数字以外の、的も地面も無くなった場所でしっかりと表示されている。
「あっちゃ〜。99点だったか〜。
残念残念」
それにしてもあの的、すげぇな。
原型とどめてないのにしっかり数字が表示されてる。
最新の魔法道具はすごいな。




