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入学試験 筆記

「や、やっとたどり着いた……」


 今日は聞こえてくる精霊達がやたら元気だったから、ここまで来るのに相当苦労した。


 すでに身体はクタクタ。

 このまま宿屋に戻ってベッドにダイブすればそのまますぐに眠ることができるほどだ。


 だがここまで来て戻るわけにもいかない。

 俺は身を引き締めて試験会場に向かった。




「受験番号:58432です」

「58432、と……うん。アストくんだな。よく来たな。

 もうすぐに開始時刻だが……随分遅かったな」

「ええまあ……。ま、迷子に……」

「そうか。ここ、エルストリア魔法学園は広い。次は迷子にならないように気をつけることだ」


 いや……きっとこの先もずっと俺は迷子になり続けることだろう。


 ーーそう思うならやめればいいのに。


 うっさい! せっかく教えてくれてるんだから付いてくに決まってるだろ!!(←だから迷子になる)


 ………そんなことより!

 俺は必ず、この試験に合格して精霊使いになってみせる!


「……がんばるぞ! おー!」


 くすくすくす……。


「!? ……」


 思わず口に出してしまったことに恥ずかしくなって俯きながら指定された席へ着いた。





 ーー試験開始ーー


 ーー国語……ではなく一般教養ーー


 魔法に対する基礎的な問題を文章の読解力を試すテスト。


 この程度ならさして苦戦することもない。


 俺はあっさりと問題を解き終え、しっかりと見直しまして一般教養を終えた。



 ーー算学ーー


 意外や意外。マジな算学のテスト。

 こういうところで一般の学校と分けているのかな?


 これは母さん達の授業では必修だから余裕だな。


 ……三角関数とかねえよな?



 ーー魔術言語ーー


 ………?

 先生の出す問題の方が難しいような……まあいいか。


 言語の問題だし、精霊言語とか出たら相当苦労すると思ったけど、そんなことはなさそうだな。


 ーー答え、教える〜!


 やめてください。



 ーー魔術理論ーー


 うわ、出た! 魔術理論……。

 実は魔術理論は先生だけでなく母さんとの共同で授業を行ってくれた……。



 〜〜〜〜〜〜



「全てのものは、理論と計算によって完成されている!!」


 母さんのそんな一言から授業は始まった。


「少しのミスが有ればそれは決して完成されることはなく、より突き詰めた理論を構成させることができればより完璧なものを作り出すことができる!」

「……母さんどうしたの?」

「さあ……」


 どういうわけか母さんはとても興奮気味な様子に僕とリリン先生は困惑する。


「故に! 計算された理論を用いれば、ありあらゆる万物を理解することができるのよ!」

「あの……理論としては分かったけど、今その話っているの?」

「なら、実験してみましょう」



 母さんは穴の空いた箱を取り出し、その中に粉を流し込む。


「? なにやってるの?」

「まあ見てなさい」


 そう言って箱を揺らして中の粉で煙をたたせる。


「???」

「アスト、危ないから少しの離れてなさい」

「え?」

「リリンも、」

「私を誰だと思っているの?

 たとえどんなことであろうと、引くことはないわ」

「そう……。危険だと思ったらすぐに逃げなさい」


 母さんの指示に従って2人から距離を取る。


 ……え? まだダメ?

 ……ここも? それなら……ここならいい? いいのね。了解。


 僕が距離をしっかりととったのを確認すると、さらにロープのようなものを取り出し、それに火をつけて箱の中に放り込んだ。


「? なにをしているんだ?」


 リリンがそう尋ねるが、母さんはそれを無視して僕の元にまで駆け足でやってきて!!?


 母さんは俺の手を掴んでさらに距離をとった。


「お〜い、一体なにが、」


 全力で退避する母さんの姿にリリン先生は振り返りながら困惑するが、それを尋ねる前に背後から大きな爆発が起こった。


「…………。ピャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!?!??!?」



「ーーこれを粉塵爆発と言って、粉塵、火、そして酸素が揃うことで粉に火が点火し、酸素がさらにそれを可燃させて爆発を起こすの。わかった」

「ピャーー!!!」

「おいこら!!!」


 僕はあまりの突然の爆発に思考が回らず変な叫び声しかあげることができず、目の前では黒焦げになったリリン先生が母さんに怒りを露わにしていた。



 〜〜〜〜〜〜



 ぶるぶるっ!


 随分と昔のことを思い出して思わず身体が震え上がった。


 まあ、その後母さんや先生がちゃんと理論を教えてくれたのでだいぶ魔法理論について詳しく理解することができた。


 それにその理解したい内容を深める為に独自に勉強も続けた。


 故に……このテストだけは間違うわけにはいかない。必ず全問正解を目指す!



 ……よし! ラスト来た!

 この問題を解ければ!!


 ガリガリ


 ? なんかガリガリ音が聞こえるぞ?


 ふとそんな音が聞こえてきたのでそちらの方を振り向いてみると、


「……」

「くう……」


 ……なんでいるんですかね、アルマさん。


 ……。


 ………ちょっ!? なんでいるの!!?


「え、あ……い!」


 どどど、どうしよう! ここ一応3階だし、めっちゃ危ない!

 でもテスト……。


「あんあわあわ……」

「? どうしましたか?」

「え!? あ、あの……えっと……」


 ななな、なんて答えればいいんだ!?


 そんな俺の慌てよう見て何かを察してくれたのか試験官さんは俺がチラチラと見ていた窓の方を見て驚いた表情を浮かべる。


「……あの、子猫? は……」

「すすす、すみません! 宿屋にいるように言いつけたはずなんですが!!」


 もしかして……ルールを守らなかったから不合格扱い?


「……仕方ありませんね」

「え?」

「今回は特例で許しましょう」

「い、いいんですか?」

「ただし、このテストを解き終えたなら、だ。

 テストを受けにきたのに、テストそのものを疎かにするものはゆるさ、」

「テストを終わらせばいいんですね。わかりました」

「……え?」


 問題はもうほぼ解き終えているし、あとはラストの問題だけだ。見直しをしない、もしくは最小限にすればすぐに終わるだろう。


 最後の問題をざっと見た感じ、少し時間はかかるだろうけどそこまで難しい問題でもないわけだし、さっさと終わらせるとしよう。

 少し待ってろよ、アルマ。


 そうして問題に取り掛かり、すらすらと解答を書き上げる。


 そして最後の問題を解き上げ、その上見直しを完了させた俺は答案用紙を裏返し、問題を閉じた。


「出来ました」

「はや!?」

「……提出しますか?」

「あ、ああ。受け取ろう……」


 試験官さんは半信半疑で答案用紙を受け取りながら驚いた表情を浮かべている。


 俺は窓を開けて外にいるアルマを抱き上げる。

 ……こいつ、人の気も知らないであくびなんてしやがって……。


 アルマを抱き上げた俺は試験官方に頭を下げて退出する。

 しっかりとしつけないとまたやりかねないからな。ちゃんとしつけてやる!




 一方でアストが知らない試験会場では……


「ーーおい、嘘だろ」

「ーーまだ()()()()1()0()()しか経過してないのに、もう全部炊き上げたのかよ!」

「ーーお前、どこまで解けた?」

「ーーまだ3問目も終わってないよ!」


「はいみなさん、静かに!」


 あまりの回答スピードの速さに会場がざわつく。

 未だ長い試験時間を残しながらの全問解答をしたことに受験生は困惑の色を見せ、注意した試験官こと先生方も注意しながらも驚きを隠せずにいた。


「……」


 そんな中、アストから答案用紙を受け取った先生はアスト答案を見ながら前へと戻ってくる。


「おい」

「! す、すみません……」

「しっかりしろ。

 ……まあ、かなりの試験時間を残した上での提出は流石に驚いたが、所詮は平民。どうせてきとうに解答しているに決まっている」

「それが……」

「教師が気にいるような解答をして点数を稼ごうとはなんと浅はかな。これだから平民はいかんのだ。

 やはり平民は平民らしく、全員不合格にし、今後試験を受けさせないように」

「……彼の解答、()()()()()()しています」

「ーーなんだと?」


 試験官がそう言うと、試験監督の教員がその答案を奪い、すぐに解答をチェックする。


「………。ば、バカな!」


 本当に全問正解していた。


 試験監督はわなわなと震えながら顔を青ざめる。


 そもそものシステムとして魔法理論は()()()()()()()()()()()()()


 魔法をより深く理解し、本来習わないだろう知識を認識を図るテストである。

 そのためこのテストでの1問の配点は高い。せいぜい7問ほど説ければこのテストでの合格ラインにはたどり着くし、5問も正しい解答をすれば御の字というテスト内容なのである。


 だがアストが出した解答は満点。

 しかもーー


「この解答は実に素晴らしいです。

 我々にはない独自の理論とその解答……。

 これは我々教員が見習うべきかと」


 教師達には発想での解答に絶賛する試験官。

 そんな反応を見せられた試験監督は、


「ぐぬぬぬぬ!」


 今度は顔を真っ赤にして憤慨を露わにするのであった。

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