精霊獣とプレゼント
「悪いな。こんな高い宝石を買ってもらっちゃって」
「いいえ。気にすることありません。
それに、私個人としても、あなたから譲り受けた宝石には興味がありましたから」
「そうか……」
別にただのアダマンタイトなんだけどな……。
正直アレにたいした価値はないはずなんだけど……。
そのアダマンタイトは先程交渉を行っていたメイドの人に引き渡されて、顔を蒼白さながら慎重に運んでいった。
「ところでえっと……」
「? ……ああ。そういえば自己紹介がまだだったな。
俺はアスト。ええっと……西の方にある町の出身で、魔法学園の入学試験を受けにきたんだ」
「やっぱり! そうでしたか。実は私もなんです。
私はオリヴィエ。よろしくお願いしますね、アストさん」
「はい。よろしくお願いします」
「西……というと、魔人族の領土や凶暴なモンスターが多く潜む、白新山が有名ですね」
「白新山の方は知らないけど……魔人族領が近いのは確かだね」
うちの住んでいた町でよく魔人族の人の交易に来ていたのをよく覚えている。
(そもそも先生が魔人族だから、気にしてもなかったな〜……)
「今でこそどの国でも人族以外の種族の人が暮らせる世の中になりました。
この平和が、ずっと続いていけばいい。それ願っています」
「……」
随分と、不思議な雰囲気のある人だ。
見た目は同い年ぐらいなのに、彼女が醸し出す雰囲気はどちらかといえば母さんや先生といった大人な感じに近しい物がある。
「……そうだな。
俺も平和が好きだ。活気あふれる声も、喉かな雰囲気も。
続けられるのなら、この平和がずっと続いて欲しいものだ」
「……そうですね」
平和は続かない。そう理解しているから出る言葉。
それをわかっているからこそ、オリヴィエも同じように頷いた。
「話は変わりますが、アストさんはなぜその宝石が欲しかったのですか?」
……うん。まあ、普通そうなるよね……。
「えっと……理由は2つあって……でも結局理由は1つで……」
「???」
「えっとね。まずどうしてこの宝石か、っていうと、この宝石が1番光ってたから」
「ひかっていた?」
「そう。母さん達もわからないって言ってたけど……宝石には一つ一つ魔力が込められていてね。その魔力の濃さや多さに寄って光り方が違うの。
で、この宝石はあの店の中でも1番強く光ってたから、これがいい夕飯になりそうだと思ってね」
「そうなんですか! いいお夕飯に……おゆうはん?」
「ああやっぱり、そこ、疑問に思うよね」
俺もアルマと知り合いじゃなかったら同じ疑問を持つ。
「どういうことですか?」
「そもそも俺が宝石を買う羽目になった原因はこの子のせいなんだ」
「このこ?」
「……おい。いい加減隠れてないで出てこい」
そういうとめっっっっっっっっっちゃ不服そうな表情を浮かべたアルマがローブの内側からひょっこりと現れて不機嫌そうにオリヴィエを睨んでいた視線をふいっと晒す。
「この子は……」
「カーバンクルっていう宝石の精霊らしい」
アルマ以外に見たことがないから詳しくは知らない。
「カーバンクル……伝承で読んだことがあります」
「でんしょう?」
「はい。
宝石が取れる奥深く。誰も立ち寄らない未開の地にて、光り輝く鉱石を食す、宝石から生まれし精霊獣……」
「せいれいじゅう?」
「精霊獣とは精霊よりも上位のもの、上位精霊と呼ばれるものの一種。
通常、精霊とは人族、虫、自然の特徴を持つのですが、上位精霊への進化への過程で獣の特徴が現れる精霊……それが精霊獣です」
「へぇ……。
お前、精霊獣っていうんだな」
「くう?」
アルマは意味が分かっていないようで首を傾けている。
「なるほど。確かにカーバンクルなら伝承と同じように、宝石を食べるのなら、お夕飯という言葉に間違いはありませんね」
「そうそう。
それにこいつさあ! 合格発表の日まであったご飯の宝石をつまみ食いしてやがったんだ!」
「まあ!」
うぬぬ……と唸っている中、オリヴィエはくすくす笑う。
人事だと思いやがって……。
「でも、君が宝石を買ってくれなかったら、今度は俺が合格発表の日まで断食をする羽目になるところだったよ」
「それはよかったです」
「だから、お礼とかしたいんだけど……」
あっさりと宝石が買えるんだから、お金がかかるものはあまり意味がないよな……。
「い、いいですよ。私はただ」
「俺が納得いかないんだ。ほらアレだ。カシを作ったままにしておくのが苦手なんだ。
だから、礼はちゃんとさせてくれ」
「……わかりました」
決して引かないと理解したオリヴィエは、渋々といった風に俺からのお礼を受け取ることにした。
「さて……なにがいいかな」
値段云々は意味を持たないとするなら……気軽に身につけられる装飾品がいいかな。
宝石に興味があるのなら、宝石で作られたものがいいかもな。
ただ……宝石のプレゼントは割とありきたりだから少し特殊なものがいいな。
「特殊といえば……やっぱりこいつかな」
俺は腰につけているケースを取り出してオリヴィエに尋ねる。
「アリスティアさんは、赤と青と緑と水色。この中ならどの色が好き?」
「色、ですか?
う〜ん……その中でしたら、青色が好きです」
「青色ね」
そう呟かながらケースを開けるとわずかしか開かず、中から4つの丸い取っ手が現れる。
その中からその中から一つ取り出すとその先端には青と水色が半々で混ざり合った宝石が現れ、その宝石と取っ手を取り外し分離させる。
「くう……」
「そんな目で見んな」
今咄嗟に使える宝石なんて俺が使っている宝石しかなんだ。
まあ確かにアルマくんに特殊な加工をしていただきましたが……。
というかさっきそれを食べようとしたよね!?
そんな奴がいきなり常識ぶった態度取るな!
俺は分離した宝石を両手で包み込み魔力を込めながらイメージする。
形を匂いを。それをどういう装飾品として使われるかを。
それが終わり、手を開くと手の中にあった青と水色の宝石が形を変えて青と水色の花を咲かせていた。
「きれい……」
「気に入ってくれたのならよかったよ。
はい。
一応髪飾りのつもりだけど、ブローチにしたいっていうなら……」
きれいな花になった宝石を手渡すとしばらくそれを見つめ、俺が言ったように髪につけるとオリヴィエは嬉しそうに微笑んだ。
うん。喜んでくれたのならよかった。
「それじゃあもう行くよ。
宝石、本当にありがとう」
「いいえ。私こそ、こんな素敵な髪飾り、ありがとうございます。
お預かりした鉱石の鑑定結果はすぐにはわかりませんが合格発表の日までには必ず結果を伝えます」
「気にしなくてもいいよ。別にたいした価値はないからさ」
「……気になったんですけど、アストさんはどうしてあの鉱石に低い評価を?」
「デカイだけで光っていない宝石に価値なんてないの。
それじゃあな。お互い、試験頑張ろうぜ」
「はい! それでは、また」
そう言って別れを告げる俺達。
……。あの宝石を渡したのは少しイタかったけど……。
「あんなに喜んでくれるのなら、渡した甲斐があるってもんだ」
「くぅ……」
「そんなに呆れなくてもいいだろ。
俺は俺で悪い気はしないんだから」
さあて! 明後日は入学試験日!
しっかりと体を休めてあってに備えるぞ! おおー!




