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真夜中の冒険。  作者: だんきち
1/4

不思議な夜。

真夜中の道路は好きだ。


とても静かだ。


私を否定する人に会う事も無い。

三月に入ったばかりの夜風はひんやりと冷たい。

私は自転車に乗りバイト先のコンビニに向かう。

曲がり角に差し掛かった時、どこからか、赤ちゃんの泣く声に気を取られて、目の前が一瞬にして明るくなった。


『キキキキキキーーー!!!!』


何が起こったのか分からなかった。


「危ないだろ!!!!気を付けろ!!」

目の前に有る大型トラックのドアから身を乗り出した、いかつい男が私に向かって怒鳴りつけた。


「す、すみません。」

私は小声で謝ると、逃げるように自転車で走った。


心臓がドキドキしている。手の震えが止まらない。

怖かった。

自分が引かれそうになった事。では無く、いかつい男に怒鳴られた事が怖かった。


あのままトラックに引かれてしまっても良かったかも知れないと思ってしまう自分がいる。

そしたらもうあんな怖い目に会う事も無いのに。


そんな事を考えている間に店に付いた。

制服に着替え、レジに入ると前の時間に入っている二人はさっさとバックヤードに入って行った。

この時間からはワンオペなので私一人だ。

客も来ないので殆ど人と関わらなくて良い。

その上時給は高い。

一番睡眠を取らないといけない時間に起きているので体に悪いと言う最大のリスクを背負うが人と関わりながら溜まるストレスに比べたら、私はこちらを選んでしまう。


いつもは客が居ない間に品だしや整理、掃除をするのだが、今日は先程の事が頭から離れず、体がいつものように動かない。

私は人の来ないレジ台の上に突っ伏した。


「すみません。」

しばらくすると、頭の上で声がした。

顔を上げると長い黒髪のとても綺麗な女の子が立っていた。


「あっ!!?いらっしゃいませ!!お伺いします!」


「お休み中にすみません。これ、下さい。」


「あっ!////はぃ。。。」


私は恥ずかしい姿をお客さんに見られ、顔が熱くなる。


女の子はお摘み用の煮干しを差し出した。


「はい。110円です。」


女の子は電子マネーのカードをブラウスの胸ポケットから取り出しレジの読み取り箇所にタッチした。


『シャリ~ン。』


「有り難うございます。」


女の子は煮干しの袋を受け取ると、私にニッコリと笑顔を向けた。


「有り難う。また来ます。」


「?」

また来ますって何だ?と思いながら、女の子の背中を見送る。

綺麗な子だった。

私は見とれてしまった。

私と同い年位だろうか?


『また来ます。』


この言葉に何故か私は嬉しくなる。

私はその女の子との出会いで先程の嫌な事をすっかり忘れていた。


次の日も、同じ位の時間に彼女はやって来た。

今日も彼女は煮干しを買った。煮干しって女子っぽく無いなと少し思うが、好みなんて人それぞれだ。


「明日も、きっと来ます。」


彼女は必ず明日も来ると言う言葉を残す。


その日から四日続けて彼女は来たが、明日私はバイトが休みだ。

彼女がもし、私に会いに来てくれているのなら、私が居ない事、言っておかないと。。


その日は夕方から降りだした雨が止まず夜中には大雨になっていた。

こんな日に私はバイトだなんてついていない。

雨だからと言って休む訳にもいかない。

カッパを着て、レインシューズを履いて完全防備でコンビニに向かう。


コンビニに付いた頃には風も強くなっていた。

こんな日にわざわざコンビニに来る客はまず居ない。

私は彼女に明日は私は仕事が休みな事を伝える事を諦めた。


私が来てから誰一人客は来ない。

こんな日は夕方から暇なので前の時間に入っていた人が暇に明かして仕事をするので私の時間には更に仕事が残ってない。


仕方ないなと私はレジからぼんやり外を眺めていた。


その時店の自動ドアが開いた。

雨風と一緒に入って来たのは彼女だった。


「い、いらっしゃいませ!?」


強風の為か、彼女は傘もさして来なかったらしく、びちょ濡れだった。


見かねた私は思わず自分用に持って来たタオルを持って入り口に居る彼女の傍へ駆け寄った。


「良かったらタオル、使って下さい!。。私のタオルなんで嫌かも知れないですが!」


「有り難うございます。」

彼女はいつもの笑顔でニッコリ微笑むと私からタオルを受けとった。

外が寒かったのか、彼女の手は震えていた。


何でこんな雨の日にまで来たんだ?!

私はそんな疑問より先に強風と大雨でとても危険な中、彼女がここに来た事に腹が立って来た。


「今日も煮干し買いに来たんですか!?」


私が怒り気味に言ったら、彼女は驚いた顔で私を見た。


「。。そうですよ。。あなたに会いたかったから。」


「えっ!??」


「私、あなたの事が好きです。」


一瞬思考が止まる。

今彼女が言った事の意味が理解出来ない。


「好きです。」


「////////!!?」


「好きです。」


全く意味が分からなかった。

ちょっと頭がおかしいのでは無いのかと思うが彼女の真剣な表情を見ていると、嘘や冗談では無いと言う事が分かった。


私なんて人見知りの超引きこもりで何の取り柄も無いぞ。

こんな美少女に好意を持たれる理由が全くわからない。


このまま彼女を放置出来ないので、私は自分の着替えの服とズボンを彼女に貸して、雨が止むまでレジの隅に椅子を置いて座らせた。

レジに女子力の低い店員と、横に座る私の服を着た美少女。何ともシュールな光景だ。


彼女は寒いのか、少し震えて居たが、私と目が会う度にニコリと微笑み顔を赤らめる。

良く良く思い出すと、はじめて来た時から私に微笑む時に顔を赤くしていたような。。


真夜中のコンビニバイトで意味のわからない光景がまるで夢でも見ているようだった。

いつの間にか雨が上がり、夜が開けて、現実世界に引き戻される。

もうすぐ交代の人が来る。


私は濡れた彼女の服をコンビニのレジ袋に入れて、彼女に渡した。




「私の服はまた今度店に来た時に持って来て下さい。因みに明日は私休みなので、店には居ないですが。」


「服、お借りしてしまって、本当にすみません。。必ずお返しします。あの。。それから。。」


彼女がまだ何か言いたそうにしていた。


「あっ、全然気にしなくていいですから。」


「あっ、はい。あのそうじゃ無くて。。。明日、お返ししたいなって。。」


「急がなくても大丈夫ですよ?」


「あっ、いえ、そうで無くて。。明日、私と会ってくれませんか?」


「えっ?」


「明日の夜中、私と遊びに行きませんか?」


あまりにも、唐突だったので、彼女が何を言っているのか分からなくなりそうだったが、訴えるような目で私を見る彼女に私はあっさりと返事をしてしまっていた。


「いいですよ。」


明日、私がバイトに入る時間に彼女と店の近くの公園で会う約束をした。


私は自分の住むアパートに戻ると、真っ直ぐベッドに向かった。

迷い無く、ベッドにた折れ込むと夜中の出来事を思い返す。


あの子は私に会いに来ていた?

私が好き?

雨の中わざわざ来た?

今夜は彼女と遊ぶ?

。。デート?


全てが???でどう考えても理解が追い付かず、そんな事を考えているうちに私は眠ってしまっていた。


どの位、眠っていたのか気が付いたら夕焼けの西日が私の額を照らしていた。


私は起きてシャワーを浴びた。シャワーを浴びると一気に目が覚める。


私は冷凍していたご飯をレンジで温めて、ハムエッグを焼いた。

私にしたら今が朝ご飯みたいな物だ。


ご飯を食べてぼんやりする時間は贅沢だ。

以前はそんな時間が無かったから。

スマホで一日のニュースを確認する。

人にも会わず、テレビも見なければいよいよ世捨て人になってしまうと思い、一人暮らしを初めてからはこの習慣は欠かした事が無い。


ふと、今夜あの子と会う事を思い出す。

まるで夢を見ていたような気分になっていたので会う事が夢の中の約束だった気分になっていた。

あれは現実だ。

彼女にラインか電話番号を聞けば良かったと少し後悔するが、出会って間無しの良くわからない女の連絡先を聞くのもどうかと思う。


私はそんな事をあれこれ考えながら、久しぶりに人と遊ぶのでどんな服を着ようかと、押し入れの中に掛けて有る服を確認するが、家を出た時に荷物を多くしたく無いと言う理由で私は実用的な服しか持って来ていなかった。


押し入れの突っ張り棒にかかっているのはリクルートスーツが一着と、ジーパンが2着、黒とカーキのパンツが一着ずつに後は白シャツが何着かとTシャツが何着か。

可愛い服何て一着も無いじゃ無いか!?


仕方無しに、私はバイトに着ていくジーパンと長袖の黒のTシャツを着た。

彼女がどんなつもりで私に会いたいのか分からないが、私の事が好きって言ってたから、やっぱり私の可愛いい服装を期待しているかも知れない。



「全然デートっぽくないな。」


そもそも女子っぽく無い私を好きになってくれたのだから、格好いい服装が良いのか?

どちらにしても、持っていない。。


私は色々と考えてしまう。


がそんな事を考えている間にあっという間に彼女と会う時間になっていた。


私はいつものように自転車に乗り、待ち合わせの公園に向かった。


夜中の公園は真っ暗で薄気味悪い。


彼女はまだ来ていないようだ。


私はベンチに座った。


ガバッ!!

「キャーっ!!!!」

突然後ろから抱き付かれた。


「あっ、ごめん!びっくりした!?」


「心臓止まりそう。」


「びっくりしたよね?ごめんなさい。」


「知りあって直ぐの人にこんな事しないでしょ!?」


「。。。今日ここに来てくれたから、いいって事かなって。。」

「良くないって!!」


私は怒り気味に言う。

「私以外にこんな事しちゃダメだよ!」


「はい。ごめんなさい。」


彼女は何故か少し嬉しそうに謝った。


今日の彼女はフリルの付いた白のブラウスに紺色のスカートを着ていた。

キャラはともかく相変わらず清楚で女の子らしい服装をしていた。


正直可愛いと思う。


「あっ、これ、有り難う。先に返しておくね。」


紙袋を手渡された。

中には昨日貸した服が綺麗に畳まれていた。柔軟剤の香りがした。


「有り難う。洗濯してくれたんだ。」


「あっ、うん。」


私は紙袋を自転車の籠に乗せた。


「これからどうする?私友達と遊ぶの久しぶりだし、友達と何して遊ぶか考えて見たけど夜中だし、映画館やショッピングモールも閉まってるし。。」


「私はね、美春に会えるだけで嬉しいよ。」


「////////!!!!」


「って、何で私の名前知ってるの!?」

「あ~、コンビニのレジの画面に担当者の名前出てたから。」


「。。。で、あなたは何て呼んだらいい?」


「私?私はね、タマ子って言うの。タマでいいよ。」

「随分古風な名前だね。今時珍しい。」


「あっ、うん。名前付けたのおばあちゃんだから。私の母親私が産まれて直ぐに死んじゃったから、おばあちゃんに引き取られて、おばあちゃんに育てられた。」

「お父さんは?」

「お父さんははじめから居ないから。」


「。。ごめん。」


「えっ?何が?」

「何かあまり言いたく無いような事聞いて。。」

「全然気にして無いよ。」

「おばあちゃんね、物凄く優しいんだ。」

「そうなんだ。」


タマは何事も無いように笑う。


「実はね、今日どこに行くか決めてるんだ。初めてのデートだし。」


やっぱりデートだったんだ。。


「美春と一緒に見たい物が有るの。」


第一印象とは違い、タマは意外とグイグイ来る。

でもその笑顔に私は惹き付けられる。


「付いて来て。」

タマ子は私の手を引いた。


タマが手を繋ぐので自転車は公園に置いて行く事にした。

この辺りは都心から少し離れた郊外だが、最近人気のエリアだからか、新築戸建てが立ち並ぶようになり、田んぼや畑は少なくなってきている。

タマはその残り少ない田んぼのあぜ道に入って行った。


「昨日雨降ったからちょっとぬかるんでるね。」

「どこ行くの?」

タマ私の質問に答えない。

私の手を強く握った。

タマの手は女の子らしくてフニフニと柔らかくて気持ちいい。

ずっと触れていたい。


私は滑るのが怖くて足元ばかり見て歩いた。

それからどの位歩いたのだろう。


「ここ渡るよ。」


タマがようやく喋った。

見ると田んぼを繋ぐ水路の上に架かる板で出来た小さな橋が有った。


「付いたよ。美春。」


私は前にいるタマの背中からそっと辺りを覗く。


「ワッ!!?何これ!?」


辺り一面に広がる田んぼの上に多くの蛍が舞っていた。


「綺麗。。。」


こんな場所がまだ残っていた何て知らなかった。


私は一瞬にして心を奪われる。



「今日は特別なの。だから、美春と一緒に見たかった。」



空に舞い上がる蛍。

それはとても幻想的で不思議な光景だった。


「今日しか見られないから。一緒に見たかった。美春と。」


美春がそっと目を閉じた。

その目から一筋の涙が流れた。


その時の私は美しさのあまり涙が零れたのかと思っていた。


私はその時はあまりの美しさに気が付いて居なかった。


今は三月だと言う事に。




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