洋館事件④
そして、現在に戻る。
「はぁ…………はぁ…………」
「大丈夫ですか?」
シャルが俺の心配をしてくれる。
もう彼女しか生き残りはいない…………!
「大丈夫だけど、まいったなぁ……」
俺は左腕の岩の塊を叩くが、ビクともしない。
これのせいで頼みの『召喚盤』が使えない。
つい一時間前までみんなで楽しくやっていなのに…………
「どうしてこんなことになったんだ……!?」
「初めはみんなで楽しくお風呂に入っていたんです。でも、何だが途中から皆さん、触れ合いがどんどん過激になっていって、おかしいと思ったアイラとまだ理性が残っていたローランと一緒に脱出しました。でも、ローランは自分はもう駄目だから、ハヤテさんを救いに行ってくると言って……」
シャルは悲痛な表情で経緯を説明してくれた。
で、あの桃源郷……じゃなくて、地獄絵図の完成ってわけか。
「ハヤテさん、安全を考えるなら屋敷の外に出た方が良いんじゃないんですか?」
シャルの提案に俺は首を横に振った。
「駄目だ、もし理性を失っているみんなが、全裸のまま俺を追って外に出たら、社会的に死ぬ。俺はこの屋敷から出られない」
それを聞くとシャルは笑った。
「どうしたんだい?」
「いえ、記憶通りの自分より周りを優先する優しい人だな、と思いまして」
「優しい、かな?」
自分では分からない。
「優しいですよ。だから、ハヤテさんの周りには人が集まるんです。……それにしても『召喚盤』って凄いですね」
シャルは封じられている召喚盤を見る。
「まぁ、これは楽して手に入れた道具だけどね」
「でも、そんな凄い道具があるのに傲慢にならないなんて尊敬します。私はやっぱりハヤテさんの所に来て正解でした」
「こんなことになっているけどね」
「そうですね。とんだ、歓迎パーティになっちゃいましたね」
シャルは苦笑した。
夜が明けるまで見つからなければいいけど、そんな甘い連中じゃない気がする。
「――――静かに」
足音が近づいてくる。
あっちに行け、と思ったが無駄だった。
魔具倉庫のドアが開く。
「…………」
俺とシャルは息を潜める。
見つからないように、と願うばかりだったが、
「ハヤテ、こんなところにいたんだね」
その声はナターシャだった。
「くっ……!」
「ま、待ってよ!」
逃げようとする俺たちをナターシャは呼び止めた。
なんだか、リザたちのような狂気を感じない。
「正気なのか……?」
「ハヤテと話を出来るくらいには」
ナターシャは普通の表情で、普通の受け答えをした。
それに服を着ている。
俺は安心から体の力が抜けた。
「リザちゃんたちは今、一階にハヤテたちが隠れていると思って、必死に探しているの。勝手だけど、私はサリファとルイスを連れて、ハヤテの部屋に隠れている」
「別に俺の部屋に隠れるのは構わないけど…………サリファとルイスも無事なのか。でもなんで?」
「多分だけど、リザちゃんたちはアイラさんの角の効力、媚薬に過剰反応しているんだと思う。その……使われたことがないから……」
ナターシャは気まずそうに答えた。
これ以上は聞かない方が良さそうだ。
でも、ナターシャたちが正気だったのは本当に良かった。
「あっちは化け物みたいな戦闘力とはいえ、こっちも集まれば五人。朝まで凌げるかもしれない。それにリザは毒に対する耐性が強いはずだ。夜が明ける前に正気に戻るかもしれない。ナターシャ、ここにサリファとルイスを呼べる」
「うん、呼べるよ、あっ、でも、不安だから一緒に付いてきてくれると嬉しい、かも?」
ナターシャは申し訳なさそうに言う。
俺はもちろん「いいよ」と答えた。
「シャルはここで待っていて、すぐに戻るから」
「……分かりました。気を付けてください」
ナターシャに案内されて、俺の自室に帰ってきた。
「ハヤテさん!」
サリファとルイスが駆け寄って来て、片方ずつの腕を掴んだ。
良かった。
二人も服を着ている正気のようだ。
「無事でよかったよ。さて、早く魔具倉庫に…………」
突然、俺の視界は塞がれた。
続いて、体が押されたと思うとベッドに倒される。
そして、あっという間に手足を拘束されてしまった。
「なんだ!? ナターシャ、誰か来たのか!?」
「大丈夫、ここには私たちしかいないよ」
俺はその声にゾワッとした。
リザたちと同じような、いや、リザたち以上に艶のある、聞いただけ興奮してくる声だった。
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