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再び、ドワーフの村へ⑥ 最終

 リザと香の熱が冷めるタイミングを見て、俺は戻った。


 元々、二人も俺とディアス君の件が事故だということは分かっている。

 衝動的な怒りが収まれば、再熱はしない。


 しかし、香は別のことで文句があるようだった。


「ハヤテが『同調(シンクロ)』を解くのが遅れたせいで私、またリザちゃんのおもちゃにされたんですよ!」


 まだ少し赤い顔で言う。


「ごめんごめん、でもその代わり、飛ぶ刃を体得したんでしょ?」

「体得と言うか、コツは教えてもらいました。これから練習です」


 香は苦笑いだった。


「おい、間違っても屋敷の敷地内で練習するなよ。屋敷が無くなる」


 リザは随分と見晴らしがよくなった林を見ながら言う。


 香が一振りで風景を変えてしまった。

 飛ぶ刃で十本くらいの木を斬ってしまった。


 アイラも規格外だが、香に十分に規格外だよな…………


 俺はドラズさんに裏庭の有様を説明した。

 さすがに怒られると思ったが、

「いや~~、凄いね。これは当分薪には困らなそうだ」

と笑った。


 怒られなかったの良かったが、さすがにこのままだと申し訳ないので、斬ってしまった木々を薪として使いやすい大きさに割っていく。


 そして、もう一日、ドラズさんの工房に泊まった。


 ちなみにドラズさんから、

「今日はディアスが風呂に入っているのに行かないのかい?」

と茶化された。


 しっかりバレていた。




 そして、翌日、俺たちはレイドアへ帰ることにした。


「また何かあったら、来な。武器や防具は壊れるもんだからね。気にすることないよ。あと、これを渡しておく」

 ドラズさんから受け取ったのは一つが小さい木箱、もう二つが厚紙で作られた箱だ。


 小さい木箱には粉末が入っていた。


「それは村の知り合いに頼んで作ってもらった入浴剤だよ」


 入浴剤? 

 なんでわざわざ、そんなものを……


「それの主成分はアイラの角だ。活性化の成分があるから、風呂に一摘み、入れれば美肌効果抜群…………それから傷や火傷の痕も治るよ」


 ドラズさんは香を見ながら言う。


「ありがとうございます」と香は頭を下げた。


 少し泣きそうだった。

 やっぱり体の傷は気になっていたのだろう。


 それにサリファやルイスの傷や火傷の痕も無くなるかもしれない。


「俺からもお礼を言いますね」


「いいよいいよ。『ミノワ』を直したら、角が結構余ったんでね」


「根元から折っておいて、何という言い草じゃ」


 アイラは少し怒っていた。


「悪かったよ、だから、ほれ、約束の揚げ菓子だよ」


 アイラは紙箱を受け取るとすぐに開けた。


 先ほどの怒りは消えて、笑顔になる。


「なんじゃなんじゃ、このヘンテコな形の菓子は? 真ん中に穴が開いておるぞ!」


 俺も箱を覗き込む。


「あっ、ドーナッツだ」と俺は声を漏らした。


「ドーナッツ?」とドラズさんが首を傾げる。


 俺は慌てて、「似たお菓子でそういう名前の物があるんですよ」と付け加えた。


「そうなのかい? ふーん、ドーナッツかい……」


 ドラズさんが少し真剣に考え込む。


「どうしたんですか?」


「いやさ、これを売っている店主がね、これの名前、揚げ菓子じゃ味気ないから、新しい名前をずっと考えているんだよ。でも、どれもしっくりこないみたいでね。ドーナッツ、ちょっと提案してもいいかい?」


「構いません」と俺が言うと、横からリザが

「ハヤテ、名前の使用料を取ろう!」

などと守銭奴みたいなことを言い出した。


「取らないよ」と即答した。


「無欲で助かるよ。もし、ドーナッツに決まったら、優先して買える権利ぐらいは付けるよ」


「それで十分です」


「うまいのぉ!」


 俺たちが話し込んでいる内にアイラがドーナッツ(仮)を食べていた。


「あっ、ズルい、私も…………!」


 リザも手を突っ込んだ。


「二人とも俺と香の分を残しておいてよ」


「気に入ってもらえたみたいで良かったよ。気を付けて帰りな」


 ドラズさんに肩をポンと叩かれる。


「ディアス君もまたね」

「そうですね。ハヤテさんをお元気で」


 俺たちはドラズさんの工房を後にした。




 レイドア付近。


「なんじゃ、街まで行かんのじゃ?」

 

 レイドアの街の近郊でワイバーンから降りると、アイラから指摘された。


「そんなことしたら、街が大騒ぎだよ」

「そういうものかの、にしてもドーナッツ(仮)はもう一箱あるじゃろ?」


 アイラは俺がカード化したドーナッツ(仮)を催促した。


「駄目、もう一箱はナターシャたち用だよ」


「むぅぅぅ……仕方ないのぉ……」


 アイラは相当、ドーナッツ(仮)が気に入ったようで残念そうな表情をする。


「そんな顔しないでよ、アイラ。実は俺、このドーナッツ(仮)の作り方を何となく知っているんだ」


「なんと、それは真か!?」


 アイラは笑顔になる。


 ドーナッツ(仮)を揚げる専用の調理具が必要だが、まぁ、それは『ゴブリン・ブラックスミス』(※第7部分「二人は旅立つ」参照)とかに作ってもらえるだろう。


「本当だよ。だけど、俺は料理があまり得意じゃないから、ナターシャにドーナッツ(仮)を食べてもらって、その味を元に作ってもらおうと思ってね」


「そういうことなら、儂は何の未練もなく、ドーナッツ(仮)を手放せるの!」


 アイラとの交渉は無事、完了した。


 

 このまま、屋敷に帰っても良かったが、リスネさんに帰ってきたことを知らせようとして、ギルドに立ち寄った。


「あら、思ったより帰ってくるのが早かったのね」


 リスネさんが出迎えてくれた。


「ねぇ、頼みたいことが出来たんだけどいいかしら?」


 リスネさんは俺たちの帰還を待っていたようで、そう切り出した。


 前回、同じような切り出しで俺たちは王女様の奪還クエストをすることになった。


「なんだい? まさか、また王女様関係じゃないよね?」


 俺は冗談半分でそんなことを言った。

 まぁ、そんなことはないだろう。

 だって、王女様に何かあれば、アイラが呑気にしているはずがない。


「まさか、そんなわけないわよ」


 リスネさんは笑う。


 まぁ、そうだよな。

 いつもカメの王に攫われて、配管工に救われるお姫様じゃないんだ。

 そう何度も攫われたりは…………


「ロキア王国の元王女様と元騎士関係の相談よ」

とリスネさんは困った表情をしていた。


「…………は?」


 どうやら、また何かが起こるらしい。

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