再び、ドワーフの村へ③
「今回は二日あれば、大丈夫だよ。まぁ、泊っていっとくれ」
とドラズさんにそう言われた。
俺たちはお言葉に甘えて、ここに泊めさせてもらうことにした。
「朝起きたら、儂の角、もう片方も無くなっていたり、せんじゃろうな?」
アイラはドラズさんに対して、警戒心を抱いていた。
「そんな非常識なことはしないよ」
と笑うが、アイラは警戒を解かない。
まぁ、当然だよな。
初対面で角を折られたんだから。
前回、ここに泊まった時は香のことがあったので、あまり余裕がなかったが今回はゆっくりできそうだ。
などと油断していたら、夕食後に寝てしまった。
起きるともう真っ暗だった。
もう一回寝ようとするが、体がべたべたして、気持ち悪い。
「風呂、冷めちゃっているかな」
諦め半分で風呂場を覗くとディアス君がいた。
良かった、まだ暖かそうだ。
俺は服を脱ぎ、風呂場に入る。
「ハ、ハヤテさん!?」
ディアス君は驚き、湯船に肩まで浸かった。
「あっ、ごめん、一緒に入るのは嫌だった」
風呂場は広いし、男同士だからいいだろうと思っていたが、ちょっと遠慮が足りなかったかもしれない。
「いえ、その、そうでしたね。油断していました。ハヤテさんは悪気無いですよね」
ディアス君は何かを諦めたように言う。
「大丈夫です」と言ったもののディアス君は俺の方を見ない。
背中を向ける。
やっぱり嫌だったかな?
そんなことを考えながら、体を洗い、湯船に浸かる。
対面にいるディアス君はギュッと体座りをしていた。
俺よりも大きい体がとても小さく見える。
「その恰好、窮屈じゃない」
「い、いや、この方が落ち着くんです」
そうなのか?
随分と変わった格好で湯船に浸かるな。
せっかく広いのに勿体ない。
俺はリラックスして、足を延ばした。
「…………」
なんだか、ディアス君の視線を感じる。
主に股間の辺りに…………
まさか、ディアス君って…………
「そんなにジロジロ見られたら、照れるよ。まさか、男が好きってわけじゃなよね?」
俺は笑いながら、言った。
すぐに否定されると思っていた。
しかし、ディアス君は気まずそうに俯き、「すいません」と言う。
えっ、何、凄い変な雰囲気なんだけど。
……よし、話題を変えよう。
「ディアス君にはお礼を言いたいと思っていたんだよ」
「お礼、ですか?」
ディアス君は頭をあげる。
「香が強くなれたのはディアス君のおかげだ」
「そんなことないですよ。香さんは僕がいなくても強くなったと思います。僕の方こそ、香さんに負けて、また強くなりたいと思えました」
「そういえば、なんでディアス君はドラズさんの所にいるの? 家族は?」
「家族とは会っていません。僕は奴隷でしたから」
俺はここでもか、と思ってしまう。
「仕方がなかったんです。僕の家は兄弟が八人いたので、間引きするしかなかったんです。殺されずに奴隷として生きる道があっただけ、マシだと思います。それに僕はとても運がいいです。ドラズさんに買われて、鍛冶の技術と剣術を教えてもらいました」
ドラズさんは以前、試しで西方人に剣術を学ばせてみたと言っていた。
言い方が悪いが、その為にディアス君を買ったのだろう。
ただ、ディアス君の言う通り、彼は運がいい方だと思う。
見る限り、奴隷の首輪はされていない。
行動に制限はかけられていない。
それにディアス君はドラズさんのことを慕っている。
「いい人に会えたね」
俺は彼の境遇に同情する言葉はかけなかった。
今が良ければ、それでいい。
ディアス君は「はい」と答える。
なんだか、顔が赤かった。
「ディアス君、そろそろ出た方が良いじゃないか?」
「い、いえ、まだ大丈夫です」
「そうかい……」
ディイアス君は肩まで湯船に浸かっている。
いや、それ絶対に熱いだろ。
それともサウナで時々ある、「あの人より先に出ない」みたいな精神なのだろうか?
などと考えていたら、ディアス君の体がお湯の中に沈んでいった。
「えっ、ちょっと!?」
俺は慌てて、ディアス君の体を引っ張り上げる。
刀鍛冶と剣術の稽古でしっかりしていると思っていた腕は思ったより、柔らかかった。
そして、ディアス君を湯船から出すために胴へ腕を回した時だった。
ムニッ……。
「えっ?」
触り慣れない何かを俺は掴んだ。
大きくはない。
しかし、男の胸板とは明らかに違う。
「えーっと、俺はもしかしてとんでもない勘違いをしていたのか?」
ディアス君の下半身に移った視線を咄嗟に逸らして、そう呟いた。




