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再始動、そして……

 俺は復帰戦にコボルドの集団の討伐を選択した。


 コボルドはゴブリンとオーガの中間のような個体でそこそこ強いはずだが…………


「魔法付与の矢(炎)『青炎(せいえん)』四連」


 射抜かれたコボルドは燃える。

 魔物は常時、体内に魔力が流れている。

『青炎』はその魔力に引火する。


 リザの炎属性魔法は対魔物戦で、圧倒的な火力になる。


「まったくそんな技を使わんでも、コボルド程度、討伐できるじゃろ?」

 アイラが言う。


「練習しておきたい。この魔法は制御が難しい。今のままだと、せいぜい野菜とお菓子が好きな竜人を倒すのが精一杯」


「言ってくれるのぉ」とアイラは笑った。


 直後、草むらからコボルドが二体、飛び出してきた。

 標的はアイラだ。


「うむ、確かにこの中で一番弱いのは儂じゃ。じゃがの…………」


 アイラは『竜爪』を発動させた。

 そして、二体のコボルドの首を搔っ切ってしまう。


「コボルド程度に遅れは取らんよ」


 魔力に十分の一以下という制限をかけれれているのに、アイラは十分な戦力だ。


「良い運動になると思ったんじゃが、準備運動程度じゃな。青年が初めにコボルドを減らし過ぎじゃ」


 コボルドを発見した時、俺が初手で『死霊騎士の群れ』を召喚した。

『死霊騎士の群れ』がコボルドの半数程度を倒したのだ。


「俺も試したいことがあるんだよ」


 討伐クエストは順調に進む。


「こっちも終わりましたよ」


 香が合流する。


「どう、体はもう大丈夫?」と俺が聞くと


「はい、問題ありません」と香を答えた。


 それ自体は嘘ではないが…………


「香、今日は二本、刀を使ってないよね」


 俺の言葉に香は視線を逸らした。


「えっと、二刀流は魔力を使い過ぎますから」

と答えたが、それが理由でないことを俺は知っている。


「『ミノワ』の刀身をちょっと見せてもらえるかな?」


 香は少し迷ったみたいだが、観念して「はい」と言い、『ミノワ』を抜いた。


『ミノワ』はボロボロだった。


「アイラとの戦闘の時だね」


 香はあれ以来、俺たちの前で一度も『ミノワ』を抜いていなかった。

 簡単に修繕できるレベルではない。

 この刀を直すのには…………


「ドラズさんの所に行こうか」


 香は少し気まずそうな顔になる。


「でも、せっかく作ってもらった刀を一カ月足らずで駄目にしたなんて言ったら…………」


「ドラズさんはそんなことで怒る人じゃないよ。それにもしドラズさんが怒ったら、俺が言ってあげる。香がどんな強敵と戦ったかをね」


 俺はチラッとアイラを見た。


「そうじゃ、儂と正面から戦って原型を留めていることを誇ってよいぞ。それに儂もそのドレイクの角で刃を作った者に会ってみたいの」


「気付いていたのか」


「無論じゃ」とアイラは答えた。


「あの、すいません。私たちはドレイクを……」と言いかけた香の言葉をアイラは遮り、


「気にすることはない。弱者が強者に負けるの、世の摂理じゃ。じゃから、儂も負けて、哀れにも奴隷として惨めな生活を送っておる」


 アイラはわざとらしく泣く真似をする。


「一人部屋を与えられて、お菓子を貯め込んで、そんな自由な奴隷はいない」

とリザが指摘する。



 俺たちはクエストを完了し、一度、レイドアに戻った。

 ギルドに立ち寄るとエルメックさんがいた。


 王女様とレリアーナさんはいないようだ。


「直接、会うには久しぶりだな」とエルメックさんが言う。


「そうですね。どうしたんですか?」


「実はな」とエルメックさんの視線が、アイラの方に向いた。


「話すなら、部屋を貸すわよ」とリスネさんがギルドの二階に案内してくれた。


 俺は何となく察しがついた。


「ガイエスに駐留していた軍がついに動いた。攻略目標は『ジュラディーズ』だ」


 アイラは「そうか」と言い、瞳を閉じた。


「儂がいなくなった『ジュラディーズ』はすぐに攻略できるじゃろうな」


「アイラ…………」

 俺は何と言えばいいか分からなかった。


「気にするでない。それにいつかこうなった時の為に、儂は『ジュラディーズ』の付近に砦や要塞を作らなかったのじゃ」


「どういうことだ?」


「『ジュラディーズ』孤城じゃ。もし、落城すれば、あの一帯には防衛拠点が無くなり、魔王軍は大きく後退することになる。加えて、『ジュラディーズ』は儂が改修した難攻不落の城じゃ、一度、奪われれば、奪還は容易ではないぞ。じゃから、魔王軍は西方連合の西の拠点を失うことになるのじゃ」


「どうして、そんな造りにしたんだ?」


「儂が死んだ後に無用な血が流れない為じゃ」

 アイラの声は冷たかった。


「戦いは力が拮抗した時に起こる。どちらかが圧倒的に有利なら、戦いは起きんからな。おい、そこの人間」


 アイラはエルメックさんに話しかける。


「なんでしょうか。アイラ殿」

 エルメックさんが下手に出る。


「おぬしは高い地位にありそうじゃ。今、儂が言ったことを西方連合におぬしの言葉として伝えよ。さすれば、『ジュラディーズ』まではおぬしらのものじゃ。じゃが、それ以上の欲は出すでないぞ」


 アイラは声は重かった。


「それは竜人を思ってのことですか?」とエルメックさんは尋ねる。

 俺もそうだと思った。


 しかし、アイラは首を横に振った。


「おぬしらを思ってことじゃ。もし『ジュラディーズ』が簡単に落ちるとすれば、それは戦力の補強がなされなかったということじゃ。重要拠点の『ジュラディーズ』を放置するとしたら、それはおぬしらを魔人の領土に誘い込む罠じゃ。調子に乗って、遠征などすれば、手痛い目に遭うぞ」


「ご忠告、感謝致します。私はこれより手勢を率いて、ガイエスへ向かいますので、アイラ殿の言葉、必ず連合軍に伝えましょう」


「随分、気前がいいな」とリザが言う。


「儂が竜人も魔人も人も争ってほしくないのじゃ。これは儂の本心じゃよ。それに儂はおぬしらのことが可愛いからの。のう、リスネちゃん」


「リスネちゃん?」とエルメックさんが首を傾げる。


「エ、エルメック元帥、お忙しいでしょう」

 リスネさんは強引にその場を終わらせてしまった。


 実際、エルメックさんは忙しかったようですぐに出て行く。


「アイラさん、私のことはリスネがせめて、ギルド嬢と呼んでくれませんか?」


 俺たちしかいなくなると、リスネさんがアイラに抗議する。


「リスネちゃんがアイラお婆ちゃんと呼んでくれたら、考えなくもないの」


 この二人の舌戦はアイラの方が強いらしい。


「ハヤテさん、この竜人、あなたが連れて来たんだから、どうにかしなさいよ!」


 リスネさんに胸倉を掴まれた。

 俺にどうしろって言うんだよ……

 



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