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リスネちゃん①

 ドミードの襲撃から三日後。

 リスネさんが屋敷にやって来た。


 前からやろうと思っていた魔具倉庫の整理の為だ。


「たまにしかない休みなのに、ありがとうございます」


「いいのよ~~、この前はハヤテさんたちに申し訳ないことをしたし。それにここには面白そうな魔具がいっぱいあるわ」


 リスネさんは楽しそうに魔具を確認していく。


「でもなんでエルメックさんの屋敷にヘンテコな魔具がこんなにあるんですかね?」


「それは多分、エルメックさんの夫人の仕業ね」


「奥さんですか?」


「そうよ。エルメック元帥の奥さんは有名な発明家なのよ。恐らく、ここにあるものは試作品ね」


 なるほどね。

 だから、この前の手錠を魔具店の人に見せても分からなかったわけだ。


「じゃあ、リスネさんでもここにあるものは用途が分かりませんか」


 俺が聞くとリスネさんは笑った。


「私は魔具工学も優秀だったのよ。仕組みを見れば、用途ぐらいは分かるわ。まぁ、この前の手錠みたいに魔具が起動したら、対処できる自信はないけどね」


「あの件は忘れてください。香の為にも」


 隣の棚でガシャーン、という音がした。


 直後、香の悲鳴が聞こえた。


 俺とリスネさんが駆けつけると服が七割ほど溶けた状態の香がいた。

 溶けたのはいつもの和服ではない。

 新しく買った洋服だった。


「み、見ないでください!」


「ハヤテ、凄いぞ! 服だけ溶かす液体があった! これをハヤテのスライムに混ぜれば、服だけを溶かすスライムの完成だ!」


 リザは楽しそうだった。


「一体何があったんだ?」


 リザが説明してくれた。

 香が棚の一番上の箱を持ったら、箱が脆くなっていて崩れた。

 そして、中に入っていた瓶の栓が外れて、香にかかったらしい。


「香、服が溶けただけかい?」


 半裸の女の子が目の前にいる状況で、冷静でいられるとは俺も変わったものだな。


「そこまで冷静だとちょっと傷つくんですけど…………はい、体は特に問題ありません」


「もし、危険な薬品だったら、どうするつもりだったんだい? リザも笑っている場合じゃないよ」


 俺が二人を諫めると、リザと香はしゅんとした。


 他の四人(アイラ、ナターシャ、サリファ、ルイス)は問題なく、作業をしている。


 驚いたのはアイラが手伝いをしてくれていることだ。

 意外だったのでアイラに聞くと

「体を動かした後の方が食事が美味いからのぉ。それにお嬢ちゃん(サリファとルイス)たちまで働いているのに、儂が怠けてもおれんじゃろ」

と答えた。

 本人は自覚がないかもしれないが、元々の性格が真面目らしい。 

 


 それに比べて、この二人だけは危なっかしい。

 戦闘ではとても頼りになるけど、日常生活ではポンコツなのが最近浮き彫りになっている。


 俺がしっかりしないと…………


「ハヤテさん、なんで未開封の瓶を回収しているのかしら?」


 リスネさんに肩をポンと叩かれた。


「危険だから俺が回収しておこうと思って……」

「危険だと思うなら、倉庫にしまっておきなさい。どうせ、使う度胸はないんだから」


 なんだと!?

 もしかしたら、俺の中のバーサーカーが覚醒してリザや香に悪戯するかもしれないだろ!

 いや、そんなことないんだけどさ…………


「ハヤテ、服、貸してください。ハヤテが着ていた奴でいいんで…………」


 香さん、目が据わってますよ。


「おい、理由を付けてハヤテの使用済みの服を手に入れようとするな。それに薬品を洗い流した方が良い。風呂に入ってこい」


 リザの言うことは最もだった。


「分かりました……」と香は残念そうに言う。


 香さん?

 ナターシャが増えて、おかしさに拍車がかかっていませんか?


「エルメック夫人は薬品も作れるのね。さすがにこっちは専門外よ」


 リスネさんが言う。


「この棚は慎重に扱った方が良いな」


 薬品を新しい箱に詰め直して、棚の低い場所に移動させた。

 そして、低い棚にあった魔具を一度、全て取り出した。


 うん、なんだ、これ?

 

 ヘッドギアのようなものがあった。


「なにかしら?」とリスネさんも首を傾げる。


「魔力操作の練習にこんなものがあるけど……なんだか違う気がするわ」


 リスネさんは水の魔法でヘッドギアを奇麗にする。


 そして、自らかぶってみた。


「だ、大丈夫なんですか? いきなり外れなくなって、100階層をクリアしないといけないデスゲームに巻き込まれたりしません? そして、ゲームで死ぬと頭がチンされちゃうやつ」


「一体、何の話? ……特に何も起きないわね。壊れているのかしらね」


 リスネさんがヘッドギアを外そうとした時だった。


 カチッ、という音がした。

 リスネさんがヘッドギアのボタンに触れたらしい。


 直後にヘッドギアに視認できるほどの電流が流れた。


 えっ、ふざけて言ったのに現実になった!?


 リスネさんはペタンと地面に座り込んだ。


「リスネさん!?」


 俺の問いかけにリスネさんは反応がなかった。


「…………」


 無言のまま、リスネさんはヘッドギアを取り外した。

 良かった。

 大丈夫みたいだ。


「まったくびっくり……」


「うえ~~~~ん、びっくりしたよ~~~~!」


 ……は?

 リスネさんは普段の落ち着いた口調の面影もない声をあげた。

 まるで子供のように泣き始める。

 

 あ~~、これは何かが起きたな…………



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