三人の訪問者⑥
ドミードが倒されて、他の男たちは動揺する。
「こんなことして無事で済むと思うなよ? この屋敷を十人の仲間が囲んでいる。すぐに火を付けてやる!」
ドミードの仲間の一人が叫んだ。
「十人ねぇ……でも、もう九人は戦闘不能だよ」
「なんだと?」
丁度、香が合流した。
「すいません。一人、逃がしたんですけど、こっちに来ていませんか?」
「外の仲間はほぼ全滅したらしいよ」
俺が男たちを睨みつけると明らかに動揺した。
「だが、最後の一人がまだ…………」
悲鳴が聞こえた。
それは二階からだった。
「最後の一人は最悪の選択をしたみたいだね」と俺は言う。
こちらに足跡が近づいてくる。
何かを引きづっているようだった。
「何事じゃ? 儂の安眠を妨害しおって…………」
かなり不機嫌なアイラの登場である。
右手にはボロボロの男を持っていた。
「あぁぁ…………」
男たちは絶望し、戦意を喪失した。
「全部終わったね」
急な襲撃で緊張はあった。
――だから、それが終わった時、少しだけ油断してしまった。
「てめぇ……」
意識を取り戻したドミードが俺に襲い掛かる。
俺は完全に意表を突かれてしまった。
「しまった…………!」
間に合わない!
その時、俺とドミードの間に割って入った者がいた。
それはリザでも香でもなかった。
「ナターシャさん……?」
しかもナターシャさんは短剣を手にし、その短剣はドミードの胸に深く突き刺さっていた。
「て、てめぇ……あれだけ……可愛がってやったろ……」
ドミードは吐血する。
「可愛がってやった? そうですか、なら、あなたから受けた十四年の恩より、ハヤテさんから受けた一週間の恩の方が深く優しかったですよ」
ナターシャさんは短剣を引き抜く。
「さよなら、私の最悪で最低のご主人様……」
ドミードの胸の傷からよく血が噴き出した。
「てめぇ……」
ドミードはよろよろと数歩進み、倒れた。
立ち上がろうとするが、もうそんな力は残っていない。
俺を睨み、そして、動かなくなった。
カラン、と短剣が床に落ちる。
「ハヤテさん、私……私……」
ナターシャさんが震える。
襲撃を受けた恐怖からだろうか?
それとも人を、元のご主人を……殺してしまったからだろうか。
分からないし、分かったところでどうしようもない。
俺はただナターシャさんを抱き締めるしかなかった。
「『土蜘蛛』を召喚…………」
土蜘蛛
レベル④属性(地) 召喚コスト2000
攻撃力1700 体力2100
『罠を張り、獲物が掛かるのを待つ狩人。その糸に拘束されたら、自力では逃げ出せない』
「『土蜘蛛』五人を拘束してくれ」
ドミードと一緒にいた四人とアイラがボコボコにした一人を、『土蜘蛛』は糸で拘束した。
「香、蜘蛛は苦手?」
「好きではないですけど…………」
言った瞬間、『土蜘蛛』が悲しそうな鳴き声を漏らす。
「ご、ごめんなさい! 好きです! 大好きですよ!」
香が慌てて言い直した。
「あはは、ありがと。『土蜘蛛』と一緒に行って、倒した外の奴らを拘束してくれないかな?」
分かりました、と香は部屋から出て行く。
「リザ、もうじき夜が明けると思う。ギルドへ行って、リスネさんに事情を説明してほしんだけど、一人で大丈夫?」
「子供、扱いするな。大丈夫だ」
次にリザが部屋から出て行く。
「アイラ、サリファとルイスのことをお願いできるかな?」
「構わんが、儂はその身の程知らず共に、自分たちが何をしたかを思い知らせたいの」
男たちは青くなった。
アイラが普通でないことに気が付いたらしい。
「駄目。無暗にそういうことはすべきじゃない」
「……のう、青年や。おぬしに一つ言っておくぞ」
「……なんだい?」
「その甘さ、捨てずにいるといずれ取り返しの付かんことになるぞ。儂の時もそうじゃった。おぬしは敵も味方も殺さずに終わらせようとする。今まではそれが良い方に転がっていたのかもしれんが、世界は甘くない。今回、その娘が動かんかったら、おぬしは無事ではなかったぞ」
甘い、それは自覚がある。
魔物相手なら殺すことだってできる。
でも、同じ言語をしゃべる相手を殺すことには躊躇いがある。
「まったく、異世界転生だから、躊躇いなく人を殺せると思ったけどそんなわけないよな…………」
「何を訳の分からんことを言っておる?」
「いや、こっちの話だよ」
アイラはサリファとルイスを連れて出て行った。
部屋には俺とナターシャさん、そして、ドミードの死体だけが残った。
「ナターシャさん、とりあえずこの部屋から出ようか」
「はい……」




