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香の災難③

 リスネさんに言われた商店街に俺たちは来た。


「これで水回りの問題は解決だ。厨房と浴場は掃除しないといけないから、まだ使えないだろうけどね。それにしてもまいったな。三件も回ったのに手錠の外し方を知っている人はいなかった」

 

 手錠を見せたが、こんなものを見たことないと口を揃えて言われてしまった。


「…………」

「おい、香、そろそろ、強制事後みたいな目、止めたらどうだ?」

 リザが言った。


「あはは…………見られた…………全部、見られた…………」

 香は乾いた笑いを漏らした。


 今回はかなりダメージが大きかったらしく、「切腹します」と言う余裕もないみたいだ。


「死のう…………ハヤテを殺して、私も死ぬ…………」


「ガチの声でそんなことを言わないでくれるかな!?」


「でもどうするんだ。このまま手錠が外れなかったら、クエストも行けないぞ?」

 リザの言葉は最もだ。


 こうなったら、エルメック元帥に聞くしかないか。

 でもそうなるとロキア王国まで行かないといけないな。

 正確な距離を把握していないけど、ワイバーンで飛べば、一日で行けるかな?

 今日はもう日が落ちるから、明日にでも…………


「まったく、おぬしらと一緒にいたら、退屈しなさそうじゃわい」

「アイラ、元はと言えば、君が…………」


 俺はあることに気が付き、アイラをじっと見た。


「なんじゃ、そんな熱い視線を送って?」


「なぁ、アイラって王女様といつでも連絡を取れるんだよな」


「んっ? そうじゃな、儂とシャルロッテが起きておればじゃが」


「じゃあ、王女様経由でエルメックさんに連絡がつかないかな?」


「簡単じゃが、見返りが欲しいのぉ」


「見返りって…………一応、聞くけど」


 アイラは露店を指差した。


「あれを食べてみたいの」


 アイラの指差した先にあったのは、


「金平糖に興味があるのか?」

「金平糖っていうのか?」

「いや、こっちでなんて言うかは分からないけど、俺の知っている限りでは金平糖っていうんだよ」

「なんじゃ、それは? とにかくじゃ、宝石みたいで奇麗じゃ、どんな味がするのかの。おっと、言わんでいいぞ。自分で確かめたい」


 もう食べる気満々である。


「分かったよ。ただし、王女様と連絡は取ってもらうからな」


「うむ、約束は守ろう」



 で、金平糖を買って、帰路に着く。

「あの、早く王女様と連絡を取ってくれませんか?」


 ダメージから少しだけ回復した香が言う。


「ことを焦るでない。連絡をするのには多少の魔力が必要なのじゃ」

「えっと、首輪をしたままだと難しいか?」

「そんなことはないぞ。じゃが、一時的に魔力が上昇するでの。街中ではやりたくないのじゃ。シャルロッテとの会話が大勢に聞こえるのも嫌じゃしな。屋敷に帰ってからじゃ。それにしてもこの、こんぺいとう、というのは不思議じゃの。宝石みたいなのに甘くて優しい味じゃ」


 アイラはポリポリと金平糖を食べていた。


「呑気な奴だ」とリザが呟いた。



 屋敷に帰った俺たちはさっそく王女様と連絡を取った。


『そ、それは大変でしたね』


 …………王女様、笑いを堪えてません?


 実際、どんなふうに連絡を取るのかと思ったが、王女様の声がアイラの角から聞こえてくる。

 恐らく、あちらも同じことになっているのだろう。


『今、ローランに頼んでエルメック元帥に手錠のことを聞きに行ってもらいましたから、もう少し待ってください。それにしてもたった一日で問題を起こすなんて、アイラ、反省しなさいよ』


「ただの事故じゃ」


「その事故で私は醜態を晒したんですよ!」


「なんじゃ、もうすっかり元気じゃの? もうトイレは良いのか?」


「あれ以来、何も飲んでいないので大丈夫です! それよりハヤテはなんで平気なんですか?」


「俺は手錠をされてから、水を飲んでいない」


 そのせいか、若干、頭痛はしているけど、俺がトイレに行くとか言ったら、また香が騒ぎそうだ。

 その方がめんどくさい。


「なんでですか? 早くトイレに行ってくださいよ。恥を共有しましょう」


 香さん、目が据わっているんですけど。


「東方人は変な趣味があるのかの?」


「そうじゃありません!」


『ふふふ』


 角から笑い声が聞こえてきた。


「どうしたんですか?」と俺が尋ねる。


『いえ、アイラが上手く話せていると思って安心したのです』


「おい、何を言い出す」


 アイラは分かりやすいくらい焦っていた。


『ハヤテさん、アイラは元々、内気なんですよ。それを口調で誤魔化しいるんです』


「そ、そんなはずなかろう! 儂は友もたくさんおったぞ」


『ドラゴン種のですよね。竜人族に仲が良かったの『フィールレイ』さんくらいですよね?』


「ぐっ…………それは…………」


「もしかして、竜使いってボッチだったから開花した才能なのか?」


「おい、青年、そんな可哀そうな奴を見る目で儂を見るな! おい、シャルロッテ、ここに来い! 喧嘩じゃ!」


『ごめんなさい、私、帰ってきたばかりで色々忙しいんです。あっ、来たみたいですね』


『やぁ、ハヤテ君、昨日ぶりだね』


 レリアーナさんの声だった。


『こんなに早くまた連絡を取ることになるとは思わなかったよ。エルメック様はちょっと忙しいので、解除の方法を私が聞いてきた。その手錠の繋ぎ目に窪みはないかい?』


「はい、ありました」


『よかった。その窪みに手錠を使用した者の血を垂らせば、外れるらしい。聞く限り、ハヤテ君と香君のどちらが使用者になっているか分からないから、二人とも血を垂らせばいいと思う』


「それだけですか?」


『それだけだ。ただし、すぐには外れない。外れるまでに長ければ、半日くらいかかるかもしれない』


 となると解放されるのは明日の朝か。


 俺と香はレリアーナさんに言われた通りに血を窪みに垂らした。


「はぁ、すぐに解放されるわけじゃないんですね…………」

「でも対処方法が分かってよかったじゃないか」

「そうですけど…………今日はもう寝ましょう」


 それには同意だ。

 疲れたし、そうしたい。

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