リザについて
リザは冒険者というだけあって、サバイバル技術を持っていた。
それに加えて、ハーフエルフである為、森のことが良く分かるらしい。
飲み水の確保、食べられる動植物の判断。
加えて四大属性(火・水・風・地)の魔法も扱えた。
「得意なのは水と風、火はあんまり好きじゃない」
だそうだ。
「でも、魔法が使えるなら、この森でもどうにかやって行けたんじゃないのか?」
「肉食べないと魔法使えない。空腹だと無理。純血のエルフは草しか食べないのに魔法に長けているらしい。わけが分からない」
野菜嫌いのエルフ(ハーフだけど)って、存在も意味が分からない気がするけど…………
「残っていた魔力で洞窟を作って隠れていたけど、もう回復したから、低級の魔物となら戦える。それに今はハヤテがいるから安心」
「俺は別に強くないよ」
召喚盤で召喚したモンスターに戦ってもらっているだけだ。
「森猪はこの辺だと結構強い。それを苦労なく倒せるなら、強い。それに森猪は美味しい。ハヤテが肉を取ってくる。あとは任せて!」
リザは逞しかった。
俺は狩りを担当しよう。
やるのはゴブリンたちだけどね。
これが適材適所なのだろう。
リザに聞いて、この森には低レベルモンスターしか生息していないことを知った。
とはいっても、俺が倒した大狼や森猪は駆け出しの冒険者なら苦戦するレベルらしい。
それと狩りをしていて気付いたが、森猪と対峙した時、召喚盤が光り『レベル表示をオンにしますか?』という案内が出た。
試しにオンにしてみたら、『森猪 レベル①』と表示された。
それ以上の詳細は出てこなかったが、これだけでもありがたい。
レベルが分かれば、それなりに強さの基準にはなる。
「毎日、お肉が食べられる夢の生活…………」
両手に肉串を持ちながら、リザは悦に浸っていた。
「草嫌い、肉好き」らしいので、魔物から身を隠しながら、食べられる植物を探す日々は苦痛だったのだろう。
「どうして、一人で森に?」
「前のご主人様、川に落ちた私のこと、探してくれなかった。ご飯もちゃんとくれなかったから、嫌い」
という答えが返ってきた。
俺はリザからこの世界のことを聞いた。
この世界の人間や亜人の間に争いは無いらしい。厳密に言えば、争う余裕がない。魔王軍が強すぎるからだ。人間・亜人が連合軍を組んでやっと抵抗している状況だ。
冒険者は細かい魔物の被害に対応している。
大きな街に冒険者登録が出来るギルドがあり、登録料を納めることで冒険者になれる。
冒険者になると階級にあったクエスト受注でき、貢献すれば、階級が上がる。
金以上になると正規軍に協力を求められることもあるらしい。
いずれは冒険者になる方が良いだろうか?
それとも別の道を探すか?
あの駄女神には申し訳ないが、あまりに勝算がない戦いなら参加したくはない。
「鉄鉱石がほしい?」
ある晩の食事の時にリザに聞いてみた。
「そうなんだよ、探せばあると思ったんだけど中々見つからなくて…………」
「それなら川がいい。鉄の取れる場所があると思う」
「分かるのか?」
「うん、前に採取クエストで採ったことがある」
…………あれ、この子、めちゃくちゃ優秀じゃない?
誘った時は俺が守ってやる、ぐらいの気持ちがあったけど、今はこの子に頼っている部分が多い。
「そういえば、リザは何歳なの?」
「正確なのは分からないけど、14、5歳くらいだと思う」
自分の年の半分くらいの女の子にお世話されている…………おかしいな、もっと無双できると思ったのに。
モンスターを使えば、色々できるだろうけど、そんなことにソウルポイントを使って、いざっていう時にモンスターを召喚できないのは避けたい。
普段の生活はなるべく自力でどうにかするべきだろう。
次の日、俺はリザと一緒に川の上流に向かった。
森と川だけ見ていると元いた世界と変わらない。
でも、尖った耳のリザを見ると、ここが異世界だと実感させられる。
この森は本当に穏やかだ。面倒なことを考えず、どこかに本格的な拠点を作って、ここで暮らすのもいいかもしれない。
「リザは街とかに行きたいか?」
「…………ハヤテが行きたいなら行く」
リザはあまり乗り気ではなかった。
「リザの意見を聞きたい」
「正直、行きたくない。奴隷だった時のこと思い出す」
「そうか、ならこの森で暮らすかな。リザは森に詳しいから、生活には困らなそうだし」
「うん、それいい。あっ、でも二人は寂しいからそのうち、子供がほしい」
バシャ!
俺は足を滑らせて、川に落ちてしまった。
「大丈夫か?」
リザは手を伸ばす。
「だ、大丈夫だ、問題ない。リザの発言に動揺しただけだ」
リザはキョトンとしていた。
「私、何か変なこと言った?」
「いや、何も変なことは言っていない。そうだな。でも色々、リスクがあるだろうからそのうちね」
動揺して変なことを言ってしまった。
「リスク? ああ、病気のことか? それなら大丈夫だ。私、毒や病気に高い耐性があるから、打ち消せる。病気の可能性は皆無だ」
いや、そのことを心配したわけじゃないんだけど……
「それにハヤテは私が奴隷だから、汚いと思っているかもしれないけど、安心しろ。私は処女だ」
などとリザは新しい情報を教えてくれる。
でも、そんなことを会って数日の男には言わない方が良いよ。
男は狼だからね!
「いや、リスクって言ったのはリザがまだ子供だからって意味で、病気とか汚いとか思ったわけじゃないよ」
俺、なんてことを言っているんだろうか…………
「ハヤテが軽蔑していないのは分かる。同情しているのは感じるけど…………でも、処女は嘘じゃない。私、まだ貧相だったから、ご主人様が何もしなかった。ご主人様はそういうことをする為の奴隷もいたから、わざわざ私に何もしてこない。私、戦闘用の奴隷だったから」
戦闘用の奴隷か。
でも、リザは顔が整っているし、人間にはない美しさがある。
この子に手を出さないなんて、リザの元ご主人様とやらは相当良い生活をしているのだろう。
それに俺は別に処女とかにはあまり拘りはないし、というか、俺に経験がないから初めは経験のある人にリードしてもらった方が良い気がする。
でも、リザならリードしてくれそうだな…………って、この考え方は俺がリザに手を出したがっているみたいじゃないか!?
ゴン、と俺は近くに岩に頭を打ちつけた。
「い、いきなりどうした!?」
リザが驚く。
「いや、大丈夫だ。煩悩を消そうとしただけだよ」
それより戦闘用の奴隷ってことは…………
「リザは強かったりするの?」
「近接は普通にできるぐらいだと思う。得意なのは弓矢、でもご主人様、弓矢をくれなかった。信用してくれなかった」
聞けば聞くほど酷いご主人様だな。
「話が逸れた。私、リスクない。だから、子供を作ろう」
「いや、だから子供に手は出さない!」
年齢ダブルスコアの少女と一線を越えるのはヤバい気がする。
というか、ヤバイ。
元の世界だったら、警察のお世話になってしまう。
「ここに男はハヤテしかいない。女は私しかいない。男女が共同生活、何もない方がおかしい」
リザは俺に迫ってきた。
「大人と子供が一緒にいても何も起こらないのが、当たり前だよ!」
俺は逃げるように足を早めた。
「待って、ハヤテが先に行っても場所が分からない」
リザは慌てて、後をついてきた。
「この辺になら鉄鉱石、いっぱいある」
かなり上流まで来た。
ここまでくると結構風景が変わり、岩肌が目立つ。
リザは比較的薄い岩盤に短剣を突き立てた。
「おい、そんな剣じゃ…………」
えい、と立てた短剣の柄を叩くと岩盤の一部が欠けた。
「マジか、よくそんなボロボロの剣で岩が砕けるな」
「武器と身体の強化魔法を使ったから」
「強化魔法?」
「ハヤテは本当に何も知らないな」
まぁ、何の説明もなしにこの世界に飛ばされた身ですからね。
「例えばね、この石、普通に投げる」
石は木にコツンと当たって、地面に落ちた。
「次は武器と身体を強化して投げる!」
大きさは同じだった。
しかし、次に投げた石は木にめり込んだ。
「これくらい威力が変わる」
「魔法ってすごいな」
俺も使えるようになるのかな?
リザは次々に鉄鉱石を採取していく。
「リザ、もう十分だよ」
「そうなのか、売るならもっと取っておいた方が良い」
「売る? 後々はそれもいいかもな。でも今は…………」
俺が鉄鉱石の用途を説明しようとした時だった。
急に召喚盤が反応し、木々が倒れる音と共に魔物が現れる。
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