サリファの単独クエスト ③
「私やハヤテさん、他のみんなとの関係を詮索することを禁止します!」
サリファは腕を交差させて、大きく×を作って、拒絶した。
ビアーナは少し残念そうな表情をする。
「と言うより、私がミストローンのメンバーだって知らなかったんですか?」
サリファはギルドから説明をしていると思っていた。
「はい、知りませんでした。ギルドの方からは頼りになる人を付ける、って言われているだけでした。まさか、あのミストローンのメンバーの方だったなんて、感激です!」
「あの~~、感激してもらっても申し訳ないんですけど、私は有名な方々には入っていませんよ」
サリファは自分がミストローンのメンバーになった経緯を説明した。
ただし、言いたくない過去に関しては誤魔化す。
「…………というわけなんで、私は全然、駄目なんですよ」
「そんなことないですよ。そんなに若いのに銀階級の冒険者なんて、やっぱりサリファさんは凄いです。サリファは自分のことを低く見過ぎです」
「そうですか?」
「はい。それにこうやって話してみて分かったんですけど、とても優しい方です。私が将来、大きな商売するようになったら、誘いたいくらいですよ」
サリファはお世辞を言われていると思い、愛想笑いをする。
「私は本気ですよ。これでも商人の娘、人を見る目には自信があります。どうですか、私と一緒に世界を旅してみませんか?」
ビアーナはサリファにずいっと迫った。
「そ、そんな、突然言われても困ります」
「サリファさん、私には夢があるんです」
「夢ですか?」
「はい、鳥人族の空飛ぶ船を買って、大陸を越えて、貿易をするんです。見たことも無い土地に行って、色々なものを売ったり買ったり…………そんなことをしてみたいんです」
「ビアーナさんは若いのにとても大きなことを考えているんですね」
サリファは率直に凄いと思った。
「サリファさんは夢とかやってみたいことってないんですか?」
「私ですか……」
サリファは少し考えてみるが思いつかない。
ハヤテたちと出会って、最悪の生活から抜け出して…………何となく冒険者になって……それだけで幸せだった。
「ありませんね。私は今の仲間、家族と一緒に暮らせて、満足です」
サリファは嘘偽りのない言葉を言う。
「でも、人生は一度だけなんですよ。色々なことへ挑戦してみませんか?」
「挑戦、ですか」
サリファは少しだけ考える。
(私といつも一緒にいたルイスは今、魔道具の開発に熱心で自分の道を見つけた。 じゃあ、私は? 何となく冒険者をしているけど、それが本当に自分でやりたいこと? ルイスだけじゃない。みんなもそれぞれ新しいことを始めている。もしかして、私だけが止まっている?)
「その表情、何かを感じてくれたみたいですね」
「いえ、私は…………」
サリファは話を続けようとしたが、空の急に曇り出したのを見て、言葉を引っ込めた。
「ビアーナさん、どこかで雨を凌ぐ準備をしましょう」
サリファが提案すると、ビアーナも天候変化に気付く。
「そうですね。あっ、そうだ。この先に大樹があります。そこなら雨を凌げますよ」
雨が降りそうになったので、サリファとビアーナが話題を戻すことは無かった。
大樹の下に到着すると豪雨に襲われる。
しかし、それは十五分ほどですぐに晴れた。
「この程度の雨なら道もそこまではぬかるんでいないと思います」
サリファが周りの状況を確認してから言う。
「良かった。じゃあ、再出発ですね」
ビアーナは言いながら、馬車に乗った。
サリファも続く。
道中、サリファは先ほどビアーナが言った「挑戦」について考える。
「私のしたいことって何だろう…………?」
サリファは呟く。
「何か言いましたか?」とビアーナが尋ねる。
「い、いえ、何でもありません、あっ、ほら、村が見えてきましたよ」
サリファが前方を指差す。
雨に降られたが、それ以外には何の問題も起きずにランオ村へ到着した。




