リスネちゃん、再び ⑥最終
「リスネが飲んだ飲み物の中には〝ヨモリ〟の成分が入っていた」
解析を終えた千代が説明を始める。
「ヨモリ?」と反応したのはマリーだった。
「知っているのかい?」
「幻覚作用のある植物だ。でも、私もあの飲み物を飲んだが、ヨモリが入っているなんて気付かなかった」
「毒性はほとんど無効化されている。だから、ほとんどの人には無毒。でも、稀に過剰反応を起こす人がいる」
アレルギーのようなものか。
「原因が判明したなら、私は元に戻れるの!?」
リスネは期待の眼差しを千代に向けた。
だが……
「無い。自然にもう一度、成長するのを待つしかない」
という千代の言葉に全員が凍り付く。
「…………という風に言って、リスネを私の妹にしたい。という、願望が芽生えている」
千代の言葉にみんなから安堵の溜息が聞こえてきた。
…………おい、タチの悪い冗談を言うな!
ここ一年で千代は良くも悪くも人間っぽさを身に着けてしまった。
前はこんな風に願望を持つことも冗談を言うこともなかったのに……
「千代ちゃ~~ん。言って良い冗談と言っちゃ駄目な冗談があるって、ママから教わらなかったかしら~~」
リスネは千代の頭をグリグリしながら、香を睨みつけた。
「ひっ! 小っちゃくてもリスネは怖いです。わ、私のせいじゃないですよ。周りの環境が悪いんです!」
香はナターシャやシャルを見る。
まぁ、主な原因はこの二人だろうな。
あとはディアスか。
「リスネ、痛い。お姉ちゃんに逆らっちゃ駄目。姉より優れた妹は存在しない」と千代。
「勝手に妹にしないでくれるかしら!? で、本当はどうやったら、私は元の体に戻るのかしら!? 必要な薬草とかがあったら、用意しないとでしょ!」
「別に特別なものは必要ない。酒を飲めば、元に戻る。ただし、度数がある程度、強くないと駄目」
千代は簡単に答えを提示した。
「そんなことで本当に元に戻るのかい?」
俺が一応確認すると千代は「戻る」と即答した。
「アルコールの成分がヨモリの反応を無効化する。でも、さっきも言った通り、強くないと駄目」
「具体的にどれくらいのお酒なのよ?」とリスネが尋ねる。
「リスネがいつも飲んでるブランデーを原液のまま」と千代は答えた。
それを聞いたナターシャがすぐにブランデーを持ってくる。
「じゃあ、昨日、マリーの言葉を無視すれば、すぐに元に戻っていたのね」
とリスネは理不尽な文句を言った。
マリーは少し申し訳なさそうにする。
「マリーは医者として判断したんだよ」とローランがマリーを庇った。
「分かっているわよ。ごめんなさい。…………さてと」
リスネはコップに注いだブランデーを飲み干した。
直後にリスネの呼吸が早くなる。
「大丈夫なのか!?」とマリーが心配そうに言うが、千代は「心配ない」と即答した。
千代の言葉は正しかったようで子供だったリスネの体が徐々に大きくなっていく。
…………んっ?
待てよ。
このまま急成長したら…………!
「おい、待っ…………」
全てが遅かった。
リスネの体は元に戻ってしまう。
「や、やったわ! 戻った!」
リスネは歓喜で立ち上がって、大股で両手を上に上げた。
俺を含めた数名が視線を逸らす。
千代が不機嫌そうに
「私の服が破けた」
と言ったのが聞こえた。
「えっ?」とリスネは声を漏らして、自分の状態を確認する。
「…………きゃああああああ!」
服が破けて、ほぼ全裸になってしまったリスネはその場にうずくまる。
「そんなに恥ずかしがらなくてもお前の裸なんて、みんな見ているだろ」
ローランが冷静な声で言う。
「お風呂場とかで見られてるのとは違うでしょ!」
リスネが最もなことを言った。
「ベッドで見られるのとも違うかな、ハヤテ?」
おい、ナターシャ、余計なことを言うな!
俺を巻き込むな!
「わざわざ、お風呂場とか、って言ったのに追及するんじゃないわよ。それよりも服! 誰か、服を貸してちょうだい!」
俺が上着を貸すとリスネはそれを肩から掛けて、部屋から出て行った。
「まぁ、元の戻って良かったな」
とローランが言う。
しばらくして服を着たリスネが戻って来た。
「酷い目に遭ったわ」
リスネはぐったりしていた。
「もう今日は仕事を休もうかしら…………」
リスネが仕事を休む、というのを初めて聞いた気がする。
「傷付いた心と体をハヤテにどうにかしてもらわないと……」
リスネは俺の腕をグイッと引っ張った。
「おい、何、どさくさに紛れて、ハヤテを連れ出そうとしているんだ」
ローランが言うとリスネは「ちっ!」と舌打ちをした。
「そうですよ! 一カ月もいなかったんですから、私の番です!」
香がリスネが引っ張っている方と逆の腕を引っ張った。
……って、痛い痛い!
「待ってください。それは僕もですよ!」
おい、ディアス、なんで俺の右足を持ち上げて、引っ張るんだ。
「パパ、バランスが悪いからこうするね」
千代、バランスを取るために左足を引っ張るんじゃない!
「これって馬轢きっていう処刑方法みたいだ」
マリー、感想を言っていないで助けてくれ!
「女を囲い、爛れた性活をする男にはお似合いに末路じゃの。どれ、儂が首を引っ張ればいいかの?」
アイラが俺の頭部を掴んだ。
「おい、やめるんだ! アイラの力で引っ張られたら、本当に死ぬって!」
てか、手足が伸びるって!
こんなことなら、ゴ○ゴ○の実を食べておけば良かった!
一日足らずの事件はこうして、終わった。
『リスネちゃん、再び』は今回で最終回になります。
短編エピソードが完成したら、また投稿する予定なのでその時はよろしくお願いします。




