君の名は? ②
ここから先はローランの視点になっております。
ご了承ください。
ハヤテたちが屋敷を出て行くと静かになった。
私は大きな溜息を吐く。
「いやいやいや、ハヤテ、私だってこんな状況、冷静でいられないぞ!」
私は一人で口にする。
ハヤテと体が入れ替わっただって!?
申し訳ないが、色々と思ってしまう。
私の体は大丈夫だろうか?
いや、ハヤテが私の体に酷いことをするなんて思っていない。
そういう心配じゃなくて…………
「朝一で風呂には入ったし、服や下着も清潔なものを身に着けている。体調だって悪くない。だから、大丈夫だと思うのだが……」
「何が大丈夫なの?」
「!!?」
振り返るとナターシャがいた。
食材の入った籠を持っているので市場へ行ってきたのだろう。
「お、お帰り。いや、今日、リスネとシャルに会いに行くのをローランに代わってもらったんだよ。それでちょっと心配でね」
ハヤテの口調で私は答える。
「そういえば、今日はリスネたちに会いに行くって言っていたね」
「そうだったんだけど、俺じゃなくても大丈夫なことだったし、ローランもリスネとシャル……に用事があるらしくて、だったらと思って任せたんだ」
ハヤテがめんどくさがって、私に全てを押し付けたと思われない為にそう説明した。
「それって昨日? それとも今日?」
ナターシャは少し疑うような視線を向ける。
「昨日だよ」
この言い方のほうが自然だろう。
「ふーーん、ローランも盛んなんだね」
一瞬、私として反応しそうになって、思い留まる。
「どういう意味だい?」とハヤテが言いそうなことを口にした。
「だって、それってハヤテが今日ゆっくり休む代わりに、昨日、限界までしたんでしょ? ローランって体力あるから、五回戦くらいしそうだもんね」
「そんなにしていないぞ!」
「…………え?」
ナターシャが驚いた表情になった。
しまった。
つい反射で素の反応をしてしまった。
「い、いや、君が突然、変なことを言うからだよ」
私がハヤテっぽく言うとナターシャは笑う。
どうやら誤魔化せたようだ。
「そうかな? 図星を突かれて焦ったんじゃないの?」
「……ノーコメントで」
ハヤテならこう答えるだろう。
「ふーーん、じゃあ、今から搾り取られていないか確認しようかな?」
ナターシャは椅子に座っている私の太腿の上に片膝を乗せた。
ぐいぐい来るな。
見ている時はあまり思わなかったが、ナターシャはハヤテとの距離が本当に近い。
それにナターシャの格好は魅力的だ。
肌が適度に露出しているので目がいってしまう。
それなのに下品じゃない。
女性として、異性に対する適切な主張をしている。
…………って、私は何を考えているんだ!?
いつもはナターシャがどんな姿をしていてもこんな感情を抱かないのに…………
もしかして、私はそっちの気があるのか?
……いや、それはないな。
もし私が同性も好きになるなら、リスネに性的なことを何も思わないのはおかしい。
だとしたら、ハヤテの、男性としての性質が私に影響しているのか?
「…………」
「どうしたんだい、ナターシャ?」
「なんだか、今日のハヤテ、隙が大きいな、って思ってね。いつもなら、昼間からはやめてくれよ、とか言って軽く躱すのに…………もしかして、ローランじゃ満足できなかった?」
なっ!?
失礼なことを言うな!
私はハヤテをちゃんと満足させている! …………と言い出さなかった私は誰か褒めてくれないか!
「そんなことは無いさ。ロ、ローランはちょっと不器用だけど、夜のことで不満はないよ…………これ以上は言わせないでくれ」
意地を張ってしまった。
言っていて、身体が熱くなっていく。
「そんな言い方するなんて意外だね。うーーん、やっぱり今日のハヤテ、少しおかしいな」
多分、このまま会話をしていたら、バレる。
「ナターシャ、なんだか眠いから俺は部屋で寝ているよ」
「えっ、あっ、そう……」
ナターシャは不思議そうに私を見送る。
怪しまれたが、バレてはいないだろう。
誰かに会ったら、まずいな。
今日は自室で大人しくしていよう。




