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エピローグ~かなり先の未来~

第三者視点のエピローグです。

時代がかなり飛びます。

ご了承ください。

 辺りが妙に騒がしかった。


 ハヤテが目を開けるとみんなが出発の準備をしている。


「やぁ、みんな、久しぶりだね。…………久しぶり?」


 みんなの顔を見ると、ハヤテはなぜかとても懐かしいと思った。


「あれ、リザとアイラがいないみたいだけど、まだ寝ているのかい?」


 ハヤテが言うと、

「あの二人はまだ来ないわよ。当分ここへは来ないんじゃないかしら」


 笑うリスネは少し切なそうだった。


「? そうなのかい? じゃあ、二人は今日、抜きなのかな?」


「まだハヤテも抜きですよ」


 ハヤテは香に腕を掴まれる。


「ハヤテはまだこっちに来ていませんから。最期にリザちゃんたちに挨拶をして来てくださいね」


 香はハヤテをドアの向こう側に押した。


 ドアの向こうには何もなく、ハヤテは落下する。




「………………」


 ハヤテが目を醒ますとリザとアイラがいた。


「ハヤテ、起きたのか?」


 リザはとても安心したように言う。


 アイラは何も言わなかったが、同じくホッとしているようだった。


 ハヤテは僅かに動き、召喚盤を展開する。


 リザは察して「分かった」と言い、ハヤテの動きを補佐した。


 ハヤテはリザの手助けでリザとアイラのカードを引き、召喚盤にリンクする。


 ハヤテはもうほとんどしゃべることが出来ない。

 だから、意思の疎通には召喚盤を使っていた。


(なんだかとても懐かしい夢を見ていた気がするよ。みんなに会っていた気がする。そろそろ、こっち側へ来いっていう催促かな?)


 ハヤテは言いたいことをリンクを通じて、リザとアイラへ伝える。


 理解したリザはとても悲しそうな表情になった。


「そんなこと言って、もう何十年生きているんじゃ? 起き上がるか?」


(うん、頼むよ。アイラ)


 アイラは笑いながら、ハヤテの体を支える。


 もうハヤテには自分で起き上がる体力は残っていなかった。


(それにしてもみんな薄情だな。俺を残していくなんてさ。香たちはなんて俺よりも十も年下だったのに…………)


「ハヤテが長く生き過ぎたんだ。…………ハヤテ、私やアイラの為にありがとう」


 リザは泣きそうになってしまった。


(リザとアイラを残して死ぬって考えると悔しくってね。でも、本当に限界みたいだ……俺の周りも随分と静かになった……)


「賑やかにするなら息子や娘、孫や曾孫たちを呼ぶか?」


 リザが提案する。


(いいや、最期は君たちと過ごしたい。…………喉が渇いたな)


「待っておれ」


 アイラが白湯を用意する。


「ゆっくり飲むんじゃぞ」と言いながら、アイラはカップをハヤテの口に近づけた。


 ハヤテは時間をかけては白湯を飲み干した。


(ありがとう。すまないね。君たちの世話になってしまって……)


 アイラも泣きそうになった。


「気にするでない。ハヤテと共に生きると決めた時からこのなることは覚悟しておった。……そうじゃ、もう一杯、白湯を持ってくるの」


 アイラは部屋から出て行く。


 ハヤテとリザは二人っきりになった。


(リザ、もうちょっと近づいてくれるか?)


「んっ、なんだ?」


 ハヤテは精一杯の力を使ってリザの頭に手を伸ばし、撫でる。


 こうやって腕一本を動かすのも今のハヤテには辛かった。


「ど、どうしたハヤテ? 私はもう子供じゃないぞ。百歳を超えているんだ」


 リザはそう言ったが、表情は嬉しそうだった。


(何歳になってもリザはリザだよ。俺の大切な人だ。今まで本当にありがとう)


「急にどうしたんだ? 感謝するのは私の方だ。ハヤテは私の人生を豊かにしてくれた」


(リザ、俺は君に会えて本当に……良かっ……た……)


 唐突にハヤテの手の動きが止まる。


 そして、ハヤテの上体が前に倒れて、リザの上にのしかかった。


「ど、どうした、ハヤテ!? 重たいぞ! …………ハヤテ? …………!」


 リザは初め、ハグをされたと思って笑ったが、すぐに違うことに気が付いた。


 召喚盤にはリザとアイラがセットされたままなのにリンクが切れてしまった。

 こんなことは初めてだった。


 そして、二度とこんな経験をすることは無い。


 リザは自分の最愛の人が戻らない旅へ出てしまったことを理解する。


「そうか……ハヤテ、ゆっくり休むと良い。香たちはうるさいだろうから、休めないかもしれないけどな。私とアイラは平気だ。もう昔と違う。ハヤテがいなくなっても泣いたりしないからな。笑って送り出してやる。嘘じゃないぞ。本当だ。確かめたかったら、もう一度、目を開けてみろ? 私は今、笑っているから…………」


 リザは大粒の涙を零しながら、ハヤテに語りかける。


 もう何も答えてくれないハヤテをリザは抱き締めた。


 リザの泣く声だけが、部屋に聞こえていた。


 その部屋の外ではアイラが座り込んで、声を押し殺して泣いている。




 世界を救い、人々から英雄と言われた男は静かに生涯を終えた。




 ユウキハヤテの遺言通り葬式は近親者だけで行われた。


 葬式の全てが終わり、リザとアイラはある人物を待っていた。


「久しぶり、リザ、アイラ」


 夜になり、待っていた人物が現れる。


「おぬしは何も変わらぬの、千代」


 千代は二十歳くらいの姿である。

 その姿は香そっくりだった。


 香の死後から千代はこの姿になり、そして、残されていたハヤテ、リザ、アイラの前から姿を消した。


 千代の居場所を三人は把握していた。

 彼女は現在、自作した直径50メートル程度の天空の浮島を管理している。


 これはシャルが生前に提案して造られたものだ。


 ミストローンのメンバーが死後、再び同じ場所に集合できるようにいう目的に作られた天空の浮島にはリザとアイラ以外の全員が眠っている。


 地上に墓標を作らなかったのは、その場所が聖地にされて政治的な利用をされることを嫌ったためだ。


 千代の管理する天空の浮島は結界の中にあり、千代が許可した者しか入ることが出来ない。


「パパを連れて行きたいけどいい? もし、二人の気が変わって地上にお墓を作りたいなら、私は二人の気持ちを尊重する」


 千代の言葉にリザとアイラの二人は目を合わせて、頷いた。


「いいや、香たちと一緒の場所にハヤテを連れて行ってくれ。私たちは十分、ハヤテと一緒にいた。だから、今度は香たちと一緒にいるべきだ。それにいずれは私たちも合流することになる」


 千代は「分かった」と言い、ハヤテの体に手を当てた。

 すると魔法空間と接続されて、ハヤテの体が消える。


 そして、三人は少しの間、昔話をした。



「そろそろ、帰る」


「のう、千代、別にこういう時でなくとも、たまには顔を見せんか」


 アイラが言うと千代は微かに笑った。


「考えておく。でもリザとアイラに会ったら、昔のことを思い出して寂しくなりそう」


 機巧人の千代は人に比べて、遥かに記憶力に優れている。

 千代は香たちがいなくなったことを昨日のことのように覚えていた。


 特に香が亡くなった時、千代は一日中泣いていた。


「でも、たまには会いに来る。じゃあ、また」


 千代はそう言い残して、空へ飛んでいった。


 残ったのはリザとアイラだけになる。


「なぁ、アイラ」


「なんじゃ?」


「これからは別々の道を行かないか?」


「別々とはなんじゃ? おぬし、まさか……」


 アイラがリザへ詰め寄る。


「勘違いするな。ハヤテの後を追って、自殺なんてしない。そんなことしたら、ハヤテが悲しむ。私は後何百年か分からないけど、生きる。私が生きている限り、時代が変わってもハヤテがいた事実を証明できるからな。そして、いつか堂々とハヤテたちと会いたい。そうだな、私は世界を旅してみようと思う」


 その答えにアイラは安心し、笑った。


「なら、止めはせん。儂は竜の渓谷や自然保護区を守らねばならぬので遠くにはいかん。最近では密猟者が来るようになっての、貴重な動植物が危ういのでな。じゃが、いつかはまた会おうの」


 アイラはリザを抱き締めた。


「ああ、約束だ」


 リザも抱き締め返した。


 リザは数日で近辺の整理を終えて、残っていた財産や土地を家族へ分配する。


 そして、最低限のモノを持って、旅に出た。


「ハヤテ、私は一人立ちするぞ。いつかあった時にたくさん話を聞いてもらうからな」


 リザは天に向かって言い、大都市レイドアを出発した。


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