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ミストローンという家族(前編)

「お帰りなさい、ハヤテ」


 久しぶりの帰宅なのにいつも通り口調でナターシャが出迎えてくれた。


「ただいま。シャルとリスネには会ってきたよ。他のみんなは?」


「ルイスはエルメックさんのところに行っているわ」


 エルメックさんはシュナさんと一緒にレイドアへ引っ越してきた。

 今は俺たちの屋敷の隣に住んでいる。


 軍人を完全に引退して、乗馬や釣りなどをして自由気ままな余生を楽しんでいるようだ。


 ルイスが熱心にエルメックさんのところに通っているのはシュナさんと魔道具の研究をしているからだろう。


「ローランはタバサさんのところで、サリファは香、マリー、ディアスとクエストへ行っているよ」


「四人で? 大丈夫なの?」


 サリファは正式に冒険者になった。

 本音を言えば、もっと安全な職種を選んで欲しかったが、本人の意思を否定する権利は俺にないので、サリファの意見を尊重することにした。


「香たちがいれば、大丈夫でしょ」

とナターシャは言う。


 サリファが冒険者になった当初はナターシャが一番心配していた。

 でも、今は心配していないようだ。


 多分、俺よりも身近でサリファの成長を感じているのだろう。


「さてと今日は久しぶりに全員が揃いそうだから頑張って、美味しい料理をたくさん作ろうかな」


 ナターシャは楽しそうに言う。


「ナターシャ、肉! 肉だ! 私はたくさん肉を食べるぞ」


 元気に言うリザの顔をナターシャは覗き込んだ。


「な、なんだ?」


「まだ女の子みたいだね、って思って」


「んっ? どういう意味だ」

 リザが首を傾げるとナターシャは笑い、

「まだ処女だな、ってこと」

と言葉を続けた。


 言われたリザはムスッとする。


「それはハヤテが誘ってくれないから……」


 一年前、魔王との決戦が終わった後、俺とリザの行為は未遂に終わった。


 それから一年が経つが、どうも一度タイミングを逃したせいで誘いづらかった。


「だったら、リザちゃんから迫ればいいじゃん。ハヤテだって断らないでしょ」


 ナターシャは視線を俺に移した。


「返答に困ることを言わないでくれ」


「でも、もたもたしていると本当に飢えた他の仲間に先を越されちゃうよ。要注意は元女騎士さんかな」


「ナターシャ、それは酷くないか?」


 振り返るとローランが帰って来ていた。


「久しぶりだね」と俺が言う。


 ローランは現在、冒険者を半分やりながら、孤児や親が共働きの子供たちの世話をしている。


「だって、あなたとリスネが揃うといつもハヤテをどう襲うかの算段をしているじゃん」


 言われたローランは焦って、少しだけ顔を赤くする。


「それはリスネの話に乗っているだけだ」


「どうかしらね。さてと私は料理の支度をしなくちゃ」


 ナターシャは厨房へ向かった。



「ハヤテ、本当だからな。私は別に君を襲うなんて思っていないからな」


 ローランがナターシャの言葉を否定する為、俺に迫った。


「うん、分かっているよ。まったくリスネはしょうがないね~~」


「おい、何で言いながら、私と距離を取るんだ?」


「まぁ、念の為、ってことで」


「怒るぞ」とローランは不満げな表情になった。


「冗談だよ。あとでゆっくり話そう」


「ああ、話したいことがたくさんあるんだ」


 ローランは笑顔になる。


 俺たちは一旦解散して、旅の荷物を整理したり、お風呂に入ったりと各自でやるべきことをやった。 




 落ち着いた時に俺はリザの部屋を尋ねる。


 ノックをすると中から「鍵は開いてる」と言うリザの声がした。


 部屋に入るとリザは日記を書いていた。


 リザは一年前の戦争後から日記を書く習慣をつけている。

 日記は日々のこと以外に俺と出会ってからのことも遡って記録しているらしい。


「どうした?」


 リザはペンを置いて、俺の方へ向き直る。


「お願いがあって、今日の夜、二人になりたいんだけど……」


 俺はなるべく自然な口調で言う。

 今はまだ心の内を勘付かれたくなかった。


 リザが一瞬だけ驚いた表情になった気がした。

 でも、すぐに表情を戻す。


「…………今日は多分、大宴会になる。二人になれるのはかなり遅い時間になるぞ?」


「うん、それは分かってる。だから、無理にとは言わないよ」


「…………ううん、大丈夫だ。じゃあ、宴会が終わった後、私の部屋で大丈夫か?」


 俺は「うん、大丈夫だよ」と言い、リザの部屋を出た。


 リザの部屋の外で大きく息を吐いた。

 俺は今日こそは、と思いながら、自分の部屋に戻る。




 陽が傾いた頃、リスネが香、ディアス、マリー、サリファと一緒に帰ってきた。


 四人はリスネから俺が帰ってきたことを知らされていたみたいで、すぐに俺の部屋にやってきた。


「ハヤテ、久しぶりですね」


 香の腰には脇差の他に新しい刀を二本差している。


 香の二本の愛刀『イワジュク』と『ミノワ』は一年前の戦いで完全に壊れてしまった。


 残った鬼殺しの霊刀『ナグルミ』は愛洲家の家宝なので、ジンブへ向かったアンジェラやドラズの一向に託した。


 その時、香は師匠を討った経緯と西方連合に残る理由を手紙に書き、ドラズさんに渡している。

 香の家はジンブで一目置かれる存在なので、この手紙自体がアンジェラさんたちの身の安全を保証してくれるだろうし、香のお祖父さんの友人のドラズさんも同行しているので大丈夫だろう。


「ハヤテ、香ったら、また刀を壊しそうになったんですよ!」


 ディアスが俺に訴えて来た。

 現在、香が使っている刀を作ったのはディアスだ。


「なっ!? 最近は壊してませんよ!」


「香は前科があり過ぎなんですよ。言っときますけど、僕は師匠みたいに優しくないですよ。また僕の作った刀を壊したら、怒り狂いますからね!」


 二人は言い争う。


 それを見て、笑ってしまった。

 この二人は本当に仲が良い。


 俺はマリーに視線を移した。


「マリーは慣れたかい?」


「冒険者になって初めは大変だったけど、今はやりがいを感じている。人に感謝されるっていいな」


 マリーも問題無く、仲間に受け入れられている。


 というか、マリーは自己肯定感が低いが、能力がとても高い。


 前衛も出来るし、回復系の魔法も使える。

 シャルが多忙な政務のせいで、冒険者をやっていないので貴重な回復役だ。


「ハヤテさん、見て」


 サリファは俺に銅階級Ⅰのメダルを見せてくれた。


「昇級したんだね。おめでとう」


 頭を撫でるとサリファが嬉しそうに微笑んだ。


「えへへ、でもハヤテさんたちよりもずっと遅いペースです」


「俺はズルをしただけだよ。俺に金階級Ⅰよりもサリファの銅階級Ⅰがよっぽど立派さ。さぁ、みんな、お風呂に入っておいで、ナターシャがご馳走を作ってくれているよ」


 俺が言うと四人は浴室へ向かっていった。

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