ハヤテとリザ①
俺たちは再び地上に戻った。
改めて、周りを確認する。
レンリスさんが中心になって、負傷者の手当てをしている。
「さてと、やることは山積みだ。俺たちも生存者の救助に…………あれ?」
急な眩暈に襲われ、倒れそうになる。
「ハヤテ、大丈夫か!?」
リザに支えられる。
「大丈夫だよ。ちょっと気が抜けて、疲れが出ただけだ」
「おぬし、ずっと寝不足じゃったろ。休め」
「それを言ったら、君だってボロボロだったじゃないか」
アイラだけじゃない。
リザや香、他のみんなだってボロボロだ。
「あんたたちはこのまま医療テントへ直行よ」
リスネが俺たちに宣告する。
「分かった。そうさせてもらうよ」
医療テントに到着して、ベッドで横になる。
興奮して寝れないかも、と思ったが、それよりも疲労が勝っていたようで俺はすぐに寝てしまった。
次に起きた時のは真夜中だった。
周りを見ると俺同様に運ばれてきたミストローンのメンバーが寝ている。
俺はみんなを起こさないようにテントの外へ出た。
すると後からついてくる足音がし、振り向く。
「リザ……」
眠そうな表情のリザが立っていた。
「ハヤテ、油断し過ぎだ。もしかしたら、残党が残っているかもしれない」
「じゃあ、護衛を頼むよ。ちょっと外の風に当たりたいんだ」
「うん……」
俺たちはテントを出て、歩き始める。
周囲には明かりが無いので星空が奇麗だった。
こんな時は何か気の利いた言葉を言うべきかもしれないが、何を言ってもリザに「ハヤテらしくない。気持ち悪い」って言われそうな気がする。
「…………」
俺とリザは暫く無言で歩いた。
だけど、気まずい、という感じはない。
それどころか、かなり良い雰囲気だと思った。
グ~~~~
その良い雰囲気をぶち壊す音がした。
リザのお腹の音だ。
「こ、これは仕方ないんだ! だって、寝る前はご飯をあんまり食べていなかったから……」
顔を真っ赤にして言い訳をするリザを見て、俺は笑ってしまった。
「笑うな! そうだ、干し肉を持っているだろ! 出してくれ!」
リザに言われて、俺はありったけの干し肉を出した。
さらに酒瓶も取り出す。
俺とリザはどこかの建物の入り口の階段に座り込んだ。
リザは硬いはずの干し肉をうまそうに食べ始める。
俺はナイフで小さく切った干し肉を齧りながら酒を飲み、リザが干し肉を頬張るのを眺めていた。
背が伸び、顔は増々大人っぽくなったが、こういう仕草は子供っぽい。
「あんまりジロジロ見るな。恥ずかしい……」
リザはムスッとした。
そんなリザを見て俺はまた笑う。
「ハヤテ!」
リザは文句を言う。
でも、本気で怒っている様子はない。
他愛のない会話をしばらくして、俺は少しだけ酔ってきた。
「なぁ、リザ、俺って結局、あの魔王、榊本白爵と同じことをやったのかな? 圧倒的な力でたくさんの人を巻き込んで、たくさんの人を殺してさ…………」
だから、そんな暗いことをリザに聞いてしまった。
「全然違う」とリザは即答してくれる。
「確かにハヤテも魔王もこの世界とは違うところから来て、ありえない力を持っていた。でも、魔王は自分の為だけに力を使った。。ハヤテは色んな人を助ける為に力を使った。だから、ハヤテの傍にはたくさんの人が集まった。だから全然違う」
俺は卑怯な人間だ。
リザにこんなことを聞けば、俺の望む答えを言ってくれることを知っていた。
分かった上で、リザの口から、その言葉を聞きたかった。
「ありがとう、リザ。この世界で初めに会えたのが君で良かったよ」
「それは私の台詞だ。ハヤテは私に居場所をくれた。たくさんの仲間に会えた。でも、私は貪欲だから、まだ欲しいものがあるんだ」
「それはなんだい……って、おい!?」
俺は突然、リザに押し倒された。
「家族だ……」
多分かなり緊張しているんだと思う。
リザは耳まで赤くしていた。
「俺とリザはもう家族だよ」
「知ってる……」
「アイラや香たちだって家族だよな」
「うん」
「…………じゃあ、新しい家族が欲しいってことかな? 俺は勘違いしていないかな?」
「うん、してない。私、ハヤテの子供が欲しい……」
今までも色々あったけど、リザが面と向かって「子供が欲しい」と言ったのは初めてだと思う。
「あっ、いや、今すぐに、ってことじゃなくて、この体勢は勢いでこうなっただけで……」
リザは俺の上であたふたとし始める。
多分、俺がここで退けば、今までと同じだったと思う。
「ハ、ハヤテ!?」
でも、俺の理性は限界だったようで、欲望のままにリザを抱き寄せた。




