鬼殺し
セロンレードに迫られた香は応戦する。
数度、香の刀とセロンレードの爪がぶつかり、一旦、距離を取った。
「人間なのに少しはやるんだな」
「これでも色々と死線を越えてきているんですよ。魔陰双流攻法ノ四『ショウリンザン』」
今度は香から仕掛けた。『イワジュク』の高速剣撃と『ミノワ』の飛ぶ斬撃がセロンレードを襲う。
セロンレードは細切れになったが、香、そしてアイラとアンジェラもまったく気を緩めなかった。
すぐに肉片が動き出し、互いにくっつき始める。
「中々に鋭い攻撃だ」
「アイラの言ったことは本当のようですね。こんな敵、初めてです」
「それでも攻撃し続けるしかないの。千代はどうしておる? あやつなら分析で何かに気付けるかもしれん」
「千代は他のみんなと一緒に来ると思います。ライリーちゃんは重傷で戦えないみたいですけど、ローランたちは少し回復すれば、戦えそうなので…………」
「これ以上、増えると面倒だな」とセロンレード。
「なんじゃ、恐れておるのか?」
アイラがセロンレードを挑発する。
「恐れる? 間違ってもそんなことは無い。ただ、部屋に飛んでいる虫が増えたら、嫌だとは思わないか?」
「ほう、儂らを虫扱いかの」
アイラが前に出ようとするが、香が止めた。
「アイラ、あなたはもう少し休んでください。その間は私たちが繋ぎますから」
香はアイラが消耗しているのに気付いていた。
「……すまぬの」と言い、アイラは一旦後ろに下がる。
「私は戦えるよ」
代わりにアンジェラが前に出た。
「よろしくお願いします」と香。
香とアンジェラは咄嗟の連携は不可能と判断し、セロンレードと一対一の勝負を仕掛ける。
そして、タイミングを見て、二人は入れ替わって、交代でセロンレードと交戦した。
「お前、余の眷属にしては弱いな」
「もうかれこれ、百年以上、人間の血を飲んでいませんから」
アンジェラの言葉を聞いたセロンレードは頬をピクリとさせた。
「百年以上、人間の血も肉も口にしていないのか? そんなこと、ありえない」
「それがあり得るんですよ。それだけの経験をしました。おかげで吸血鬼としての特性はかなり低下し、今では日光の下でも活動できます」
それを聞いたセロンレードの表情には怒りが露になる。
「愚かな。吸血鬼ではなく、人間になりたいとでも言いたいのか?」
「願うことなら、そう生きたかった。愛する者と生き、死にたかった」
「吸血鬼の恥さらしが! 吸血鬼とは孤高の存在。群れを成したりしない」
セロンレードの猛攻でアンジェラは防戦一方になっていた。
「アンジェラさん!」
香が割って入った。
「邪魔をするな!」
セロンレードは香の二本の刀『イワジュク』と『ミノワ』を弾き飛ばした。
「お前から殺してやる」
隙の出来た香にセロンレードが迫る。
「くっ…………!」
香は咄嗟に三本目の刀『ナグルミ』を抜いて、応戦する。
態勢を崩していたので大したダメージを与えられないと思った。
「うあぁぁぁぁぁ!」
だが、香の予想と反して、セロンレードが悲鳴を上げる。
「えっ!?」
これには香も驚いた。
香の刀はセロンレードの右腕を軽く斬りつけただけだった。
しかし、その傷が白く変色して、肩まで浸食する。
「なんだ、その剣は!?」
セロンレードは自分の右腕を斬り落とす。
すぐに次の腕が再生した。
「どういうことじゃ?」とアイラ
「分かりません」
香にも理由は分からなかった。
「香ちゃん、その刀〝鬼殺し〟じゃないかい?」
「鬼殺し?」
「ドラズが話していたんだよ。ジンブには妖怪が跋扈し、その中の一大勢力に鬼の一族はいたとね。人間は鬼に対抗する為に刀に特殊な霊力を込めた刀が作られたとね」
「それが〝鬼殺し〟ですか?」
「なぜ、おぬしの方が疎いんじゃ?」
鬼殺しについてアンジェラの方が詳しいの見て、アイラは呆れていた。
「だって、教わっていなかったですもの。『ナグルミ』はかつて鬼の王を倒した刀としか…………あっ」
「きちんと教えられているみたいじゃな。馬鹿じゃから忘れおって」
「わざわざ、馬鹿って言わなくていいじゃないですか!」
香はアイラに抗議する。
「じゃが、おかげで勝ち筋が見えたの。アンジェラ、香の刀なら、真祖を倒せるか?」
「腕や足を斬ったくらいじゃ無理だね。だけど、心臓を突き刺せば、あるいは……」
「良かろう」
「余がそれを許すと思うな」
セロンレードが香へ突進する。
先ほどまでとは比べるまでもない速度だった。
セロンレードは香の持つ刀を脅威と認識する。
「そう慌てるでない」
アイラがセロンレードを蹴り飛ばす。
「さてとそろそろ本気を見せようかの」
アイラは魔力を一気に解放し、再び体型を変化させる。




