化物に対峙する者たち
「多少大きくなったところでどうにかなる、のか?」
セロンレードがアイラへ攻めかかった。
アイラは防戦一方になる。
俊敏性を犠牲にし、パワーを増した第二形態ではセロンレードの速さについていけない。
だから、アイラはセロンレードの右手の動きだけに注目した。
「捕まえたの」
そして、掴むことに成功する。
「掴んでどうする、つもりだ?」
「跡形もなく、消し飛んでもらおうかの。喰らえ、最大限『波動』!」
アイラの最大攻撃魔法が炸裂する。
その衝撃で部屋全体が揺れた。
「はぁ…………はぁ…………油断するからじゃ。確か吸血鬼は心臓に杭を打つと死ぬんじゃったかの。じゃが、こうなってはその必要もないの…………」
セロンレードの体はアイラが掴んだ右腕から先が無かった。
肉片が部屋中に飛び散っている。
「……全てを終わりにしようかの」
アイラはセロンレードの残った右腕は捨て、巨大なフラスコへ進もうとした。
『どこへ行くつもりだ?』
「!?」
不気味な声がして、アイラは振り向いた。
すると捨てたセロンレードの右腕が飛んできて、アイラの胸に突き刺さる。
「なんじゃと……!?」
アイラはその腕を引き抜き、投げ捨てた。
右腕は勝手に動く。
それだけではない。
散らばった肉片が右腕の元へ集まっていく。
「まさか…………」
肉片は集まり、人の形となっていった。
そして…………
「あの程度で余を殺せたと思うな」
セロンレードは肉片から再生を果たした。
「あの程度じゃと? いくら吸血鬼でもあの状態から復活できるものか! おぬしの正体はなんじゃ、化け物め!」
「化け物? 私は吸血鬼だ。だたし、始めりの吸血鬼〝真祖〟だが」
真祖、という言葉を聞いた時、アイラはまた驚くことになる。
真祖の吸血鬼など伝説の中の伝説の存在、神や悪魔に匹敵する幻想の存在だと思っていた。
「服が無くなってしまった」
セロンレードは言いながら、死体から服を追い剥ぎして着る。
「決着をつけようか。すでに余の勝ちは決まっている、がな」
「舐めるなよ。この程度で……!?」
アイラは吐血した。
最大限の波動を放った反動で一時的に回復力が低下している。
膝を付き、その場から動けなかった。
「終わりにしよう」
セロンレードの鋭利な爪がアイラの喉元を狙った。
今のアイラではこれを喰らうと致命傷になる。
「しまっ……」
アイラは咄嗟に防御しようとしたが遅い。
やられた、と思った。
「いつもやられてますね、アイラ」
セロンレードの右腕が斬り飛ばされる。
アイラはこういう時に何度も駆けつけてくれる仲間の背中を見た。
「おぬしはいつもタイミングが良すぎじゃ。やはり狙っているのか、香」
「相変わらず酷い言い方ですね!?」
香が文句を言った。
香だけではない。
「まさかこんなことが…………」
香と共にやって来たアンジェラが驚いていた。
「真祖様ですか?」
「なんだ、余が血族か?」
アンジェラとセロンレードのやり取りを見て、アイラは驚き、香は何も分かっていなかった。
アイラはアンジェラの姿が変わっているのを確認する。
牙や紅い瞳、それはセロンレードの特徴と共通していた。
「おぬし、何かを隠しているとは思っておったが、吸血鬼だったのか?」
「そうだよ」とアンジェラが答える。
「吸血鬼? あの敵も?? それにアンジェラさんも!!?」
香は混乱する。
「時間がない。手短に話す。香、あやつは吸血鬼、大昔に滅んだはずの種族じゃ。儂以上の回復力を持っておる。先ほど波動でバラバラの肉片にしたんじゃが、そこから復活しおった」
「…………」
香は緊張した表情で二本目の刀を抜く。
「アンジェラ、あやつの弱点はないのかの? 正直、手に余る相手じゃ」
アイラが聞くが、アンジェラは良い表情をしなかった。
「真祖様の弱点は二つ、太陽と空腹、と聞いている。真祖ゆえに太陽は絶対に克服できない。それに定期的に魂を摂取しなければ、力は落ちる」
「…………ここは地下じゃ、太陽など無い。それにこやつは千の人間を喰ったばかりじゃ」
「…………」
アンジェラは無言だった。
それが現在の状況に打開策が無いことを示している。
「だとしても戦わないといけないです」
香が構えた。
「一回で倒せないんだったら、二回倒します。二回でも無理なら三回、五回……十回、二十回、三十回……百回だってやってやります!」
「まったく相変わらず馬鹿じゃの。じゃが、それくらい開き直った方が良いかもしれんの。おぬしはどうするんじゃ。同族じゃろ?」
アイラはアンジェラに尋ねる。
「同族だろうと、真祖様だろうと私には関係ないね。私がここまで来たのはこの世界を乱す元凶の全てを倒す為だよ」
アンジェラもセロンレードと対峙する。
「ではやれることをやろうかの」
「作戦会議は終わったか?」
セロンレードは言いながら、香に襲い掛かった。




