ディアスvs守護者(前編)
――第二動力部。
ディアスを待っていたのは重装備の男だ。
「なんだ貴様は? ひょろっとした男だな」
男の言葉にディアスはムッとする。
「僕は女です」
ディアスがそう告げると男は大笑いをした。
「馬鹿を言え! 男にしてはひょろっとしているが、女にしては貧相過ぎるだろ!」
「…………」
カチン、ときたディアスは刀を抜いた。
「とっとと斬りますね」
ディアスは高速の移動術で男との距離を一気に詰めた。
「おい待て! まだ名乗ってすらいないだろ!」
「あなたの名前なんて聞きたくありません! 魔陰流攻法ノ一『ミナカミ』!!」
ディアスはオークの首すら落とせる威力の『ミナカミ』を男の胴体へ放った。
鎧ごと両断する…………はずだった。
「そんな軟弱な剣じゃ、俺の鎧は傷一つつかないぜ」
男の言った通りだ。
鎧は無傷で、代わりにディアスの手が痺れる。
まるで岩の壁に刀をぶつけた感覚だった。
「くっ…………!」
ディアスは一旦距離をとる。
油断はなかった。
ディアスは出来る限りの魔力を刀に込めて打ち込んだ。
しかし、相手は無傷だ。
「香のようにはいきませんよね」
香と比べて、ディアスは魔力の最大出力で遥かに劣る。
元々、魔法刀はジンブ人の特性を最大限に生かせるように作られているので、いくらディアスがドラズから魔陰流を学んでも限界があり、完全に使いこなすのは不可能だった。
ディアスに魔陰流の奥義までを教えたドラズは「西方の人間に魔陰流は合わない」という結論を出している。
「さて、きちんと名乗らせてもらおうか。七絶剣者が一人〝守護者〟ビシェットだ。運が悪かったな。俺の鎧は特別製で、俺の魔力を流すことでドワーフの扱う盾以上の強度を誇るんだ」
ビシェットの言葉は過言ではない。
ドワーフの村で暮らしていたディアスは、ドワーフと模擬戦をしたことが何度もあったが、その時に盾を叩き割ったことがある。
しかし、ビシェットの鎧は破壊できる気がしなかった。
「男ならもっと武骨な武器を使ったらどうだ?」
「だから、僕は女です! 別にいいですよ。鎧が破壊できなくたって…………」
ディアスの剣術には一撃の破壊力がない代わりに、香を凌ぐ速度と精細さがあった。
もう一度、ビシェットと距離を詰める。
そして、今度は容赦なく鎧で守られていない首を狙った。
「えっ?」
確かにディアスの刀は首を捕えた。
しかし、刀はビシェットの皮膚を傷付けることができなかった。
「これは俺の固有自然魔法『岩属性』の能力だ」
固有自然魔法は人によって異なる。
二つとして同じものは存在しない。
ビシェットの固有自然魔法は防御特化であり、ディアスとの相性は最悪だった。
「硬化した俺を傷付けられる奴はいない」
ビシェットの体と鎧が土色に変色する。
その色が徐々に変化し、最終的にはガラスのようなものがビシェットの体全体を覆った。
「金剛硬化、完了。さて、戦いの続きをしようか? 別に逃げて構わないぜ」
ビシェットは笑った。
ディアスは入ってきた通路を見る。
確かに防御力は高そうだが、俊敏性があるとは思えない。
全力で逃げれば、簡単に逃げられる気がした。
「駄目ですね。逃げるわけにはいかないんです。だって、僕はあなたの後ろの動力部を破壊しないといけないんですから」
ディアスは再び刀を構える。
「魔陰流奥義! 『カクブギョウ』!!」
ディアスは大攻勢に出る。
「うおお!?」
連撃を喰らったビシェットの体が押された。
「はぁ……はぁ……」
しかし、ディアスの大攻勢はビシェットを初期位置から数メートル動かしただけだった。
「凄い攻撃だな。ひょろい、って言ったのは訂正しよう。お前は中々、気骨のある男だ」
「だから僕は女だって何度言ったら……!?」
大技を繰り出したディアスは反動でふらつく。
「今度はこちらから行くぞ!」
ビシェットの攻撃は単純な拳の連打だった。
しかし、ディアスの剣撃で一切傷付かない硬度での打撃は一発が重い。
ディアスのダメージは簡単に防具を貫通した。
「くっ…………!」
ディアスは後ろに跳ねて距離を取る。
追撃に備えてディアスは体勢を立て直すが、ビシェットは止まっていた。
「お前、女だったのか?」
ビシェットは驚き、動きを止めていた。
「殴った時の感触で分かったぞ。男とは違う。そうだろ!? なんで黙っていた」
「だから、僕はずっと女だって言ってましたよね!?」
ディアスは怒鳴った。
ビシェットは少し考え、思い出したようにハッとした表情になる。
「そういえば、そうだった。すまん。いや、さすがにその見た目で女だとは言うのは冗談と思ったんだ」
「謝るか、馬鹿にするか、どっちかにしてくれますか!? 泣きますよ!」
ディアスは再び剣を構えたが、ビシェットは興味が失せたように溜息をつく。




