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レリアーナの気遣い

 リザと香はまだ寝ていた。


「ほら、起きて。やることやって、今日中に出発するんだから」


 二人を起こし、カード化していた食材からパンと燻製肉を取り出した。


「便利な収納魔法だな」

「レリアーナさんもどうぞ」

「いただく」


 食事の時、リザは無言だった。


「御馳走様…………」


 それどころか、パンと燻製肉を半分以上残した。


「リザ、それじゃ足りないでしょ。食べなよ」

「食欲ない…………」


 リザはベッドに戻り、毛布に包まってしまった。

 昨日、あれだけ泣いて切り替えが出来たと思ったが、そんなに甘くはなかったようだ。


「香、一つ、頼まれてくれるか?」

「なんですか?」

「俺とレリアーナさんで必要なものを買いに行ってくるから、リザの傍にいて欲しいんだ」

「大丈夫ですか。昨日の人たちにまた会うかもしれませんよ?」

「気を付けて買い物をしてくるよ。それにレリアーナさんがいれば大丈夫だと思う」

 レリアーナさんに視線を移す。


「私が責任を持って、ハヤテ君は守ろう」


「お願いしますね」

「無いと思うけど、万が一、ここに昨日の奴らが来たら、香の判断に任せる。全責任は俺が取るから」

「分かりました。気を付けて行ってきてください」


 俺はリザと出会って初めて別行動をする。


 正直、今の精神状態のリザを戦わせるのは酷だ。

 しかし、リザを置いていく方が危険である。

 俺には解決法が分からなかった。


「そういえば、、昨日は決まりやなんだで、私の意見を言っていなかったな」


 多分、初めてレリアーナさんの方から声を掛けられた。


「私、個人としてはリザ君は君と一緒にいた方が良いと思う。あの男たちが奴隷をどのような風に扱っているか、想像は出来るし、リザ君自身も君に懐いている。まったく、決まりと言うものは不便なものだな。そんなものがなければいい、思ってしまうことが私もある」


「気を使わせてしまってすいません」


「別に君の為じゃない。ハヤテ君に気を遣うのは私利私欲の為だよ。私にとっては、君たちが頼りなんだ。大切にするさ。とっと、買い物を終わらせて、この街を出発しようか。そうすれば、リザ君の気持ちだって、変わるかもしれない」

「そうですね。なるべく早く…………」


 もし、偶然なら最悪だ。


「よう、お兄さん」


 またドミードたちに出会った。


「…………」


「どうしたんだい。笑って笑って」


 ドミードは意地の悪い笑みを浮かべた。


「昨日、俺の仲間に絡んできた奴に対して、好意的にはなれないな。で、リザが奴隷であることは証明できたのか?」

 回答によっては強行も仕方ないと思った。


「まぁ、明日には結果が出るんじゃないか。今、嘘をついたことを認めるなら、お兄さんには何もしないぜ。まぁ、俺たちに余計な手を掛けさせた詫びは必要だと思うがな」


「詫び?」


「あの生意気な東方人をくれれば、勘弁してやる」


 多分、レリアーナさんに肩を叩かれなければ、俺はここでトラブルを起こしていただろう。


「ギルドの登録番号を教えてくれるかな?」

 レリアーナさんが言う。


「は? なんだ急に?」


「私の友人に不快な思いをさせた、とギルドに連絡をしようと思ってね」

「あんた、何者だよ?」


「昨日も名乗ったはずだが、私はロキア王国の騎士だ」


 それをドミードは舌打ちした。


「めんどくせ。まぁ、いいさ。どっちにしろ。明日には分かることだからな。いくら、騎士だからって、これは俺たちの問題だからな。口出しすんなよ」


「もちろん、リザ君が奴隷だったなんて、馬鹿げた話が本当だったら、君たちに謝罪しよう。そんなこと、ありえないことだな」


 レリアーナさんにここまで言われたドミードは退くしかなかった。


「ありがとうございます。でも、あんなことまで言ったら、レリアーナさんの立場が悪くなりませんか?」

 男たちの姿が完全に見えなくなってから、レリアーナさんに言う。


「いいんだ。あれくらい言わせてくれ。一時的かもしれないが、君たちとは仲間なのだからな。それに私としては、君たちに裏切られるかもしれない、と思われている方が嫌だ」


 やっぱり、この人は不器用だな、と思ってしまう。

 でも、嫌いじゃない。

 依頼主がレリアーナさんのような人で良かった。


 俺たちは急いで買い物を済ませる。

 ドミードの言っていたことが本当なら一刻も早くこの街を出たかった。


 宿舎に戻って来て、リザと香と会う前に俺は足を止めた。


 ドミードに会ったことは話さない。

 変に不安を増やしたくない。

 それは決定事項だ。

 でも、それを抜きにして、第一声は何が良い?


 帰ったよ、と普通に言うのか?

 大丈夫、と心配するのか?

 俺に任せろ、と宣言するのか?


 どれも正解とは思えない。

 どうすれば、リザが立ち直るか分からない。

 考えがまとまる前に俺は部屋のドアを開けてしまった。


「ハヤテ、ちょうど良かった!」


 いきなり、リザに詰め寄られた。

 表情は朝よりは明るかった。

 

 一体、何があったのか?


 聞く前に次は香が詰め寄ってくる。


「ハヤテ、私とリザちゃん、どっちが正室で、側室ですか!?」



「…………本当に何があった!!?」


読んで頂き、ありがとうございます。

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