出航
二日後、レンリスさんの言葉通り、砂漠の国から援軍がやって来た。
「これが新造航空船『レダンシーズ』さ」
まず驚いたのはその大きさだ。
俺たちが乗って来たヒューベリアの倍はあるだろうか。
さらに船が十隻が姿を現す。
「新造したのは『レダンシーズ』だけで他の船は元々あったものに新型の魔導浮遊機関を加えただけだが、連続飛行距離は格段に伸びたよ」
全ての船が着陸した。
「グレーシア将軍!」
よく通る声がし、獣人の指揮官が船から降りて来る。
獣人だったので、自然とライアンさんに視線を移したが、
「俺は知らないな。ということは以前から砂漠の国に属していた将軍だろう」
とライアンさんが言う。
見た目で犬っぽさがある男性は俺の元へやって来た。
「お久しぶりです。ハヤテ様」
そう言いながら、砂漠の国の形式で敬礼をする。
対して、俺は思わず映画やアニメで見た日本式の敬礼で返した。
それにしても久しぶり?
俺は目の前の四十くらいの男性のことを思い出すことを努力した。
「確か、タオグナ駐留軍の司令官の………」
「はい、ケフンガーです。覚えていて頂いて、光栄です!」
いや、名前までは憶えていなかった。
あの時はドタバタしていたし、俺はアンペンダープとの戦いで酷い怪我を負ったので、ゆっくり話す機会は無かった。
「やめなさい。ハヤテが困っているでしょ」
俺が困っているとパトラティアが助け舟を出してくれた。
「あっ、女王陛下、お久しぶりです! 子供は出来ましたか!?」
その言葉にパトラティアは焦り、顔を赤くした。
さらにそれを見たリスネやシャルたちが笑ったので、パトラティアは不機嫌な表情になる。
「おい、そんな奴に首都の防衛司令官をさせて大丈夫なのか?」
リザが遠慮のないことを言った。
「アンペンダープとの戦いの時は規模が違ったから指揮能力を十分には発揮できなかったけれど、指揮官としての才能だけは間違いないのよ。そう、指揮官としての能力だけはね」
パトラティアは皮肉を言ったつもりだったが、ケフンガーさんは、
「褒めて頂き、ありがとうございます!」
と元気に応えた。
パトラティアはさらに不機嫌になる。
まぁ、とにかく、パトラティアは人の能力を見定めることには長けているから信用できるだろう。
「それと私以外にも部隊の指揮を行える者を可能な限り連れてきました」
「そんなことをしていいのか? 砂漠の国が攻められたら、どうするつもりだ?」
と言いながら、ライアンさんが会話に参加する。
「国王陛下が南の大陸に敵はいない。だから、問題ない、おっしゃっていました」
「あれだけの事件を起こした我ら獣人連合をそこまで信頼してくれるのか。感謝する」
ライアンさんが頭を下げた。
「さて、あまり時間はないよ!」とレンリスさんが声を張った。
そうだった。
各部隊がレンリスさんの指示に従い、航空船に乗り込んでいく。
「ところで船酔いは大丈夫なんですか?」
香が言った。
彼女は、いや、ミストローンのメンバーは航空船での船酔いを体験している。
「新しい魔導浮遊装置は従来より揺れを押されられるからね。相当、弱くなければ船酔いは起きないよ」
「もっと早く欲しかったです」
香は苦笑する。
ディアス君も頷いていた。
ともかく、それなら兵士たちが船酔いで戦闘不能になることは無さそうだ。
俺たちミストローンのメンバー、『赤の魔術師』『勇獅子』、それから各部隊の指揮官はレダンシーズへ乗り込み、パルティリス城塞の詳細をエルメックさんから聞くことになった。
「パルティリス城塞は非常に堅固な城塞だ。岩山を切り崩して築城し、半円の形で岩山を背にしている。その為、四方を囲まれる心配はなく、防衛戦力を正面に集中させられる。さらに魔導砲やその他の迎撃兵器も充実しているの易々と落とされることは無い。ただし、それは十分な戦力が揃っていればの話だ」
エルメックさんはロドルフ第三王子の使者として来たノイエルさんへ視線を向けた。
「私がこちらへ向かう時には三千の兵が集まっておりました」
「三千。それは十分な兵力なんですか?」と俺がエルメックさんに質問すると、「不十分だ」と即答した。
「パルティリス城塞の機能を発揮する為には最低でも一万、交代や負傷を考えると二万の兵は必要だ。三千程度では要所の全てに兵を配置できないだろう」
だとしたら、厳しい戦いになる。
出来れば、戦闘が始める前に到着したい。
しかし、先にロキア王国内へ入っていた機巧人の尖兵から戦闘が開始したという報告が入る。
「間に合わなかったか…………千代、両軍の兵力は分かるかい?」
「防衛側約五千、攻撃側約四万」
千代が簡潔に教えてくれた。
「良く短時間でさらに二千も兵を集めたものじゃな」
とアイラが言う。
それは俺も思ったが、それでも戦力差八倍…………
盤石と言うにはほど遠い状況だ。




