表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

359/506

ヴィットロカの戦い④~『勇獅子』と『赤の魔術師』~

今回は三人称視点になっております。

ご了承ください。

「まさか、西方連合と正面から戦うことになるとはな」


 ワルダルが斧を振りながら言う。

 一振りで三人の兵士を両断した。


 それを見た西方連合の兵士たちは動きを止める。


「なんだ、こいつは!? 滅茶苦茶強いぞ!」

「そっちの飛び道具使いもだ!」


 西方連合の兵士たちは悲鳴に近い声を上げた。


 エドワーズは魔砲銃から『炎弾』を放ち、西方連合の部隊を攻撃する。

 エドワーズとワルダルの二人は肩を並べて戦っていた。


 他の『赤の魔術師』の面々も奮戦し、局地的な勝利を続ける。


「後悔しているかい。ワルダル?」とエドワーズ。

「いいや、人生の面白さにワクワクしているところだ」


 ワルダルは敵を倒しながら言う。


「ワルダルだって? まさか、ヨブン王国の最強の騎士団長、ワルダルか!?」


 西方連合の兵士が動揺する。

 今回の遠征軍は五か国から合同で兵力を出しているので、ヨブン王国の兵士も参加していた。

 当然、騎士時代に午前試合、決闘などで無敗だったワルダルのことは知っている。


「ほう、俺のことを知っているのか。どうだ? 名誉をくれてやるぞ。誰が名誉を受けるか? ワルダル・サンダーズに挑んだという名誉は?」


 ワルダルが一歩前に進むと敵部隊の全員が五歩下がった。


「まったく敵を前に退くとは情けない。こちらから行くぞ!」


 ワルダルが単身突っ込むと敵部隊は壊走してしまった。


「勝ち続けられるかはともかく今の所は押しているな。…………ところであいつらは大丈夫か?」


 ワルダルが見たのは『勇獅子』の戦場だ。


『赤の魔術師』が実力通りの戦果を挙げる中、『勇獅子』は苦戦をしていた。




「氷魔法『氷像斬連撃』!」


 ヒルデは西方連合の兵士を次々に斬りつける。

 彼女に斬られた兵士の体は凍り、砕け散る。

 

「おい、あの金髪の女を殺せ!」


「やらせません!」とシーク。

「当然です」とサルート。


 ヒルデの存在を危険視した西方連合の兵士が殺到するが、シークとサルートがそれを防ぐ。

 グルーノ、ガルド、メルアもそれぞれ奮戦していた。


 それでも『勇獅子』は苦戦していた。


 理由はオスカルとシュトルだ。

 勇獅子の双牙、純粋な戦闘力でヒルデ、シークの次点の強さを誇る二人が本調子ではない。


 いつもなら言葉を交わさずに連係をしているが、

「おい、オスカル、動きが遅いぞ!」

「お前が早すぎんだ!」

 今日は動きがチグハグしていた。


 二人は元騎士であり、対人戦闘も一流だ。


 それなのに今日は勇獅子の足を引っ張っている。


 リーダーであるヒルデは二人が本調子でないことに気付いてきたが、オスカルとシュトルを退かせるほど余裕はない。

 その為、有効な決断が出来ずに迷っていた。


「おい、二人とも狙われているぞ!」


 ヒルデが叫んだ。

 オスカルとシュトルは敵の魔法砲撃の標的にされていた。


「しまった」とオスカルが言うが、気付くのが遅すぎた。


 魔法砲撃が二人に迫る。


 オスカルはシュトルを庇うように彼女の前に立った。


「何を勝手なことをあんな攻撃、私の風で吹き飛ばしてやる」


「いいからお前は俺の後ろに…………」


 二人が言い合いをしている間にも砲撃は迫った。



「戦場で戦い以外のことを考えると死ぬぞ」



 突然の乱入者が現れる。

 その男は斧を振り、その風圧で魔法砲撃を跳ね返してしまった。

 跳ね返された魔法砲撃が西方連合の兵士たちを襲い、混乱する。


 そのおかげで一時的に敵の攻勢が弱くなった。


「ワルダル、余計なことを…………! あんたの方は大丈夫なのか?」

 オスカルが言う。


「さぁな、まぁ、うちのリーダーならどうにかするだろ。それにお前たちを助けに来たのはうちのリーダー命令だ。こうも言っていた。子供のことを考えながら、戦えるほど戦場は甘くない。そんな状態なら逃げろ、だとよ。俺はリーダーに言われるまで気付かなかったがな」


 ワルダルはシュトルを見ながら言った。


「エドワーズさんは気付いていたのか。…………オスカル、こんな時に言うべきことじゃないかもしれないが私は…………」


「妊娠しているんだろ」


 オスカルに言われて、シュトルは驚く。


「お前とは何年の付き合いだと思っているんだ? それぐらい気付ている」


「じゃあ、なんで止めなかったんだ?」


「お前は俺が言ったら、止まるのかよ?」


 オスカルが真っ直ぐにシュトルを見た。


「それは…………」と言いながら、シュトルは目を逸らす。


「俺が騎士を辞めた時、付いてくるな、と言ったのに聞かなかった。もっとまともな男を探せ、と言っても聞かなかった。お前はそんな奴だ。だからこそ、俺はお前が愛おしい」


「オスカル…………」


 ワルダルは二人のやり取りを聞いて、文句を言おうとしたが、その前に、



「迷惑な話だ。自分たちの情緒や感傷に周りを巻き込まないで欲しいね」



 エドワーズが辛辣な言葉を言いながら、合流する。

 他の『赤の魔術師』のメンバーも全員一緒だった。


「リーダー、そっちは片付いたのか。流石だな」


「私は働きたくないけどね。ヒルデちゃん、話は聞いていたかい?」


 エドワーズが言う。

 オスカルとシュトルが振り向くとヒルデとシークがいた。


「なんで言わなかったんだ!?」


 ヒルデは怒鳴った。


「迷惑をかけない自信があった…………」


 オスカルはらしくない小さい声で言う。


 ヒルデが言い返す前にエドワーズが、

「現に迷惑をかけている。二人は邪魔だからいなくなってくれ」


「別パーティのあなたが私たちに指図しないでくれますか。私とオスカルは…………」


 シュトルは途中で言葉を止めた。

 エドワーズに睨みつけられたからだ。


 普段のエドワーズとは違う威圧感があった。


「少しだけ私の方が人生経験を積んでいるつもりだ。で、その私からお節介を言わせてもらうと、君たちのせいで『勇獅子』は苦戦している。『勇獅子』が苦戦すると私たちやカーラー君の『銀狼』に負担がかかる。そうするとアンジェラさんの計算が狂ってしまうだろう。初めから君たちがいないなら、その前提で布陣を考えられたが、戦いが始まってからだと修正が難しい。君たちはそれを考えずに戦いに参加した。これは罪だと思わないかい?」


 エドワーズの言葉にオスカルとシュトルは黙ってしまう。

 ヒルデも何も言えなかった。


 ヒルデはこんなに辛辣なことを言うエドワーズを初めて見る。


「偉そうなことを言っている自覚はある。だけど、今は退いてくれ。君たちの為にも、ヒルデちゃんたちの為にも。オスカル、君も一緒だ。今の精神状態では冷静に戦えないだろう」


 オスカルは何か言い返そうとするが、シュトルに腕を引っ張られて押し黙った。

 そして、大きく息を吐く。


「分かった。俺とシュトルは退く。迷惑をかける。このことはいつか謝らせてくれ」

 オスカルは頭を下げた。


「私も言い過ぎた。オスカル、シュトル、それにヒルデちゃん、君たちのパーティのことに口を出したことは申し訳なかった」


 ヒルデは「いや、構わない」と言い、微笑んだ。


「さてとルタンス、君も魔力を使い過ぎたはずだ。二人を守りながら、退いてくれ」


「分かった。二人は責任もって私が守る。だから、エドワーズ、絶対に死ぬなよ。死んだら、私が許さないからな」


 ルタンスはエドワーズを抱き締めた。


「心配しないでくれ。私はこの戦いが終わったら、酒を飲んで自堕落な生活をしたいんだ。まだ死ねない」


 それを聞いたルタンスは笑った。

「そんな生活できると思うなよ。私が限界まで働かせてる」


 ルタンスはそう言い残し、オスカルとシュトルと一緒に前線を脱出する。


「いつになくやる気だな、リーダー」とワルダル。


「まったくこんなの私に主義じゃないんだけどね。ヒルデちゃん、というわけだ。共闘と行こうじゃないか」


 エドワーズは二丁の魔砲銃を構える。


「あなたが共に戦ってくれるなんて頼もしい。我々も全力で戦おう」


 ヒルデは剣を構えた。


「それにあの二人がいないから勇獅子が弱かったなどと言われたくありませんから」

 サルートが言う。


「やる気ですね、サルートさん」とシークが言うと「私はいつもやる気です」とサルートが返答した。


「さぁ、勝負はこれからだ!」


 ヒルデが叫んで、レイドアの二大パーティの共闘が始まった。

『赤の魔術師』と『勇獅子』は次々に敵部隊を撃退する。

 その勢いは凄まじく局地的ではあるが、多種族連結軍主翼の優勢を作り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ