ヴィットロカの戦い②~両翼の奮戦~
今回は三人称視点になっております。
ご了承ください。
多種族連結軍左翼、エルフ・ドワーフ連合勢の戦場。
「あれは威嚇のつもりか? まさか、本気の攻撃ではあるまいな」
グランドリーはあまりに粗末な攻撃に対して、罠の可能性を考える。
しかし、しばらくしても同じような攻撃が続くので敵が〝馬鹿〟だと判断した。
「シンシア指揮官、聞こえるか?」
グランドリーは機巧人を介して、後方のシンシアと連絡を取る。
十人の機巧人は各種族へ一人ずつ配置されている。
これにより、タイムラグの無い連携が可能になった。
『聞こえるよ』とシンシアはすぐに返答した。
「俺たちが壁になるから、エルフの矢を撃ち込んでやってくれ」
『了解した。あたしらの有効射程になったら、連絡するよ』
二人は通信を切った。
そして、グランドリーは全体へ前進を命じる。
相変わらず、砲撃は飛んでくるが一向に歩兵や騎兵が突撃してこない。
「まったく、八万とはいえ、臆病者の集まりか?」
グランドリーは戦い甲斐の無い相手に溜息をついた。
しばらくすると今度はシンシアから通信が入る。
『もう十分だよ。初めていいかい?』
「ああ、頼む。一斉砲撃後、俺たちが突撃する。構わないか?」
『了解した』
「不思議なものだな」
グランドリーは笑った。
『どうしたんだい?』とシンシアは不思議そうな声になった。
「まさか、エルフに背中を見せて、戦う日が来るとはな」
『それには同感だね。まさかドワーフの背中を見て戦う時が来るなんてね。千年、生きていても思わなかった。敵なら恐ろしいが、味方になるとこれほど頼もしい種族もあまりいないね。…………長話は今日の夜、酒を飲みながらにしようか。それじゃ、始めるよ』
シンシアが通信を切った直後、エルフ勢から一斉に魔法付与の矢が放たれる。
一斉掃射は凄まじい音と共に西方連合の右翼を襲った。
「さて、敵の陣地に穴が開いたぞ。突撃だ!」
ドワーフは足が短くて、普通の馬には乗れない。
代わりに力と体幹が異常に強い。
その為、ドワーフは気性の荒い魔猪を乗りこなすことが出来る。
普通の馬より突破力のある魔猪の一斉突撃が西方連合の右翼を襲った。
「突撃だ! 突撃! 敵を蹴散らせ!」
グランドリーは最前線で斧を振る。
一撃で複数の兵士を両断した。
「さすがですね」
別のドワーフ兵がグランドリーを賞賛するが、彼は苦笑し、
「俺などまだまだだ。あの人に比べたらな」
グランドリーの視線の先にはドラズがいた。
ドラズの周りには敵も味方もいない。
敵だった死体が無数に倒れている。
「なんだい、もう終わりかい?」
「ば、化物だ…………」
西方連合の兵士の顔は真っ青だった。
ドラズは再び斧を構える。
挑む者はいない。
西方連合の兵士たちは我先にと逃げた。
「まったく情けないね。あたしの知っている人間たちはこんなに弱くないよ」
西方連合軍右翼は総崩れし、敗走する。
多種族連結軍右翼、竜人勢の戦場。
多種族連結軍の左翼が交戦状態へ突入した頃、竜人勢も戦闘を開始しようとしていた。
「みんな、戦いの前に言っておきたいことがあるっす。ハヤテさんやエルメックさん、それにレイドアの冒険者には仲間を殺された。それは事実っす」
ゼルはそんなことを話し始めた。
竜人たちは静かに聞く。
「でも、ハヤテさんには竜人の未来を守ってもらったっす。戦奴のように扱われていた俺らを解放してくれたっす。。その後にはわざわざ会いに来てくれた。俺はハヤテさんのことを古くからの友人のように思っているっす。それにあのアイラちゃんが恋をする相手っすから。アイラちゃんが人に懐くなんて、大事件っすよ」
それを聞いた竜人たちは笑った。
「ハヤテさんは只者じゃないっすよ。仲良くしていれば、俺たちの為になるっす。………………」
ゼルは真剣な表情になる。
「いいか! 俺たちこの戦いでハヤテさんに恩を返す! 竜人族の力、思う存分、見せるぞ!!」
ゼルの一喝に対して、竜人たちは叫んだ。
「前進せよ!」
ゼルが命じると竜人たちは走り出した。
その速度は騎兵並みに速い。
西方連合の左翼から魔法砲撃が飛んでくる。
「前衛部隊、『竜圏』を発動せよ!」
ゼルの言葉で最前線の竜人たちが遠距離攻撃を防ぐ『竜圏』を発動させる。
『竜圏』の防御力頼りに竜人勢は強引に距離を詰めた。
「よし、竜圏を解除し、竜弾の一斉掃射を開始せよ!」
命令はすぐに実行され、西方連合の左翼へ無数の竜弾が撃ち込まれる。
大陸最強と言われた竜人族の圧倒的な攻撃力を遺憾なく発揮する。
まともな陣形も組んでいなかった西方連合軍左翼には為す術がない。
交戦開始からあっという間に劣勢に陥る。
竜人勢は攻撃の手を緩めなかった。
特にゼルが直接する最精鋭の百人隊は凄まじい戦果を挙げる。
多種族連結軍の両翼は西方連合軍を圧倒していた。




